発表をちゃんと聞こう
2年の代表入れ替え戦も終わり、トップチームDestinationのメンバーは別室で協議に入った。
残された部員たちは、ひとまず緊張もほぐれたので、雑談をはじめた。
「んー、華湖ちゃんは間違いなさそうだねー」と楼瑠。
「うん。アタシも相手にしてて一番ヤバいと思った。愛もそうじゃない?」敵として戦った里美にとっても驚異だったようだ。
「だね。間違いなく、主戦力になるよ」愛も同意する。
「えへへ、そ、そうかな?」
華湖は後頭部をかきながら照れ笑いした。しかし、確かに自分でも手応えはあった。
対面する相手サポート、アタッカーにはほぼ何もさせなかった。そこまで圧倒できたのは玲流の手助けも大きかった。
「玲流ちゃんも良かったと思うよ」
「確かに。スキルの使い方が的確になってた」愛もうなずく。
「アタシも思った。かなり練習してるよね」
「いっぱいしたよー。でもー、やっぱ華湖ちゃんあってだねー」
「ホント、玲流ちゃんのこの短期間での成長は驚くよ」
「華湖ちゃんが教えてくれたからねー」
華湖は褒めたが、これは世辞ではなかった。
初心者から今の玲流ほどの腕前まで上がるには、通常半年はかかるはずだ。それをこの3ヶ月足らずで達成しているというのは、驚異的な成長スピードだ。
「教えたからって、普通こうは行かないよ。玲流ちゃんホント、センスが良い」
「えー、華湖ちゃんからそう言われるとー、嬉しいなー」
お互いに褒めあっているが、華湖にはひとつ引っかかることがあった。
『さすが噂のサイレントサリーだ』
楼瑠に言われた一言だ。そんな話はしたことがなかったはずなのに。顎に手を当て、考える。
(なんで知ってたんだろう。噂の…噂の!?)
そのとき、思い出した。笑空が初めて話しかけてきたときのあの言葉。
『……あなたが…噂の………』
(そうだ!あのとき言ってた噂って、このことだったんだ!?きっと誰かが私のことを知ってくれていて、噂してたのね…)
華湖はやっと謎が溶け、スッキリした顔になった。
だが、これがすぐに不安になる。果たしてこれって良いことなんだろうか?
(噂で知っていてくれているのなら、そう言ってくれても良いのでは?そうしないのは何か理由がある?最初に代表に選ばれなったのもそのせい?)
一度気になりだすと、不安でたまらなくなる。選考を待っているという心理状況がそうさせるのだろう。
その時教室のドアを開ける音がした。楼瑠を先頭にDestinationメンバーが教室に入ってくる。
「はい、じゃ発表するから。静かに」
楼瑠の一言で先程までの騒がしさが一瞬で消え、教室に緊張感が漂う。
「じゃ、まず1年代表から。アッパー里美、スカウト愛、センター…」入れ替えなしのメンバーは淡々と発表された。だが、ここから少し声が大きくなる。
「次から入れ替えメンバーになる。サポートは玲流」
「うあー!?私ー!?」
「やったね」
これには華湖も自分のことのように喜んだ。里美や愛も玲流に飛びつく。
「はいはい。まだ終わってないから静かに!最後にアタッカー…」
(玲流ちゃんが選ばれたなら私も…)
この時、華湖も自分が選出されることを、ほとんど確信していた。
だが楼瑠の発表は耳を疑うものだった。
「アタッカー、琉瑠音。以上」
「え………」
華湖の思考が止まった。
彼女だけではない。室内のほぼ全員があまりに意外な発表に一瞬、固まった。
「…は?」
「そ、そんなー」
「おかしいよ!アタシ、部長にかけあってくる!」
「やめな里美!先輩たちが決めたことだよ!」
「だって愛!どうみたって…」
玲流、里美、愛は華湖を中心に小さな声で言い合う。華湖は何も言わない。
「うそでしょ?」「あのサリーの子でしょ。どう考えても」上級生達も口々に不満や疑問を口にしていた。
楼瑠はそれが聞こえているのかいないのか、平然とした顔で続ける。
「静かに!続いて2年代表…」
その後の発表は華湖の耳には何も入ってこなかった。
世界から色が消え、すべてが灰色に見える。
(なんで?私のプレイに問題があった?いや、ミスらしいミスはなかったはず。相手になにもさせなかったし。それに玲流ちゃんが選ばれているのに?私が選ばれないなんておかしい、おかしいよ!)
華湖は理由を探し、頭を巡らせる。だが思いつかない。
(ひょっとして…あの噂のせい?…私、嫌われてる?)
ゲームプレイに問題がなかったとすると、そういう結論に達するのも無理はなかった。
(そっか、そうだよね。実の両親からも嫌われてた私が、人から好かれるわけないよね。何も悪いことはしてないはずだし、人から嫌われないようにしてきたけど、きっと私なんて存在自体が不快なんだ。人から疎まれる人生なんだ。なんで私、生まれてきたんだろ)
…
プハァ
おい、何してる。誰が息して良いって言った?
ごめんなさいごめんなさい
お前なんか息する権利もないんだよ
ごめんなさいごめんなさい
なんでお前なんか産んじまったんだ
ごめんなさいごめんなさい
ほら息止めろよ、部屋の空気が薄くなんだろ
ごめんなさいごめんなさい
…
華湖は里美から肩を激しく揺すられ、ハッと気がつく。
「ほら!華湖も!みんなで言いに行こうよ!」
「わかった。決定は覆らないにしても、私も理由は気になる」里美の提案に愛も同意する。
「私もー!いくよー」
「みんな。ありがとう。でもいいよ」
華湖がやっと言葉を発する。
「なんで!?」里美は怒りの声を上げる。
「こんなの、おかしいよー。私は聞きにいくよー」
里美は華湖の肩を力強く掴みながら、玲流は華湖の両手を握りながら言った。
華湖はうつむいたまま答える。
「良いんだよ。私なんかが代表なんて、選ばれるわけないよ。先輩たちがそう決めたんだから。従わないと…」
「何それ!いくら先輩だからって、これはおかしい!」
(もう良い…。どうせ言っても無駄。だって嫌われてるんだもん)
里美の怒りは収まらないが、華湖はすべてを諦め、生気を失った顔をしていた。
「はいそこ!ちゃんと聞いて!」
楼瑠は手を叩きながら、華湖達に注意する。
「まだ発表は残ってるよ!」
2年代表も発表は終わったはずだ。まだ何かあるのだろうか?皆、そう思い楼瑠を注視した。
静かになったところを見計らって、楼瑠が咳払いを1つし、息を大きく吸い込む。
そして、ひときわ大きな声で言った。
「最後に、華湖。倉井華湖はDestinationにアタッカーとして加入してもらう」




