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Gateにログインしよう

GATE(ゲート)ってのは、正確にはesports(イースポーツ) GATEって言うのね。名前くらいは聞いたことあるかな? じゃ、まずはこれでムービーを見てもらおう」


 教室の正面左奥には大型ティスプレイが台に乗せられて置いてあった。さすがはeスポーツ名門校というべき設備だ。楼瑠はそれを中央に動かしながら言った。

 何やら操作をしはじめ、しばらくするとティスプレイには宇宙空間に浮かぶ地球の映像が流れる。と同時に『esports GATEへようこそ』女性のナレーションが聞こえてきた。


『esports GATE、略称GATEは世界各国のプレイヤーが平等に競いあえるよう、開発されました。世界中どこからでもアクセスできる共通のゲームロビーです。GATEに接続すると、プレイヤー全員がワールドと呼ばれる巨大ロビーにログインします。このワールド自体がMMORPGとなっており、プレイすることも可能です。さらに、そこから各種GATE対応ゲームの専用ロビーに入ることができます。』


 ワールドと描かれた巨大な球体が出現し、そこから各ゲーム個別のロビーを表す小さな球体に矢印が伸びていくというコンピュータグラフィックスを使った映像がながれる。


『各ロビーで他のプレイヤーとマッチングが完了したのち、ゲームが開始されます。ゲームはGATE用に開発されたeスポーツ専用タイトルであり、開発は匿名の個人が共同で行なっています。彼らはゲームに関わるあらゆる権利を放棄しています。また、第3機関によるバグチェックや不正のチェックは定期的に行われています。これにより、我々は不正に悩まされることなく、安心してeスポーツを楽しむことができるのです。GATEの接続料やコンテンツの販売売上は開発者の報酬や大会の賞金として使われています』


 それから細々とした説明が続いた。eスポーツに関わる者であれば、すべて常識と言えるような内容だった。華湖は途中で何度もあくびを噛み殺す羽目になった。


「それじゃまず、初めての人はアカウントの作成から始めよう」


 やっと説明が終わると、お次はアカウントの作成だ。GATEの存在すら知らないのであれば、アカウントも当然に持っていないだろう。GATEでは不正防止のため、IDやパスワードのほか、指紋や手の甲の静脈はては網膜の毛細血管のパターンまで登録しなければならない。生体認証というものだ。これには不正防止という意味合いが強かった。もし不正が発覚した場合、当該アカウントは凍結されれる。同じ人物が新たなアカウントを作成することは事実上不可能。それはつまり永久追放を意味した。


「さて、アカウントの作成を待っててもしょうがないから、あとの人は本人アバターを作ろう。みんなにはいずれ、学校代表として大会に出場してもらうからね」


 GATE内で使用するアバターというものがある。GATE内のバーチャル空間で活動するための、自分自身の分身のことだ。

 本人アバターとは、自分自身をスキャンして作った3Dモデルのことである。一般的なプレイヤーはなんらかのキャラクターのアバターを使うものなのだが、学校代表となると本人アバターで出場ということになる。あとはプロや有名人が使用することもある。

 キャラクターもののアバターは営利目的で作成する業者もいる。売上の20パーセントはGATE運営に回されるという仕組みだ。


「3Dスキャナーは別室にあるから、ついてきて!」


 楼瑠はアカウント作成のやりかたを教え引き継ぐと、今度は本人アバターの作成を手伝うようだ。

「こっちだよー」と指定された部屋は、入り口の上部に『3Dスキャナー室』と書かれた札がかかっていた。

 その部屋の中央には高さ40センチ程度の円柱状の台があり、その周りに照明とスキャン用カメラが取り付けられた柱が4本あった。


「足はピッタリくっつけて、背筋は伸ばして、手は水平に広げて」


 台の上に立ち、指定のポーズで待つと、柱が円柱の周りを回転する。わずか数秒でスキャン完了。

 全身スキャナーの実機を見るのは、華湖も初めてだった。


「じゃ、次は倉井……あれ、倉井。前髪それじゃダメだぞ。目が見えてないと」


 楼瑠から思わぬことを言われた華湖は。「こ、これはポリシーで……」などと咄嗟に言い訳をして誤魔化そうとした。だが楼瑠はニッコリ笑って言った。


「ダメだ。学校の代表なんだからな?」


 楼瑠は笑顔を見せるが、華湖からすれば悪魔の微笑みだ。


「ちょうどヘアピンがあったから、ホラ、これでどう?」


 楼瑠は華湖の前髪を横に流し、ピンで止める。そして教室にあった姿見を華湖に向けた。自分と鏡越しに目が合った瞬間、呼吸が乱れ、心臓は破裂しそうなほど激しく動き、手汗と震えが止まらなくなる。

 華湖は鏡越しですら、人と目を合わすとこうなってしまうのだ。それが自分自身であっても。


「じゃ、ここに立って、ポーズね」


 楼瑠はそんなことにはまったく気が付かず、華湖に台の中心に立つよう言う。華湖は鉛のように重くなった足をなんとか引きずり、まるで生まれたばかりの子鹿のように震えながら、なんとか指定の場所まで歩いた。台の中央に立ち、手を広げ、スキャンを待つ。


「倉井。背筋を伸ばして! ほら、目を開けないと! ちょっと眩しいけどガマンして」


(目を開ける!? こんなに大勢から見られているのに!?)

 華湖は顔を真赤に染めた。頭から湯気でも出てきそうだ。


「どうしたの?カワイイんだから自信持って!」


(いや、カワイイとかそういう問題じゃなくて、こんなに人がいるのに……ん? カワイイ? 私が?)

 華湖は生まれてこのかた、ほとんど言われたことのない言葉に一瞬、思考が停止した。目も隠しているし、ずっとうつむいているし、休み時間はずっと机に突っ伏して寝たフリだし、人にまともに顔なんて見せたことはなかった。だから顔についてなにか言われたことなんて、ほとんどなかったのだ。

(私ってカワイイの? いや! 絶対お世辞だ! そんなこと信じて、あとで笑いものになりたくない! 危うく信じるところだった)


「ハイ! スキャン終わりっ! おつかれさまでした」


(え? もう?)

 華湖が得意のネガティブ思考をやってる間に、スキャンは終了したらしい。開放された華湖は逃げるように台から降りた。

その後、仮のチームで少しゲームに触る程度でその日は終わった。

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