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16 ニーナ

そのあともう1本教養番組を見てから、僕の言葉に素直にニーナはシャワールームに向かう。

「今日はのぼせないでね」

という僕にニーナは

「わかってるわよ」

と言うから

「あ、一緒に入ろうか?」

と言ったら、

「ジェイミィのバカー」

とタオルが飛んできた。僕はそんなにおかしなことを言っただろうか?


どうして階級なんてものがあるんだろう?何もしていないと答えの出ないことをぐるぐると考えそうで、僕はもう1本教養番組を見ることにした。

それは人間の1万倍の嗅覚を持つという犬の能力の話だった。犬なんてずいぶん前に絶滅してしまったはずだけど。


僕がそんなことを考えている間に、ニーナはきっちり30分でシャワールームから出てきて、僕は入れ違いにシャワールームへ行く。

昨夜シャワールームから出てすぐに寒くなったのはどうやら溜めたお湯がぬるすぎたようなので、昨日よりはちょっとだけ熱めにしてみる。

肌にチリっとそた刺激があったのは最初だけでそのあとはお湯に押されるような感じが少しあるけど、芯から暖まるというのはこういうことなのか、と思う。

言葉として知っているだけで僕が経験したことがないということはまだたくさんある。


僕がタオルで髪を拭きながら水を飲んでリビングのソファに座ると、ニーナがぴったりと隣に座ってきた。

え、積極的だな、と思ったけど、どうもそれとは違うようで

「どうしたの?」

と聞くと、

「笑わないでね」

と前置きをしてから

「あのね。ここは人が少なすぎて淋しくなっちゃったの」

そう言った。

「そうなんだ。僕は故郷の惑星は人が多すぎて煩わしいと思うことはあったけど」

その発想はなかった。

「笑わないで。って言ったのに」

「いや、笑ってないよ」

横を向いてしまったニーナが身動きすると、シャンプーともボディソープとも違う何かがふと香った。

「いい匂いがする」

話題を変えるようにそう言った僕に

「これ、今朝ドクターがくれたの」

ニーナは小さいチューブに入ったハンドクリームを見せてくれた。

「私の手が荒れているからって、いい人ね」

改めてニーナの手を見るとその小さい手は、1日12時間マーケットのレジ係として働いている僕の母親の手よりもひどく荒れていた。

僕はニーナのことをまだなにも知らない。

「そっか、よかったね」

そう言ってニーナの手を取ると彼女はちょっと体を硬くする。


僕はなんだかニーナがかわいそうになったけど、任務を放棄するわけにもいかず、そっとニーナを寝室に誘った。


ニーナは緊張して、震えているようだったけど、

「大丈夫だから」

と声をかけ続けて、僕はニーナに優しくできたと思う。僕が2年目で、少しは余裕があってよかったと思った。


僕はニーナに腕枕をしながらもう一方の手でニーナの明るい色の髪を撫でる。

ニーナは僕の胸に縋り付いていたけれど、やがて顔をあげてこう言った。

「これで私も高校に行けるのよね」

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