意識して見る
それからの華湖は、兎咲の配信をよく見るようになった。
もちろん、世界にはもっと上手い人もいるだろうが、もっとも身近にいて、しかも笑空からも名指しで三つのことができていると言われたプレイヤーだ。参考にしやすいはずだし、チームメイトをよく知ることが連携にも役立つだろう、という計算もあった。
「それで、ご相談なんですが、これから先輩の配信を見させてもらってもいいですか?」
「それはもちろん。配信してるんだから、好きに見たらいいぴょん」
「ありがとうございます!」
「あ、そうだ。そういうことならこれからの配信は視線追跡も使ってみるぴょん」
「たすかります!」
あのあと、華湖は兎咲とそのような話をした。
アイトラッカーは兎咲の使うVRゴーグルに搭載された機能で、内蔵カメラで目の動きを感知することにより、使用者が画面のどこを見ているのかを赤い点で表示することがでる、というものだ。
(なるほど。こんなにミニマップを見てるんだ…)
華湖がまず驚いたのが、ミニマップを見る頻度だった。自分と比較すると、倍以上は見ているのではないかと推測された。しかも戦闘中であっても確認する回数はさほど落ちていない。
そして、これは知っていたことだが、スコアボードの確認の早さは改めて凄いと思った。スコアボードには様々な情報が出る便利なものだが、それを出している間は画面を大きく占拠されてしまう。そのため一瞬だけ出してパッと確認するのが普通だ。兎咲はそのスピードが早く、回数も多かった。
ミニマップで異変がありそうなところを見つけると、すぐにカメラを飛ばし、状況確認を怠らない。これも華湖はやっているつもりだったが、兎咲とは回数が違う。
世界レベルの大会など、華湖はいつも見るようにしていたが、全体の動きを追う大会配信とちがい、個人の視点でどう操作しているかを見ることができる、というのが個人配信の利点だった。
(なるほど。意識して見ると、確かに兎咲先輩は状況確認のやりかたが早いし、私より回数も多いな)
普段から何気なく見ていた兎咲のプレイだが、ポイントを注意深く見ると、今まで気が付いていなかったことも見えてくる。
しかし、プレイの質を落とさずこれらをやるとなると、練習が必要だった。
華湖は配信を見て、実際にプレイして同じようにできるかやってみる。それを繰り返し練習した。
KANKO:《うんうん、明らかにやりやすくなってんねぇ》
KAKO:《ホントですか!?》
栞子と二人で練習したときは、そう言われた。
KANKO:《前より状況が見えてんだろうね。こっちがこうやってほしいって動きが、言わなくてもできてる》
KAKO:《ありがとうございます!》
KANKO:《こりゃアタイも練習しないとな。笑空からは2つできてるって言われたけど、あと一個は多分、もっと全体を見ろってことじゃないかと思うんだよな》
KAKO:《それは、私も課題にしてます。自分のルートしか気にしてないんですよね》
KANKO:《そうそう。一応、全体を気にしてるつもりだったんだけどさ、トップレベルからしたらまだまだってこったな》
それから二人はゲームについてよく話すようになった。二人の課題を話し合ったり、この場合はこうする、敵がこうきたらこうする、そういうあらゆる状況を想定し、二人でどう動くかを事前に決めておく。今まではそういったことをあまりしていなかった。先輩、後輩という間柄のため、すこし壁を感じていたのかもしれない。だが、それを取り払って話をしておくことで、相手がやってほしいこと、やってほしくないことも事前に知ることができ、何も言わずとも息の合ったプレイができるようになっていった。
Saton:《いやーわかるなぁ》
Ai:《何がよ?》
Saton:《笑空先輩の言ってることがさ。アタシもそう思ってたんだよねぇ》
RERU:《どう思ってたのー?》
Saton:《いや、華湖がさ。避けるのは上手いけど、全体が見えてないなーって》
Ai:《はぁ?いや、1年キャプテンとして言わせてもらうけど、里美のほうが酷いから!》
いつものように集まった1年メンバーたちは、華湖が笑空から何を言われたか、という話を伝えられた。これには彼女たちも思うところがあったようだ。
Saton:《ア、アタシ!?》
Ai:《そうよ!里美もキルばっかり狙いすぎ!もっと全体を見ないと》
KAKO:《確かに。里美が一番、好戦的だよね》
Saton:《うっ…。で、でも勝ってんだから良いでしょ!》
KAKO:《里美だけが勝ってもしょうがないんだよ。チームとして勝てないと。それに相手が強ければ、いつも勝てるとは限らないよ。ま、私もそうなんだけどね》
RERU:《なるほどー!参考になるねー》
Saton:《わ、わかったわよ!じゃあ、各自それを意識しながらもう一回ランク行くわよ!》
Ai:《OK》
KAKO:《了解。いこっかー》
RERU:《いこいこー》
冬休みはこんな風にゲーム三昧ですぎていった。だが、今までチームでプレイしていても楽しさを優先していた彼女たちだったが、強い相手から学んだことを共有し、意識して練習することで成長していった。それを実感していた華湖は、いつになく充実した休みをすごしたのだった。




