9話 迷いの森
「うっ、……ふわぁぁ」
ベットの中、あくびをしながら目を覚ます。
異世界に召喚されてから数日が過ぎた。時間は、スマホで確認できることに気づいた。この洞窟に入る時の時間は12時。あのとき、途中で雨が降ったといえ、その前までは明るかった。つまり、元の世界とこの世界はそれほど時刻にズレがないということだ。
なぜ、数日過ぎたかと言うと、さすがに連続でダンジョンの攻略は体にこたえるからだ。3日ほど日にちを開けて挑むことにした。
今のところ疲れは……完全にとれたわけではないが、充分にとれている。
今日、第2階層の攻略を目指す。
ベットから起き上がろうとすると、体に違和感を感じた。
体が妙に重く感じる。精神的に…ではなく物理的に。それにこの温もり、まるで俺の上に誰か乗っているような……
まさか――。
ゆっくりと布団をめくる。と、まぁ、予想通りリーナが丸まって寝ていた。
「――んっ、……おはよ、コウタ」
眠りから目覚めたリーナは、両手を大きく手を上げ、伸びをしながらそう言った。
「ああ。おはよう……って、そうじゃなくて! なんでリーナがここにいるんだ?」
昨日はちゃんと自分のベットにいたのに。
「……こっちの方が暖かいから」
「あー、……分かった。とりあえず服、着替えてきて」
「うー。コウタ、着替え手伝って」
「それはさすがに1人でやろうな」
「むうぅ。コウタのけち」
「ぬっ、なんと言おうと、俺は手伝わないからな」
そう、リーナも少しは自立させなくてはいけない。
「……仕方ない」
そう言ったリーナは自分の服のボタンを外し始めた。
「ちょっ、まって! ここで着替えちゃダメだ。って、聞いてる? 話を聞いてぇぇ」
――結局、リーナの着替えを手伝うことになった。
▽△▽
転送機の中、2のボタンを押す。
まだ、1階層しか攻略出来ていない。30階層までの道のりは長いな。
「よし。それじゃあ、いくか」
意識が離れ、船酔いしそうな感覚に襲われる。だがそれも、意識が戻ってくる頃にはなんとも無くなっていく。
「これも、はやく慣れないとな」
そう言いながら、周りを見渡す。
そこに広がっていたのは、洞窟なんかではなく――
「――――森?」
「……だな」
周りには生い茂った木々、どこからか聞こえてくる鳥の囀り、ここがダンジョンの中とは思えない、幻想的な空間が目に映る。
「とりあえず、出口を探さないと……って、本当にあるのかこれ」
木々が生い茂りすぎて視界が悪い。こんな中で出口を探さないといけないのか……難易度が高そうだ。
が、まぁ、弱音を吐いてばかりではいられない。
探索を開始する。
それにしても、見上げれば空もあるし、どうやってダンジョンの中にこんな大自然を生み出せるのか。まぁ、間違いなく、相手が神様だからだろう。
ただ、こんなこともあろうと、服装を制服から動きやすい服装に替えた。サイズもピッタリと合う。ほんと、あの家なんでもあるな、と思うほどだ。
探索中、しばらくしてリーナの足が止まった。
「ん? どうしたリーナ」
「コウタ、あれ何?」
そう言ってリーナは上の方に指を指す。そこには、黄色い果実が見えた。
「ああ、あれは多分、バナナだな」
「バナナ?」
「知らないのか? 甘くて美味しいぞ。……よし、取ってくるからちょっと待ってて」
「でも、高いところにあるよ?」
「まあ、見てなって」
そう言うと、俺は木登りを始める。こう見えても、小学生の時はよく木登りをして遊んだものだ。あの程度はたいした高さではない。
1分もかけず、さくっと取って戻った。
「おー。コウタ、すごい」
「まぁ、あの程度はな……はい、これ」
バナナの房を1つちぎって渡す。
リーナはというと、渡されたバナナをただまじまじと眺めていた。
「ああ、そうか。食べ方が分からないのか。ちょっと貸して……こうやって、バナナの皮を剥くんだ」
バナナの剥き方を実演してみせる。剥いたのをリーナに渡した。
「美味しいから食べてみ」
「はむ。……うん、甘くて美味しい」
美味しいのは、なりよりなんだが……
「――? どうかした、コウタ?」
「えっ? あぁ、いや、なんでもない」
リーナが食べているところを見るのはやめておこう。いろんな意味でやばくなりそうだ。
▽△▽
探索してから30分。未だ、目的の出口は見つからない。そのかわり、いろんな種類のフルーツが沢山とれた。食料は充分に確保出来たのはいいが、出口が見つからないと意味が無い。
「一旦、休憩に……」
しようとしたその時、茂みの方から、ガサガサと音が聞こえてきた。それも、おそらく複数体はいる。
茂みから出てきたのは、大きな一角のツノをはやしたオオカミのような姿が3匹みえる。
「あれは…ユニコーンウルフ。突進してくるから気をつけて」
あのツノで突進されて、もし当たったりでもしたら一大事だ。
ユニコーンウルフは、俺たちを見つけるやいなや突進してきた。
が、俺は相手が来るであろう一直線の道にマインを仕掛ける、が、しかし。
「ガァァォ」
ユニコーンウルフは、まるでそこにマインがあることが分かるかのように、ピンポイントで回避する。
「なっ!」
いや、驚いている余裕はない。
「うおっと」
ユニコーンウルフの突進を寸前で横に回避――したのはいいが、ふらっと後ろによろけてしまう。
途端、足場がなくなった。
「――崖か!」
気づいたときには遅かった。後ろには数百メートル級の崖が潜んでいた。
「コウタ!」
「はあぁ」
寸前で崖場を片手で掴む。が、――脆く、掴んだところが崩れる。
「うわぁぁぁ」
そして、奈落の崖に落ちた――