20 闇
※残酷描写があります。
「私の両親はどちらも産科医で、18歳で結婚した相手も医者の娘で医者志望だった。両親は仕事から帰ってくると疲れてぐったりしているようなこともあったけどそれはよくあること、こんなもんだと思っていた。そして私も特に迷うことなく産科医になった」
「はい」
「産科医の仕事は大きく分けて3つ。出産の介助と羊水検査、羊水検査に合格しなかったときの強制堕胎。ジェイミィは羊水検査で合格できない確率ってどれぐらいかわかる?」
羊水検査の話は知識として知っているだけで、実際には聞いたことがないけど、ああ、ヤコブのようやく授かった子供が羊水検査に引っ掛かったと言っていたな、
「えっと、1%ぐらいですか?」
「今の不合格率は30%だよ」
「そんなに!生まれてきても生きられない子供はそんなに多いんですか?」
僕はびっくりした。
「そんなことはないんだ。本当に生まれてきても生きられないぐらいの問題を抱えた子供はほとんど羊水検査を待たずに自然に流れてしまう」
だったらどうして。
「例えば、そうだな、手の指が1本少ない子供が生まれたとしてその子は生きていけると思う?」
そう言われて僕は自分の手の指を1本、もう片方の手で隠してみる。
「不便なことはあるかもしれないけどそれぐらいなら生きていけないことはないんでしょうか?」
「うん。それから、赤と緑色が見分けれれない病気があるんだけど、その人は?」
赤と緑なんで全然違うからちょっと想像ができないけれど。
「手の指が1本なければ1日に何万回もキーを打つマーケットのレジ係は難しいかもしれない。赤と緑が見分けられないなら工場で商品チェックは厳しいかもしれない。でも逆なら問題はないと思わない?」
「確かに」
「でも今の羊水検査はそういう少しの問題でも全部不合格になってしまう」
「それぐらいならいいのに」
そういう僕にドクターは
「じゃあ腕が1本なかったら?」
「それだと荷物運びや掃除は難しいかも。あ、でも教師とかなら」
「技術者階級ならなんとかなっても下層階級なら難しいよね?それは不公平ではないの?もっと言えば両手両足が動かなかったら?そうなるとさすがに生きているだけで他人の介助が必要になる。どこに線を引くの?」
「……」
黙ってしまった僕にドクターは続ける。
「どこにも線が引けないから産科医は羊水検査と強制堕胎を続けるしかないんだ」
「本当に生まれても生きていけない子供は自然に流れてしまうと言いましたよね?ということは強制堕胎で闇の川の向こうに流される子供の大半は生まれても生きていけるということになるじゃないですか」
「うん、まあそうなんだけど」
「だとしたらひどい制度だと思います。全員を生かすという選択肢は?」
「今の社会にはその人たちを受け入れる余裕がない」
「そんな……」
「その人たちを受け入れるためには今以上に税率を上げる必要がある」
「それは……無理かも」
「あ、社会全体が豊かになればいいということ?だからドクターはB計画の仕事を?」
「そうだなあ、他の惑星に移民ができれば人類全体はもう少しラクになるだろうね。でもそれは建前の理由なんだ」
ということはそれ以外に本音の理由があるということだろうか。




