14 洗濯
僕は思いついて
「洗濯しに行こう」
とニーナを誘った。
ニーナが最初に着ていたパジャマは汗をかいて着替えたし、もう1組は昨夜着ていたから今夜着るものがないはずだ。
僕は洗濯はもう手慣れたものだったけど、ニーナがいるので一応洗濯機のフタの裏に書いてある使い方の説明を読むふりをする。
ニーナは
「すごーい。洗濯機って初めて見たわ」
と言う。
「僕は子供のころ1度アパートの屋上に行って見たことがあるよ。もちろんすぐに洗濯女に見つかって摘まみだされたけどね」
2人でぐるぐる回る洗濯機を眺めてから、脱水の終わった洗濯物を見てニーナがまた驚く。
「すごい、これならすぐに乾きそうね。手で絞るとこうはならないわ」
貧民窟では洗濯女に頼む余裕はないと思っていたけど。
「以前は洗濯はどうしてたの?」
と聞いてみる。
「シャワーを浴びるときに一緒に洗うのよ。最初は雫が落ちるからシャワールームに干して、それから部屋の中に干すの。あ、農場では寮の屋上ににちょっとだけ干すスペースがあったわ」
そう言いながらニーナは手際よく洗濯物を干していく。
僕は言葉を選びながら口にした。
「あのさ、ニーナが貧民窟出身だということをあんまり他で言わないほうがいいよ。イヤなことを言われるかもしれない」
「そんなの慣れてるわ」
ニーナは即座に否定する。
「農場にはね、何人か中流階級の人がいて、農薬や肥料の計量なんかをしていたんだけど、その人たちは私たちに指示はするけどそれ以外は口をきかなかったしなにかにつけて意地悪をされた。もやし工場には機械を操作する技術者階級の人がいたけど、その人たちはあからさまな嫌がらせとかはしないけど、なんかこう避けている雰囲気があったわね」
僕が高校生の時にしていた荷物運びや掃除のアルバイトは、中卒でできる仕事だから、同じ場所に下層階級の人がいてもおかしくないんだけど、それは掃除をする場所を分けるなどで顔を合わせないようになっていた。その時は疑問に思わなかったけれど、不要な軋轢を避けるためと言われれば納得するかもしれない。
「ジェイミィは技術者階級だからそんなこと言うのかもね」
「中流階級の人は私たちをすごく嫌ってる。技術者階級の人はまだマシなんだけど、なんでだろ?」
「さぁ?」
僕はそう答えるしかなかった。
「あれは農場で働き始めて2年めだったかなぁ、靴が破れて、靴を買いに街に行ったときに知り合った人が、私が貧民窟出身だとわかると怒ったの。『うそつき』って言われたわ。私のことを中流階級だと思いこんでいたんでしょうね」
「その人と付き合っていたの?」
「まさか。声をかけられて合成オレンジジュースをご馳走してもらっただけよ」
「そんな誘いに乗るからだよ」
僕は考えていたのと違うことを言ってしまった。
「で、私は反省したの。最初っから、自分から本当のことを言ったほうがマシ」
僕が言いたかったのと反省の対象が違うんだけど。
僕はニーナが僕と知り合うより前に知らない男に声をかけられていたのが嫌だったんだ。




