13 暗い朝
「おはよう」
翌朝、僕たちはほとんど同時に目を覚まして、常夜灯のかすかな灯りの中で僕が
そう言うとニーナは掛布団で顔を隠した。それから、そろそろと布団から目だけ出して
「あの、昨夜そういうこと、した?」
と聞く。
「してないよ。ニーナはよく寝てたし」
「ごめんなさい」
僕はその謝罪がそういうことができなかったことに対するものなのか、のぼせてしまったことに対するものなのかわからなかったけれど、
「ニーナはこっちで着替えてきて。僕はリビングで着替えるから」
そう言ってリビングに向かった。
昨日と同じオレンジ色の制服に着替えて
「おはよう」
とリビングに入ってきたニーナに
「コーヒー飲む?」
と聞いたけど
「私、コーヒーって飲んだことないの」
と言うから、ミルクパウダーと甘味料は?と聞くかわりに、普通は1個入れる錠剤みたいになっている合成甘味料を2個と、合成ミルクパウダーもスプーンに2杯入れてくるくる混ぜてニーナに渡す。
「変わった匂いね。熱っつ。」
「甘ーい。美味しいわね!」
ニーナはインスタントコーヒーを気に入ってくれたようで、僕は少しうれしくなる。
「それを飲んだら顔を洗って朝ごはんを食べに行こう」
空はまだ真っ暗なのに朝ごはんなんてヘンな感じだけれど、ちゃんとお腹はすいている。
朝食のトレイを受け取って、ニーナと並んで座るとテーブルは「浴槽」の話で持ち切りだ。
けれど話を聞いていると、「よくわからないので使わなかった」という人が大半で、ニーナは
「気持ちいいのに使わないなんてもったいない」
と力説していた。
朝食の後、ドクターから浴槽の使い方の話があって、熱すぎるお湯に長時間浸からないようにという注意事項もあって、ニーナはそのあいだ下を向いていたけど、僕の視線に気が付くとちょっと舌をだした。僕はそれを見て笑わないようにがまんする。やっぱりニーナはかわいい。
食器を片付けたあと、各作業班ごとに分かれての説明を受ける。
ここの惑星は自転速度が遅くて昼間ばかりの日と夜ばかりの日が1日おきに来る。
だから、食事の準備をする班と農作業の班は合同で、昼間の日は主に農作業、夜の日は食堂のキッチンでの作業をするらしい。
なるほどなあ、惑星の環境が違うと仕事のやり方も違うんだ。
それから、この惑星には青い風の星にはなかった太陽光発電設備があって、その保守点検作業がある。これも家具修理などの班と合同だから昼間の日と夜の日で作業内容が違うのだろう。
太陽光発電にはちょっと興味があったけど、僕が選んだのは水質調査だった。去年と似たような感じで大丈夫だろうから楽かもというのが理由だ。
ニーナはヤギの世話で、もう1人の鶏の世話の係と地質調査の係と僕の4人はドクターに連れられてラボに移動した。
「1日8時間の労働がルールですが、この惑星は昼の日と夜の日があるから、昼の日は10時間、夜の日は6時間というやりかたでもいいですよ」
とドクターは言う。
「鶏とヤギの餌やりは毎日必要ですが」
そんな働き方があるなんて僕はびっくりする。故郷の惑星では階級にかかわらず毎日働けるだけ、1日12時間から16時間ぐらい働くのが普通だったから。
「あと、洗濯機が1台しかないので労働時間中でも空いていたら洗濯とかはしてもいいですよ」
このへんのゆるさは青い風の星と同じだ。これは工場とかに勤める働き方より、例えば理髪屋とかの個人商店主の働き方に近いかもしれない。
そういう店には客がいない時間というのもあるし、商売道具の鋏を研いでいる時間は労働時間に含まれるのか、という議論もあるから、彼らには「みなし労働時間」が適用される。これぐらいの利益があったら8時間労働したとみなされる、みたいな。
それからドクターは各自に去年までの作業の担当者の記録のファイルを渡して、それを読めばだいたいのことはわかると思う。わからないことがあったら聞きに来てと言ってラボの隣の診察室へ行ってしまった。




