1:現実は小説よりも奇なり?3
この度はぶれいぶすとーりー! 1:現実は小説よりも奇なり?3
を読んでいただきありがとうございます。
車椅子に乗った女性は国を治める統治者だと名乗り、そば付きの燕尾服のご老人のことをイルビルと紹介した。
イルビルは主であるサース・アルドの紹介に合わせ一歩前に出て軽く会釈をし下がる。
ただそれだけのこなれた動作から、主に仕え続けてきたであろうご老人の人生が透けて見えるようだった。
一連の動作に孝弘は、執事って実在するんだな~。と、なんとも浅い感想が浮かんだ。
こちらの挨拶は終えました、と言わんがばかりに女性は静かに微笑んでいた。それに気がついた孝弘は、小さな咳払いをし浅い感想を頭から拭った。
「…。あ、あぁ。すみません、俺は佐藤孝弘。こっちは因幡鵜鷺です。先程は救っていただき助かりました」
基本的に人から好印象を抱かれるように振る舞う鵜鷺が、無愛想に小さくぺこっと会釈にも満たないぐらいの挨拶をするだけに止まった。
孝弘としては、それが小骨が喉に刺さったぐらいの小さな違和感を残した。
「…そうですか。立ち話もなんですからどうぞ中へ」
サース・アルドはそう告げてイルビルに車椅子を押され屋敷の中へと入っていく。
孝弘はノーザン・アルドに対し色々な印象を受けた。一つ一つの動作が支配者然としていて、しかして嫌味という訳ではない。さしず生粋の上流階級というところか。
今のところ孝弘はサース・アルドに対して、嫌な印象や危険とはあまり感じない。
むしろ貴族然とした態度に心地よさや有るべき所に物が収まっているようなしっくり感のような感じを抱いている。
しかし、鵜鷺の妙な勘というか感覚に何度か助けられたこともある。
つまるところ鵜鷺を信用するなら、先程の妙な反応がどうにもひっかかる。
自分の感覚か鵜鷺の勘か。どちらを信じるかは決まっていた。
「…行こうか」
「うん…!」
サース・アルド邸宅にはイルビルの他に数人の使用人か働いている。
イルビルとは別の燕尾服の使用人が、2人を案内する。
違和感どころか異変だった。
サース・アルドとイルビルに少し遅れ2人は屋敷に入った。だがしかし姿形を見失うほど遅くは無かった。
しかし実際には屋敷に入る瞬間は見ていたはずなのだが、そのあとがどうにもあやふやなのだ。
2人は確かに屋敷の扉をくぐって行ったはずなのにだ。
「…ドラゴンに魔法?なのか?…よくわからんが。非現実存在に対して異世界ファンタジーって例えただけなのにな…。嫌な現実だな」
サース・アルドの私室に案内されながら孝弘は1人妄想していた。
少しでもいい、ドラ○エみたいなRPGやファンタジー小説、アニメ、映画なんでもいい。そんな冒険ファンタジーをイメージしたときに、剣や魔法で戦う冒険者がいて。ドラゴンや魔物、精霊のような存在とかがいて。
魔王とか呼ばれる存在がいて、魔物を産み出してたりとか。
そして、ゆくゆくは勇者が現れ魔王討伐でもするのか?と、一人妄想にふけていた。
というか、非現実感が全くぬぐえない状況のまま今に至る。という訳で思考放棄というか、現実を見据える気力が湧いてこなかった。
「…とまぁ、魔王様が復活直前で崩壊まで秒読みでございます」
サース・アルドの私室に案内され、豪華なソファーに座らされた。そしてイルビルに茶をだされて約五分後の今。
地理的に迷い人が来やすい草原だからこそサース・アルド邸があるとか。魔法や剣で戦う冒険者がいるとか。極めつけに魔王復活直前と来たもんだ。
こうして孝弘達の現状を俯瞰的に見る事のできる人間に話を聞いた。
そして妄想が今の状況を見据えるものに成っていたという、ある種の皮肉に孝弘はひきつった笑みを浮かべていた。
「…。うまい…。ありがとうございます」
猫舌孝弘でも飲み頃温度の紅茶に角砂糖を二粒。それに口をつけた後、説明してくれたサース・アルドに礼を言った。
上品な香りと少し甘口めの紅茶で頭に栄養をまわしてから一考する。
えー現状をまとめると、魔王が復活しそうでほっといても半年もすれば世界は滅びる。そしてもとの世界に帰る方法もなし。
幸いなぜか言葉は通じているが、行く宛もなければ身寄りもない。
詰んでないか?
「…。しばらく私の屋敷に滞在されてはいかがですか?これからの行動指針や現状を受け入れたりと、お時間も必要だと思われますので」
鵜鷺にそれでいいかと目配せをし頷いたのを確認した。
「すみません。では、しばらくご厄介になります」
「では、2部屋御用意いたしましょう」
「いえ、1部屋で構いません。見ての通り鵜鷺は俺からあまり離れられないので」
「…お熱いですね。かしこまりました、1部屋御用意いたします」
嘘である。確かに鵜鷺はあまり孝弘から離れようとはしたいだけでいくらでも離れられる。
あえてずっと屋敷に入る少し前からずっと、鵜鷺をエスコートするように腕を組み続けていた。
鵜鷺は危険だと孝弘に伝えていた。ならば孝弘は鵜鷺を信じる。
そして見逃さなかった。俺じゃなかったら見逃しちゃうねって言いたくなるぐらいの一瞬、サース・アルドの表情がわずかに冷め、会話に空白ができたことを。
部屋に案内され、会話の途中ぐらいから体調が悪くなっていた鵜鷺を寝かせた。
元来の卑屈で後ろ向きな性格かそれとも鵜鷺の近くにいたせいで視線にさらされ続けたせいか。
孝弘は相手の考えを視線から読んだりわずかな変調や仕草から情報を得るとか、そういう人間観察や人読みといった類いが得意になってしまっていた。
逆に鵜鷺は、見られていてもいなくても孝弘しか見ていないから気にならないという図太さを持っていたりするが、人読みとかそういのが苦手なわけでもない。
よく将棋やチェス、オセロ、対戦ゲーといった二人でできる遊びをしたが、特に孝弘に対しては無類の強さだった。
孝弘ラブを極めすぎて、孝弘より孝弘のことを知ってるまである。
しかし負けず嫌いなためいくらラブでも手を抜くことはないが。
思考が脱線しそうになった所で、今は寝ている鵜鷺の頭を撫でる。
熱が出て大分汗をかいていた。
着の身着のまま来たため制服にエプロン姿だった鵜鷺のエプロンを脱がし、制服のボタンを少し開けてやる。
少しだけ胸元が開き豊かな双房が目に入るが、病人に欲情する趣味はない。
エプロンの裾を切り、近く有った水瓶に浸し軽く絞ったもので顔や首筋の汗を拭ってやる。
さて困り事も増えてしまった。
鵜鷺の体調不良にサース・アルドも純粋に味方という訳ではなさそう。
味方や敵という区別で物事を判断するのは少し変な感じではあるが、鵜鷺の勘とその色眼鏡をかけた孝弘には、少なくとも完全に向こうが善意で孝弘達を泊めてはいないだろうと判断せざるおえなかった。
必ず打算があるはず。
鵜鷺の体調不良にいち早く気づいたからこそ、早く眠らせてやりたい一心で会話をぶち切る様に、きっぱりと断りを入れたこともよくなかったかもしれない。
あれで警戒している事もばれてしまったかもしれない。
鵜鷺の体調不良も気づかれる訳にはいかないかもしれない。
孝弘の頭に色々な良くない想像が駆け巡った。
後書きですよ後書き!
どうもこんばんはなつみんです。
一応これで一話目というか起承転結の起の中でも起ぐらいが終わったイメージですかね?
まぁー、次が承かどうかは微妙ではありんすが。
とまぁ、再びになりますが読んでいただきありがとうございます!
次話ですね、2:因幡鵜鷺でお逢いできたらと思います。
なるべく早く投稿しようとは思いますので、お待ちいただければ幸いです。