新体制で出発しよう
2年代表チームとは、思ったより善戦したものの、やはり急造チームとは比べ物にならない連携力で差を付けられた。3年チームはそれに加えて個々のスキルの差も、誰が見ても明らかなほどあった。
予想通りとはいえ、2連敗。
1年代表チームには重い空気が漂っていた。
「負けて当然なんだから、落ち込まないで!胸を借りるつもりでいこう!」
里美が声を出す。ついで愛が言った。
「聞いて。私に作戦がある」
愛を中心になにやらコソコソと話を始めた。精神的支柱として里美、作戦参謀といった役割の愛、この2人がチームを引っ張っていく。
「さ、いよいよ最後はウチらだよ」
そして、いよいよ登場するのは部長率いるトップチーム。
チーム名は『Destination』。
2年のときから絶対的エースであったプレイヤー名『Azam』こと笛木笑空が攻撃の中心となるはずだ。彼女は去年の全国高校生eスポーツ大会BoC部門で見事、優勝を飾っている。卒業生が4人も抜けたため、ほぼ去年とは違うチームではあるが、今年は去年を超える強さ、という噂だ。
今年の新生チームがどのような戦いかたをするのか、華湖も楽しみだった。
(え?愛ちゃん、スカウトじゃないの?)
大型ディスプレイで戦況を見つめる華湖がまず驚いたのが、愛の選んだカリスマだ。今までの2戦と変えてきたのだ。おそらく、すでに手の内がバレているということを考え、作戦を変えたのだろう。
里美は変わらずアッパー。アタッカーとサポートも同じ。どうやらスカウトとセンターだけ入れ替え、愛がセンターのポジションに移るようだ。
対して、Destinationのエース笑空はセンターを担うようだ。これは去年とかわらない。数々の試合で活躍してきた彼女の得意なポジションだ。
(てことは、センターで愛ちゃんと笑空先輩が対決するのね)
両チームのエースが直接対決ということになる。これには華湖も楽しみで顔がにやける。
ゲームが始まるとすぐ、Destinationメンバーが集まって相手陣地に移動していくのが見えた。
BoCは上から見下ろす視点になっているが、プレイヤーからすると相手陣地は暗くなっており、敵の動きは見えないようになっている。だが、観戦者にはその制限はなく、両チームのすべてが見えている。
(奇襲!?)
華湖は、驚きで思わず、声を上げそうになった。余計な声を出しては、なにかが起こっていることを教えてしまうことになる。彼女は慌てて口を押さえた。
始まってすぐの奇襲は、よくある攻めかたではある。だが、全員がまとまって動く必要があるため、やはりある程度のチームワークが必要だ。普段から練習しているのだろう、Destinationは息の合った動きを見せた。
虚を突かれた1年チームはあっさりファーストキルを取られることとなってしまった。
どうやらDestinationの狙いは敵のスカウトをキルすることだったようだ。スカウトを狙った目的は、エースである愛の出鼻をくじくためだったのかもしれない。だが、愛はこのゲームでは役割をセンターに変えていた。
(愛ちゃんがやられなかったのは不幸中の幸い…だけど、さすがの愛ちゃんもこれを読んでたわけじゃないよね?)
序盤からの意外な展開に、華湖もゴクリと喉をならした。
それは『スノーボール』と言われる。
雪の玉が転がって大きくなっていくように、序盤につけられたリードは後半になるほど大きくなる。スカウトが愛でなかったことは計算違いだったかもしれないが、Destinationが優勢に立ったのは確かだった。その少しの差、そのたった一転がしがどれほど大きいかを、1年生は思い知ることになる。
「だめ!こっちのフォートレスはもたない!」
アッパーの里美が悲鳴のような声を上げる。
ファーストキルを取ったのは楼瑠だった。楼瑠はそのまま自分のポジションであるアッパールートに行き、最初に付けた差を利用し里美を2キル、3キルと連続して倒し、さらにカリスマを成長させていた。里美はフォートレス破壊寸前まで追い詰められたところで味方を呼び、それを受けた愛が助けに入った。
だが、そこを狙いすましたかのように、Destinationのスカウトもやってくる。
そのうえセンターであるはずの笑空まで加勢に来た。レベル差と実力差、そして人数差があっては、もはや手の打ちようがなかった。里美、愛は連続で倒されてしまう。この時点でほぼ勝負は決してしまっていた。
圧倒されたまま時が流れ、数分後、1年代表チームの画面には敗北を示す『DEFEAT』の文字が出る。
終わってみれば、やはり全敗。当然の結果ではあったのだが、1年代表は皆ショックを受けている様子だ。皆、肩を落としている。
華湖は不満だった。
自分たちの代表が不甲斐なく全敗したことが、ではない。
笑空のプレイを楽しみにしていたというのに、彼女はまったく本気ではなかったからだ。その必要もなく勝てる相手だったのだから当然ではある。
(私がサリーで出ていれば…!笛木先輩の本気が見たかったのに。みんな、手加減されてたってことにも気づいてないじゃん!)
華湖は歯を食いしばり、両手で拳を握った。
「ふっふー、どうだい?上級生の実力は」
楼瑠は勝ったことで上機嫌であった。自分が部長として率いるトップチームの初の練習試合。そこで自ら立案した作戦通りの勝利を収められたのだから無理もない。他のチームメイトも喜んでいた。
ただ笑空は、喜びもなにもない『無』の顔をしていた。
楼瑠は、笑空があくびを噛み殺しているのを見てしまっていた。ゲーム中にだ。確かに格下の相手ではあるが、ゲーム中は集中して欲しいものだ。この1点だけが、楔のように楼瑠の心に刺さっていた。
「んじゃ、次回からは通常営業にもどるからね。明日からの練習メニューを説明するよ」
こうして下今女学院eスポーツ部MOBA部門は正式に稼働しはじめたのだった。




