29 一人の夜
つつがなく任務を遂行した後ファリィは眠ってしまった。
僕はファリィの横でなんだか取り残されたような気分になって眠れないでいる。
いや、眠れなくて当然か。まだけっこう早い時間のはずだ。
この時間に受験勉強をすればいい、と起き出してリビングに来たものの僕はノートを広げる気にはなれずにTVをつけた。
コテージの寝室は故郷の惑星の中流階級向けのアパートなんかよりはよほど防音がしっかりしているはずだけど小さい音量で。
ドラマと音楽番組はパスするとして、教養番組という気分でもないな。なにかこう、何も考えずに見られるものがいい。
ライブラリにある古い映画は恋愛ものがほとんどだけどその中にどう考えても恋愛ものではなさそうなタイトルを見つけた。
それは昔々、まだ人類が絶滅しそうになる前の食べ物の話だった。
今僕たちはほとんど何も考えずに1日3個の合成パンと2缶の強化スープを食べている。それはまあ高くはない値段で手に入るから、それはとてもありがたい事なんだけれど。
その映画に出てくる食材は色とりどりで見たことがないものも多くて僕にわかるのはオレンジとベーコンぐらいだ。
うらやましいと思うけどでもそのころは各家庭でイチから食事を作っていたらしい。ということはどこの家にも包丁とかまな板とか当然ナベとコンロもあって、食材の状態から料理を1日3回? いやいやそれは非効率すぎるだろうと思う。
その映画には魚を料理するシーンもあって、魚はそれを料理している男のひじから先ぐらいのサイズで、意外と大きい。
ドクターのコテージで見た魚が小さかったから、これを食料にするということがイマイチピンとこなかったけれどこの大きさなら納得だ。あの水槽にいたのはまだ子供だったのかもしれないな。
以前に教養番組で見た魚の産卵の話はどうだっけ? 思い出せないから大きさとかには注意せずに見ていたのかも。
映画を1本見てもまだそんなに遅い時間ではなかったけれど、寒くなってきたので僕もファリィの隣にそっと滑り込んだ。
なんだかこの惑星、来たときよりも寒くなっているように思う。
次の朝は太陽が昇らない暗い朝だったけど、照れ隠しなのか誰もがいつもより饒舌になる、パートナーチェンジの日の次の朝特有のざわざわした朝だ。
僕はファリィともっと話がしたいと思ったけど、まあそれは今夜でもいいや、とその日の午前中はラボに行って大豆に水をやって成長記録を付ける。
今年は早めにレポートを仕上げたいなあと考えるけどなんだか最近大豆の成長速度が遅いようだ。寒いからだろうか?
温度を変えて実験したくてもここにそんな装置はない。まあ僕たちのしている作業なんて期待されているわけでもないだろうな。
昼食を終えて、作業時間はキッチリ決まっているわけではないけれど一応昼休みの時間に洗濯をしておこうと思って僕は自分のコテージに向かう。
今日は1日中太陽が昇らず暗いけれど、明日になったら物干し場が混みそうだし。
「えっ!」
コテージのリビングに続くドアを開けて僕は息をを飲んだ。
ファリィがぐったりとソファに横たわっていた。
「え、ちょっ、ファリィ!」
僕はファリィに駆け寄ってその額に手を当てる。うん、高熱というわけではなさそうだ。
「どこが痛いの?そうだ、ドクターを呼んでくるよ」
「待って、そうじゃないの」
玄関の方へ取って返そうとした僕の上着の裾をソファの上で上半身を起こしたファリィが捕まえた。
「別に熱があるわけでも怪我をしたとかでもどこかが痛いというんでもないから」
「え、でも」
「ジェイミィ、ちょっと落ち着いて」
「あ。疲れちゃった?だったら午後の作業を休ませてもらえるように」
「話を聞いてる?」
僕の上着の裾を掴んだままのファリィにじっとりした眼でにらまれた。




