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7 貧民窟

「ニーナの話をもっと聞かせて」僕はニーナの外見だけじゃなく、彼女に興味を持った。

「貧民窟の話なんか聞いても面白くないと思うわ」と言うニーナに

「貧民窟の話じゃなくてニーナの話を聞きたい。もっとニーナのことが知りたいんだ」と言うと、

「そんなことを言われたのは初めてよ」と感動された。

僕はだんだんとチャラく軽くなっていくようだ。


「何から話せばいいのかよくわからないけど」ニーナはそう言うと、さっき入れてきたコーラを一口飲んでびっくりした顔をする。


「コーラを飲んだの、初めてなの」

そういえば彼女は本物パンを食べたのも初めてだと言ってたな、知識としては知っていたつもりだったけど、貧民窟の生活は僕が思っていた以上に厳しいものだったようだ。


「私は中学校を卒業するまで貧民窟のアパートの46階で両親と2人の姉と暮らしていたの。

そこにはトイレとシャワールーム、ベッドは3つ。両親のベッドと子供用に2段ベッドが1組」

「え、でも子供は3人なんじゃあ?」

「だって3人目の子供は生まれてはいけない子供だもの。だから私は、上の姉さんが結婚して家を出ていくまで下の姉さんと同じベッドで寝ていたわ」

それを聞いて僕は言葉を失う。

「それって、なんというか窮屈そうだね」

「冬は暖かくていいわよ」

ニーナはあっけらかんとそう言うけれど。


「それでね、朝は夜が明けたらすぐに起きる。電気代がもったいないから夜は早く寝るからそれは平気。起きたら、内職を手伝うのよ。

内職は母さんがやってることになってたけど、1日16時間外で働いていたから実際は私たち姉妹がやっていたんだけどね」

「内職なら僕が小さいときは僕の母さんもやってたよ。なんか工場で働いている人達の作業服にネームをミシンで刺繍するやつ」

「さすが、技術者階級は違うわね」

「えっと、ミシンはレンタルだったと思うけど」

「貧民窟の住人にはそんなの貸してもらえないわ。特に子供が3人いれば。私たちはルールを破った人間だから」

でも!僕はそう言いそうになって何も言えないことに気付く。

ルール違反をした人は不利益を被っても仕方がないとみんながそう思っている。当事者でさえもだ。


僕は大人しくニーナの話の続きを聞くことにした。


「工場で働いている人の作業服関係でやったのはボタン付けね。いろいろやったけど、私が小さいときは鉛筆の箱詰めとかやってたわ。

小さい箱を組み立てて、鉛筆を12本づつ向きをそろえて詰めていくの。で、鉛筆ってどうして12本セットなんだろ?」

「さあ、考えたことなかった」

僕はそう答えながら、鉛筆の箱詰めでどれぐらいの賃金がもらえるんだろう?と考える。ほんのわずかで、その上とてつもなく税率が高いんだ。


「朝食の時間になるとみんなで配給所に行くの。

私たちみたいに子供が3人いるウチには、1日に1人あたり強化スープ2缶と合成パン3個、あと水を2リットル支給されるんだけどその度に配給所に行くのよ。

同じ貧民窟に住んでいても子供が2人のところはそれを買わなきゃならない。その分税金が安いらしいけど」


「長い行列に並んで、合成パンと強化スープの缶を受け取って、あ、スープの缶もそこであけてもらうんだけど」

「待って、缶を開けてもらうってどういうこと?」

「私たちは缶切りを持つことが許されていないから。他人を傷つけるかもしれないからって」

僕は中流階級向けの自分のアパートにあった缶切りを思い出す。あんなものでどうやって人を傷付けることができるというんだろう。


窓の外はようやく夕焼けが終わるのか、暗くなり始めていた。

僕はカーテンを閉めて部屋の明かりをつけた。

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