30 趣味
「じゃあなぜ横になってたの?」
ファリィの顔色は別に悪いわけじゃない、と安心しながらも聞いてみる。
ここのリビングには他に椅子なんかないから、ファリィは起き上がってソファに僕も座れるスペースを空けてくれた。
「そうね、どう説明したらいいのか」
ファリィは自分で「話聞いてる?」とか言ったくせになんだか話にくそうだったけど。
「あー、なんていうか、趣味なの。だらだらするのが」
なんだそりゃ。
「映画を見るのが好きな人は2時間あれば映画を1本見ようって思うだろうし、紙の本の小説を読むのが趣味だという人は30分あれば続きを読もうと思うでしょ。
それと同じでだらだらごろごろするのが趣味なの」
それは趣味なのか?そりゃあ僕だって高校生の時みたいに4時間授業を受けた後に荷物運びのアルバイトを8時間やって帰ってきたらちょっと休みたいとは思うだろうけど、それは疲れたということじゃないのかなあ。
映画が好きな人が2時間あったら映画を見ようと思うでしょ、というのはわかるけど。
「なんて言うか、変わった趣味だね」
「だからお昼ご飯の後午後の作業開始までに時間があるから私はここでだらだらしていただけ」
そのわりにはちゃっかり毛布まで持ち出して被っていたけど、今日は太陽が昇らない日だし、じっとしていたら室内でもまあまあ寒い。
「うーん」
黙ってしまった僕にファリィは
「心配してくれてありがとう」
そう言った。
「いや、びっくりしただけだよ」
横になっているファリィを見て僕はちょっとびっくりしたけど、誰かに迷惑をかけているわけでもないし、映画や貸本みたいにお金もかからない。
だったら別に問題はないよね?あ、でも。
「この惑星での労働は8時間と短いし楽だけど、そんなのじゃあ故郷の惑星に帰った時にしんどくない?」
そう聞いてみた。
「それは大丈夫。私はだらだらする時間を買うためにB計画に参加したんだから」
どういうこと?わかるように説明して欲しい。
「故郷の惑星に帰ったら、みんな12時間ぐらい働かなきゃならないでしょ。でも参加報酬の500万コインがあったら、それをちょっとづつ使ったら1日11時間か10時間で済むじゃない。で、その働かずに済む時間でだらだらしたいの」
「それってなんかもったいなくない?」
「どうして?好きなことをする時間を買うようなものだと思うけど。ジェイミィだって映画を見るのが好きな人に『映画なんてお金がかかるからもったいない』とは言わないでしょ」
うーん、なんだか納得させられそうになったけど、それとこれはちょっと違う気がする。うまく言えないのがもどかしい。
まあ僕だって最初は参加報酬でちょっと贅沢をしたいと思ったこともあるけどそれは本物ベーコンを食べるとか最新型の電気ストーブを買うとかそんなことで、それはファリィの言ってる事とは違う。と思う。思いたいのかな?
「あのさ、500万コインで専門学校に行って技術者階級になろうとかは考えないの?技術者階級なら同じ10時間働いても中流階級よりずいぶん給料がいいんだから、のんびりする時間だって取れると思うよ」
「えー、技術者階級の仕事ってたいへんじゃない。責任だって重いし」
「どんな仕事だって大変だし責任があると思うけど」
「中流階級の人が工場で何かを作っていたとして、そこでミスをしても材料が無駄になった、ぐらいで済むけど、看護師や運転手がミスをしたら人の生死に係わることだってあるかも。そういうプレッシャーはイヤなんだけど。それに技術者階級向けのアパートは家賃も高いし子供の学費だって貯めなきゃならないから12時間ぐらい働く必要があるのは同じ」
そう言われて僕は反論できない。
そうこうするうちに
「そろそろ時間だから作業に行かなくっちゃ」
ファリィは立ち上がって毛布を片付ける。
だらだらするのは好きだけど、サボるつもりはないらしい。




