24 パートナーチェンジ
何回かの夜が来て何回かの朝が来てパートナーチェンジの日がやってきた。
その日の朝も2人分のインスタントコーヒーを入れようとして、僕は錠剤みたいになっている合成甘味料をぽろっと落としてしまった。
「あっ」
という間もなくニーナがそれを拾って自分の分のマグカップに入れる。
僕はそれを見て固まってしまった。
それは、やってはいけないことだと教えてもらわなかったの?
あれは僕がまだ4歳か5歳のころだった。合成パンを床に落としてしまって、それを拾って食べようとした僕はこっぴどく母さんに怒られた。手の甲を叩かれて、泣きそうになって父さんの方を見た。母さんは細かいことでよく怒るけど父さんはめったに怒ったりしない。珍しく時間が合ったのか一緒のテーブルに着いていた父さんは
「床に置かれたものを食べるのは家畜だけだ」
そう言った。
「それは人としての尊厳を無くすことだ」
難しい言葉はわからなかったけれど、僕はそれ以来絶対にそういうことをしなかった。
でもニーナは。貧民窟で育つとそういうこともしないと生きていけなかったのだろうか?
僕の思いをよそにニーナはそのインスタントコーヒーを普通に飲んでいる。
朝食後はみんなそれぞれコテージに戻って掃除をしたりシーツの洗濯をしたりしたけれど、僕たちは掃除は手分けしてやったし、途中ニーナはヤギに餌をやりに行ったりして、特に何か話すわけでもなく、僕はニーナのことは好きだったけれどやっぱり結婚はないなと思う。どっちにしたって参加報酬をもらって故郷の惑星に帰って進学したってニーナは中流階級だし僕が大学へ行ったら階級が違いすぎる。そのことにちょっとほっとしている自分がいる。
夕食前、コテージはもうすっかり片付いてベッドのシーツも洗濯したての物に取り換えて、自分のバスケットを持って食堂へ行こうという間際になって、僕はようやくニーナに言えた。
「この1か月、ニーナと一緒で楽しかった」
ニーナはそれを聞いて、今にも涙がこぼれ落ちそうな瞳でなにか言おうとしたけど僕はそれを遮るようにニーナをハグした。
それが僕にできる精いっぱいだった。ニーナの唇に触れようとして、急に今朝の光景がよみがえったから。僕は潔癖症とかではなかったはずなんだけど。
なんとなく浮ついた空気の夕食が済んで、みんな気になる人に声をかけたりかけられたりざわざわした中で僕は「どうせ全員にあたるんだから今焦っても意味ないよね」と1人醒めていた。多分今朝の出来事を引きずっている。僕はニーナのことを嫌いになりたくないと思う。
と、そんな中で誰に声をかけられるでもなく所在無げに座っている女の子が目についた。彼女は、アルマだったかな?
僕は彼女が誰にも声をかけられないのがかわいそうな気がして
「やあ、アルマ、だったよね」
声をかけた。まあ僕も誰にも声をかけられてはいないんだけど。
「もしよかったら」
「いいわよ。全員に1回は当たるんだから誰でも」
僕もそう考えてはいたんだけど、もうちょっと違う言い方をしてくれたほうが嬉しかったな。
そして僕たちは11番という番号が書かれた鍵を受け取ってコテージに向かった。




