15 テレビ
その日の午後は前任者の残した資料を読んで過ごした。
この惑星の海、いや淡水だから湖と言うべきなのか、その水の中には植物性のプランクトンがいるらしい。目に見えないほどの大きさで、昼間の日には光合成をしてこの惑星の酸素を作り出している。毒性などは確認されておらず、ここの施設の水道は「藻」と呼ばれているプランクトンをろ過しただけの水だ。
僕はラボにある顕微鏡で「藻」を見てみたかったけれど、明日みんなで海を見に行くという話だったな、その時に水を汲んでくればいいなと思い直した。
ニーナはヤギに餌をやりに行ったようだ。
夕食後、飲み物を持って2人でコテージに帰る。
ニーナは
「今日はこれにする」
とソーダを入れてきたけど、一口飲んで顔をしかめる。
「これは美味しくないわね。やっぱりコーラの方がよかった」
「これが好きな人もいるんだけど」
ニーナはイヤそうな顔をしながらもソーダを飲み干して
「コーラを入れてくる」
そう言って出ていく姿を見送りながら僕はいつもソーダを飲んでいたケイトのことを思い出していた、
あの人は大人で、気さくだったけど、あの雰囲気、なんていうんだっけ、ああ、「上品」っていうんだ。
実際にはそんな言葉、少ないことを揶揄して「お上品」とか、そんな言い方でしか使ったことがない。
ケイトは今も青い風の星で本物のガラスのグラスでソーダを飲んでいるのだろうか。
戻ってきたニーナに
「テレビ見る?」
と聞くと
「テレビ!見たいわ。ドラマも見れるの?」
予想以上の食いつきだった。
「農場の寮の食堂にはテレビがあったけど、ニュースと歌番組だけでドラマはかけてもらえなかったの。ドラマを見ると続きが気になって仕事をさぼるからって」
「え、なにそれ。ドラマなんてそんなに面白いとは思わないけど」
「私たちはね、信用されていないの」
ああ、またそこなのか。
「ジェイミィはドラマが好きじゃないのね。だったらおすすめはなに?」
「いや、まあ、ドラマには興味がなかったというだけだよ」
そう答えながらも僕はニーナが僕を理解しようとしてくれているようで嬉しかった。彼女は空気を読んだだけかもしれないけど。
結局僕たちは僕が選んだ「教養番組」の恐竜の話を見た。ニーナはヤギの世話をしているぐらいだから動物が好きなんじゃないかと思ったんだけど、その話の恐竜はけっこうグロテスクなCGで、僕はもうちょっとかわいい感じの、たとえばシロクマの話とかにすればよかったと後悔した。
それでもニーナはいつものように「すごーい」を連発することもなく、息をするのも忘れたように一心にテレビを見ていたから、まあこれでよかったのかな。
その番組が終わって、ニーナが
「これって気候変動より前に本当にいたのよね?」
と聞いてくるから
「そうだよ、中学校の授業でやらなかった?」
「えー、どうだったかな」
おかしいな、ニーナは数学以外は得意だったと言っていたはずなのに。
あ、そこで僕は気が付いてしまう。
技術者階級や上流階級の子供が通う高校では入試に向けた授業もやると誰かが言ってた。
それと同じように下層階級の中学校では中流階級の中学校と授業内容が違うのかもしれない。




