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21 闇そして

※残酷描写があります。


羊水検査のルールを聞いて、厳しいなあとは思うけどどこかでしょうがないんじゃないか、とも思っていた。少しの問題で淘汰される人に同情はしてもその人たちのために税率が上がるのはやっぱり無理だから。


「そしてこれは私の言い訳なんだけど」

ドクターの話は続く。

「強制堕胎はね、まず患者を手術台に縛り付けるところから始まるんだ。強制堕胎では麻酔が使えないから」

「え、僕は子供のころ階段から落ちて頭を切った時、病院で麻酔をしてから縫ってもらったけど」

「そういうのに使うのとは量が違うからね。麻酔薬は高いし。それにそういう子供を妊娠してしまった人に対する懲戒の意味があると」

「問題のある子供を妊娠するのは母親のせいなんですか?」

僕は思わずドクターの言葉を遮った。

「何回も繰り返す人がいるのも確かだけど、必ずしもそうではないと思うよ」

「だったら『懲戒』って……びどくないですか?」

「そういうことにしておいたほうが都合がいいから。なんだろうね」

誰の都合だよ?と思う。僕にはもちろん子宮なんかないけど下腹のあたりがきゅうっと痛くなるような気がした。

「1人分の麻酔薬を作るののかかる金額と、1000人分の飲料水を浄化する金額は同じなんだ。もし飲料水が今の2倍の値段になったらみんな黙ってはいないだろ?でも強制堕胎で麻酔が使えなくてもそれは自分が悪いと思い込んでいたらそれを誰にも言わないから問題が表に出ない」

でも。だからって。

「あの、麻酔なして堕胎手術とかして大丈夫なんですか?」

僕は気になって聞いてみた。

「痛みで気絶できた人は幸せだよ」

それ、全然大丈夫じゃないじゃん。


「けどね、一番の問題は羊水検査で異常が見抜けなかったときだろうね。生まれてすぐにわかったら、死んで生まれたことにすることもできるけど」

それはやっちゃダメなやつ、というか表に出しちゃいけない話だ。

「死んでから生まれたのならもう1人子供を産むこともできるけど、生まれてから死んだのではそれはできないし、子供が1人だといろいろイヤなことを言われたりするだろう?ラクしてるとかなんとかさ。ラクなわけないのにね」

「もし羊水検査でもわからなくて、生まれてすぐにもわからなくて、それでも問題があった時はどうなるんですか?」

普通に生きていけるんだろうか?でも街でそういう人を見かけたことはない。青い風の星で出会ったヤコブは足を引きずりながらも普通に働いていたけどあれは怪我のせいだし。

「そういう場合は就学前テストで引っ掛かるよ。小学校に上がる前にテストを受けさせられたのを覚えていない?」

僕は子供のころのことを思い出してみようとした。えーっと、あれのことかな?

「なんか絵を見せられてどっちが大きいとか、1人で椅子に座って呼ばれるまで待つとかやらされたやつかな?」

「そう、それだよ」

「あれで不合格になる子なんているんですか?もしいてもそれは母親の愛情不足なんでは?」

「それは、そういうことになっているんだけどね」

じゃあ本当は違うんだろうか?

「どういうわけか他人とコミュニケーションが取れない子供がいるんだ。就学前テストはそういう子供を見つけだすためにある」

「もしそれに合格しなかったら?」

「3年後にもう1回受けられるけど、その時に合格したら8歳から小学校で、中学を卒業するときには18歳になってしまうから独立しなきゃいけなくて高校に行けない、だから貧民窟に落ちることになる。3年後にも合格できなかったら学校に行けなくて職に就けないから一生親が面倒を見ることになって、アパートから出ずにひっそり暮らしていると思う。でもそうなると母親は家でできる内職しかできないし、子供を育てている最中の軽減税率も適用されなくて、でも食費はかかるしで結局貧民窟かな」

「僕はそんなことなにも知りませんでした」

「まあみんな普通は知らずに暮らしているよ。だけどそういう人を増やさないために羊水検査の基準をゆるめるわけにもいかないし、強制堕胎も行われる。私はそこから逃げ出したんだ」

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