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8 農場

「スープをこぼさないようにそーっとアパートに持って帰って、テーブルがないからベッドに腰かけて順番に食べるの」

「順番って?」

「ウチにはスプーンが1つしかなかったから。父さんと母さんはまたすぐに仕事に行かなきゃならないから先に食べるんだけど、

私は待ちきれなくて手で食べようとしてよく怒られたわ」

僕は手で強化スープを食べようとする小さいニーナを想像して笑ってしまったけど、それは人数分のスプーンすら買えないということだ。


「それから、年によって午前クラスだったり午後クラスだったり夕方クラスだったりしたけど、学校に行って、帰ってきたらまた暗くなるまで内職を手伝うの」

「ジェイミィ、やっぱりこんな話面白くない?」

ニーナが首をかしげる。

「いや、興味深いよ」

「そう?だって難しい顔をしてる」

「だって、あんまりひどい暮らしだから」

「私はその時はそんな風には思っていなかったわ。だってそれしか知らないから、そんなもんだと思ってたもん」


そう言われれば僕だって中流階級以外の人たちの暮らしなんて知らないからそう思っていたんだ。


「あ、でも楽しいことだってあったのよ。上の姉さんが仕事を始めたときには最初の給料で私に飴を買ってくれたの。赤と黄色と緑色の飴が1粒づつ小さい袋に入ってるやつ」

それなら僕も小さいころ食べた記憶がある。

「私はそれを1個だけ食べてあとの2つを両親にあげようとしたけど『ニナが食べなさい』と言われて、でももったいなくてベッドの下に隠していたの。ところがしばらくたって見てみたら飴が溶けちゃってて」

「それは楽しい思い出なの?」

「そのあと溶けた飴でベタベタになったシーツを洗濯したのは楽しくなかったわね」

「……」


「で、私が中学校を卒業するのとほとんど同時に下の姉さんが18歳になって結婚したから、私は家を出て寮のある農場へ働きに行くことにしたの。

そうすれば両親は一回り狭い部屋に移って家賃が安くなるし」

「うん」


「そこで初めて温かい強化スープを食べたの。美味しかったわー」

「アパートにはコンロがなかったんだね」

「うん、火事を出すから、って」

中流階級では、缶に入って売ってる強化スープは鍋に移して電気のコンロで温めて食べるのが一般的だ。

両親がいないときは兄と2人で、または自分一人で温めたことがあるから知っている。

缶を開けたばかりの冷たい強化スープには白い脂が固まってところどころに浮いていて、とてもじゃないけどそのまま食べたいシロモノではないんだ。


「でね、冬だけだったけど、シャワーでお湯が使えたの。1日16時間働いていたけど、ここはなんていい所なんだろうって思った」

ニーナは続けるけど、貧民窟のアパートでは冬でもお湯が使えないということか。


「昼間の明るい間は農場で働いて、夜暗くなってからは隣のもやし工場で働いて、」

「もやしってなあに?」

僕はニーナの話を遮る。

「えっと、白くてなんかひよひよした野菜。これぐらいの長さで」

と指で長さを示す。

「細くってもしゃもしゃしてる」

「見たことないや。それを工場で作っているの?」

「あー、もやしって日持ちがしないから近場でしか売っていないのかも。まあ私も食べたことはないけど。で、もやしは工場で作るのよ」

僕にはちょっと想像できなかったけれど。

「じゃあ小麦も工場で作ればいいのに」そう言うと、

「出来るんならもう作ってるんじゃないの?その方が少ない土地でたくさん作れそうだけど、出来ないから畑で作ってるんじゃないかしら」


「ああ、そっかぁ」

僕がそう言うとニーナはちょっとだけ得意そうな顔をして僕はそれがかわいいなと思う。


「1日に16時間働いても寮費を払うとほとんど手元には残らなかったけど、私はその生活に満足していたの。でもちょうど1年たったころ、

新しくカルラという子が入ってきたわ。そして私と同室になったんだけど、カルラはこの間まで中流階級だったの」

ニーナは話を切って気の抜けかけたコーラを一口飲んだ。

「コーラとか、いつでも飲めるような中流階級だったはずなんだけど、カルラの両親が2番目の弟を生んでしまったから。

カルラの両親は財産を没収されて貧民窟へ、カルラはもうすぐ行くはずだった高校へ行くことが出来なくなって農場に来たんだって」

それはヒドイ、と言うことが僕にはできなかった。カルラの両親が何を考えていたのかはわからないけれど、

ヒドイとか言ってしまうとニーナの両親とニーナ本人を否定することになると思ったから。

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