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タイマン勝負する

「ちょっと!いい加減にしてください!」


室内に大きな声が響く。

発したのはアドバイス役として働いていた1年代表、琉瑠音だった。


「いいじゃん。連絡先おしえてよー」


周囲の部員と来場客たちから奇異の目を集めているにもかかわらず、男は意に介さずそんなことを言っている。

琉瑠音が発した大声、彼女の連絡先をムリに聞き出そうとしている、ということからこの文化祭という場において、ナンパをしている不届き者がいるということが周囲の人々に一瞬にして理解される。

今女の部員たちは一斉に非難の色を強める。文化祭で出会いを求める生徒も確かに一定数はいる。しかし、彼女たちは部活の出し物で働いており、忙しいさなかなのだ。MOBA部はBoCの体験会ということで、校内の他の部活、部門の生徒や一般参加者を対象にゲームをプレイしてもらっている。ただやらせるだけでなく、アドバイス役として一人につき一人、部員を付けていた。彼女たちは名目上は初心者に教える者であったが、裏の仕事としては機材の破損や盗難を防ぐという役目もあった。丁寧に、とくに外部からの人々に対しは失礼のないようにしつつゲームの面白さ、奥深さを伝える。それでいて非常事態に対し注意を怠らないという重要な任務をこなしていたのだ。そこを軽薄な者にちょっかいを出されているとなれば、怒りの感情が湧いて当然である。

だが、さらに男は続ける。


「ゲームなんてどうでもいいからさぁ」


この一言は決定的であった。今女生徒でゲームが嫌いな者はいない。ゲームが好きで、eスポーツ部に入り、卒業後はゲームに関わる仕事がしたい。そういう思いでやってきた志のある者たちだ。それをどうでもいい、などと言われて黙っているわけにはいかない。


「ちょっと、トラブルが起きたようなので、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」


各席ではそのような言葉で客に許可をとり、現場に向かおうという動きがあった。ナンパ男を叩き出さねばならない。室内の部員たちが集結しようとしたその動きに先んじて声を発した者がいた。樹である。


「おいテメー!なにしてんだよ!」


そう言いたくなる気持ちはわかる。だが今は文化祭中で外部からの来客もある。もう少し言い方ってものがあろう。普通は、言外では「テメーなにやってんだコラ」という意味を込めつつも「どうされましたか?」とか「何か問題でもございましたか?」と、こういうふうに初手で様子を見るものだ。

部員たちは内心で頭を抱えた。樹の好戦的な性格が裏目に出てしまった格好だ。


「お前!お前も今女だったのかよ!」


男は樹の顔を一瞥したかと思うと、ちょっと間があってからそう言った。どうやら、あのギャルメイクをバッチリとキメた顔と今の顔が結びつくまでにタイムラグがあったらしい。そう、男は先日、華湖をナンパしたあの男だったのだ。


「ああん?誰だよオメー」


だが、樹のほうは気が付かない。男は当時と同じ髪型、メイクも当然してない。服は違えど系統は似たようなものだ。男が気が付いたのに、彼女が気が付かないのは妙な話だが、それは彼女の「興味が無いものには記憶容量を使わない」という割り切った思想があったからなのだが、男にとっては無礼で馬鹿にしていると受け取られた。


「忘れたのかよ!お前、まさか本当にあの娘の先輩だったのかよ?」


清く正しく美しく、などという言葉が全く似合わない樹が、まさか今女の生徒だったとは、男にとっては信じられなかった。華湖を助けに入るための口実だと思っていたのだ。

樹は、それを聞いてやっと思い出したらしい。


「あー、あんときのナンパ野郎かよ」

「チッ!まさか、お前もMOBA部なのか?」

「ああん?だったらなんだよ?」

「オメェなんかどうせ代表にもなれねぇ雑魚だろうが!引っ込んでろよ!」

「は?樹はトップチームなんだけど?」

「は?え?お前みたいなやつ、Destinationに居なかっただろ?」

「笑空パイセンが抜けたから、代わりに入ったんだよ」

「はぁぁ?」


男はあからさまに不満な顔で樹を見た。頭から爪先まで、2往復はしている。


「んだよ?なんか文句あるのか?」

「お前みたいなギャルがゲームできんのかよ?」

「できるからトップチームに入れたんだろ?頭悪いのか?」

「ざっけんな!お前よりマシだ!」

「なんでそんなこと、わかるんだよ」

「そうだ、お前、そんなに言うなら俺と勝負しろよ」

「はぁ?何の勝負だよ」

「BoCに決まってんだろ。負けたら帰ってやるよ?」


今度は樹が信じられない、という顔をした。こんなナンパ野郎が、勝てるとでも?だが、そういうことなら願ってもないチャンスだ。しつこい男を穏便に追っ払える。どうせ他の場所に行ってナンパするんだろうが、そんなことは彼女の知ったことではない。


「へぇ。そんならやってやんよ」

「よし、それならタイマン勝負だ」


他の部員たちは、なんだか妙なことになってきたなぁと思いつつ、止めるかどうかの判断もできなかった。

それをできるリーダーシップを持った部員が居なかった、というのもあるし、なにやら他の客も「面白いことになっているぞ」という空気だったからだ。


そして、樹とナンパ男のタイマン勝負という謎イベントが発生したのである。

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