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12 浮力

しばらくニーナの様子を見ていたら赤かった顔色が元に戻ってきて、そっと肩に触れてみたけど熱いというほどではなくなってきたので、僕はよいしょとニーナを抱き上げて寝室に運ぶ。

「自分で歩けるから」

とニーナは抵抗したけど、

「おとなしくしているように言われただろ」

と言いうと動きを止めて僕の首に手を回した。


ニーナは小柄だから大丈夫だと思ったけど、けっこう重いな。僕も高校の時は荷物運びのアルバイトをしていたから腕力がないとは思わなかったんだけど。ニーナは農場で働いていたと言ったから、筋肉が付いているのかもしれない。


ニーナをベッドに寝かせて、そうだな、こもっていた熱は冷めたようだけど、掛布団はお腹のあたりまでかけた。

「僕もシャワーを浴びてくるから、先に寝てて」


僕はシャワールーム、いや、バスルームと言うべきなのかな、のドアを開けてびっくりした。

そこはキレイに掃除されていたから。

ニーナはあんなにフラフラだったのに。僕に気を遣う必要なんかないのに。


浴槽に栓をし直してからお湯を溜め始めると、故郷の惑星の中流階級向けのシャワールームとは大違いの水圧で、すぐにいっぱいになる。

僕は恐る恐る片足を浸けて、浴槽のフチにつかまりながら中に入ってゆっくりと座ってみる。


何だこれは?圧倒的な暖かさが体の外側から内側に向かって染み込んでくるようだ。

ずずっと腰をずらして肩まで浸かって力を抜くとわずかに腕がふわっと浮き上がる感覚。

ア、コレハ浮力トイウヤツダ。

高校の授業で習ったときは、これが何の役に立つのだろうと思ったけどちゃんと役に立った。僕はそれがなんだかおかしかった。


この惑星は静かで、バスルームの白い電灯は湯気のせいでぼんやり見える。

それにしてもお湯に浸かっているとなんて気持ちがいいのだろう。

そしてこれだけの量の水とそれを温める電力。なんて贅沢なんだろう。

この惑星の表面の80%は水で覆われているし、ここの施設で使う以上の電気は太陽光発電でまかなわれているけど、ここに故郷の惑星の人口の1/10でも移民できればいいのに。ああ、でも食糧か。やっぱりこの惑星で穀物が実らなければそれはできない。

人がそのまま暮らせる温度と空気と重力を持つ惑星が発見されてからもう何年になるんだろう。

そしてどうしてそこで穀物が実らず、動物は子孫を残すことができないんだろう。僕なんかが今ここで考えてもどうしようもないことかもしれないけれど。


あ、いけない。ついつい長時間お湯に浸かっていたことに気が付いて僕は手早くシャンプーをして体を洗う。あ、ここのシャンプーは青い風の惑星のコテージにあったものと同じメーカーのものだけど香りが違う。僕はそんな細かいい事に気が付いてしまう。


僕がタオルで髪を拭きながら寝室を覗くと、ニーナはよく眠っているようだった。

僕はリビングのソファに座って、もう1杯コーラを入れてきておけばよかったなと思うものの、この惑星の夜は寒くて、水でいいか、とマグカップに水を入れる。

それはやっぱり美味しくて、もし近い将来に移民が始まったらこの惑星に来るのもいいなと思うのだった。


髪がすっかり乾いてから、寝室から毛布を持って来てソファで寝ようかと思ったけど、ちょっと寒そうで、

「ま、いっか」

僕はニーナの隣に潜り込んだ。

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