8話 夕食
徐々に意識が戻ってくるような、そんな感覚に襲われる。1度や2度じゃない。異世界に来てからまだ、1日も経っていないというのにずいぶんと経験したものだ。そして、これからはもっと経験することだろう。慣れなくてはならない。
「どうやら、戻ってこれたようだな」
右手からの温かさを感じつつ、階層を1つ、攻略出来たことへの達成感を味わう。
数字が書かれている石版を見ると、1のボタンが青く光っていた。攻略できた証だろう。
なにはともあれだ、
とりあえず、家の中に入る。
「ただいま」
「――?」
リーナが俺の言葉に不思議そうな目を向ける。
「ああ、俺の住んでたところじゃ、家に帰ったらただいまって言うんだよ」
「……ただいま」
「おかえり。ふぅー。……なんだ、この実家に居るような安心感は」
危険なダンジョンから、安全な家に帰ってきたこの感じ。まさに実家に居るような、ゲームに例えるなら、ホラーゲーのセーブポイントのような安心感を、まさか自分自身が体験するとは。
けど、これからはここが俺らの帰ってくる家になるわけだ。
「さて、そろそろご飯にしようか……って、ちょっとまてよ……」
食材……確か、神様はダンジョンで調達できるとか言っていたような。
いや、でも食べ物なんてなかったぞ。……まさか、ゴブリンを食べろってことじゃないだろうし。それだったら、まずいとかのレベルじゃない。
そう言えば、キッキンに冷蔵庫があった。何か入っているかもしれない。いや、むしろあってくれ。
祈るように冷蔵庫を覗く、と。
「――お、おおぉぉ」
肉や魚をはじめ、野菜だったり、卵、バターなど、古今東西の食材がビッシリと集まっていた。
これなら、数日は過ごせるだけの量はある。しばらくは食料に困ることはない。一安心だ。
「リーナは休んでてよ。俺はパパっと料理してるから」
「うん。楽しみ」
「おう。楽しみに待っていてくれ」
リーナに期待されたからには手によりをかけたいところだが、今日1日、いろんなことが起こりすぎた俺の体は、徹夜でゲームした後と同じぐらい疲れきっているわけで、それこそ、本当にパパっとできるものぐらいしか作れそうにない。
再び冷蔵庫を確認する。
この世界に卵があったことに驚く。卵があるということはニワトリもいるということだよな。
それから……おっ、これは炊飯器か。ということは――。
「あった。マイソウルフードのお米!」
この世界にもお米があるとは! お米大好き芸人としては嬉しい限りだ。
よし。あとは調味料だが、醤油はあるな。この白いのは塩と砂糖だろう。これは、酢だな。この茶色いのは……味噌もあるのか。
基本的なのはありそうだ。しかし、
「マヨネーズとケチャップがない……だと」
ない、のはしょうがない。作るしかないな。マヨネーズは分からないが、ケチャップはトマトだろう。
とすると……よし、決めた。
▽△▽
「よし、出来た!」
「……これは?」
「オムライスだ」
ふわとろの卵の中に自作のケチャップライス。そして卵の上にもケチャップを付けたシンプルな作り。味は……美味しいはずた。
「おむ、らいす?」
そう言うと、リーナは不思議そうにオムライスを見る。
「知らないのか?」
リーナはコクリとうなずく。
オムライスを知らないだと。この世界にはないのか?
だとしたらぜひ知ってもらいたい、この美味しさを。
「冷めないうちに食べないと勿体ないからな。いただきます」
「――――?」
「ああ、これも俺の住んでたところの習慣だよ」
「……いただきます」
俺を真似て、手を合わせて言う。
「はい、召し上がれ」
「うん」
そう言って、リーナはスプーンを持ち、ゆっくりとオムライスを口に運ぶ。
さて、口に合うかどうか。
「――――美味しい。こんなに美味しいの食べたことない。コウタ、すごい」
「…まぁ、俺にかかればこんなもんよ」
……内心では、ガッツポーズをしているのは言うまでもない。
なんにせよ、口にあってくれてよかったぁぁ。
▽△▽
夕食……ダンジョンの中にいるから、そもそも今が夜かどうかは分からないが、夕食を終えた俺は現在、お風呂につかっている。
やっぱ、日本人は1回はお風呂に入らないと1日は終われないな。疲れを癒すにはお風呂が1番だ。ヒールでは傷は癒えるけど疲れまでは癒せない。むしろ蓄積される。
よって、お風呂の時間は1番落ち着く、はずなんだが……
「あの、リーナさん?」
この風呂場にもう1人、頭の上にタオルを置いた銭湯のスタイルで、湯船を満喫しているリーナがいた。
「――――なに?」
「この状況、何かおかくない?」
「――? とくに?」
どうやら、当の本人はこの状況を特に気にかけている様子もないですねこれ。
「あー、わかった。でも、せめてタオルをまいてくれ」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ……目のやり場に困る、から」
「気にしなくていい」
「男は気にするんだよ!」
俺の必死な説得にも頑なに応じてくれない。仕方ない、諦めることにするか……。
てか、俺が上がればいいだけの話か。
ちなみに、俺はしっかり腰にタオルを巻いてるから安心。
風呂から上がろうとすると、リーナが俺の手を掴んできた。
「まだダメ! …1人にしないで」
そう言うリーナの目は必死そうだ。
なるほど、1人になりたくなかったのか。
「あー、分かった。リーナが出るまで俺もでないから」
「――ありがと、コウタ」
……まあ、リーナの笑顔が見れたからよしとするか。
――こうして、以後2人は一緒にお風呂に入ることに一切の抵抗を持たなくなっていくのであった。
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