7話 ゴブリンキング
1階層はなぜかゴブリンしか出なかった。ということは、ボスもおそらくは、と思っていたが、
「普通に予想通りすぎたな」
そこに居たのは、ゴブリンよりもひとまわり、いや、ふたまわりは大きいサイズ。お腹がぽこっと膨れ上がっている。
ゴブリンは手に短剣を持っていたが、このでかゴブリンは手に棍棒を持っている。しかも、律儀に背中にはマントのようなものを羽織っている。いかにも、俺ボスですよ感満載だ。
「ちなみに、あいつの名前知ってるか?」
「うん。あれはたぶん、ゴブリンキング」
「ゴブリンキング。……見た目そのまんまだな」
ただ、キングというくらいだから強さは本当なのだろう。だとしたら、油断は一切出来ない。
どうやら、相手もこちらに気づいたようだ。
「一瞬で終わらせるぞ」
ゴブリンキングの足元に罠を仕掛けようとする。が、
「ギャオォォ」
「――――っ」
いつの間にか、ゴブリンキングが目の前まで迫っていていた。
「なっ!」
そのまま、ゴブリンキングが振るった棍棒によって数メートル吹き飛ばされる。
「コウタ!」
「――大丈夫。相手の方に集中して!」
ゴブリンは、すかさずリーナにも棍棒を振るう。が、リーナは伏せて、すれすれで回避に成功する。
縦に振りかぶって叩きつける攻撃を、リーナは右に転がることでかわす。
やはり、さすがの戦闘センスだ。しかし、リーナも回避することで精一杯のようだ。ゴブリンキングの攻撃には隙がない。
ダメだ。俺も戦わなくてはいけいない。
「くっ、……痛たいな」
さっきのダメージがかなり響いていて、体の至る所から痛みを感じる。はやく回復だ。
「ヒール!」
自分に向けて魔法を使い、傷を癒す。
痛みは自然と消えていく。
「うっ」
直後、痛みとは別の、疲れが一斉に襲いかかった。
なんだこれは。まるで50mを走った後のような感覚だ。これがリーナの言っていた疲れか。でも、前にヒールを使ったときは何も起きなかったはずだ。いや、もしかして、
「傷の深さで違うのか?」
そうだ。前はほんのかすり傷程度だった。そして、さっきは全身傷だらけだった。関係があるとすればこれしかない。
いや、今は俺なんかどうでもいい。それよりもリーナの方だ。
リーナは……今も、ゴブリンキングの攻撃をかわしている。が、防戦一方、という感じだ。
このままじゃダメだ。何か、何かないのか。
ステータス画面を確認する。と、
「――マイン?」
罠師のジョブのスキル欄に見たことの無いスキルがあった。いつの間にか取得していたのか。いや、今は使えるならなんでもいい。
マイン――地雷のことか? 罠師だから間違いないだろう。だとしたら――よし、
「おい、ゴブリンキング。お前の相手は俺だ!」
声を大にしてゴブリンキングに叫ぶ。ゴブリンキングも俺の方に注意を向けた。
「コウタ!」
ゴブリンキングが再び、棍棒を振りかぶりながら、俺を目掛けて迫ってくる。が、それは俺の狙いどおりだ。
「かかった!」
さっき、ゴブリンキングは一直線で迫ってきた。なら、その道に罠、マインを仕掛けておいた。
「グギァォォォォォォ」
マインの爆発とゴブリンキングの叫び声が部屋中に響く。見ると、ゴブリンキングの足が吹き飛んでいた。これならさすがに動けないはずだ。
マインの殺傷能力、あなどれない。
「リーナ!」
「んっ、任せて」
リーナが素早く相手に近づく。そのまま、目にも止まらぬスピードで四方八方に切り裂いていく。
そして、ゴブリンキングが消えた。……どうやら倒せたようだ。
「コウタ! 怪我は?」
「ああ、大丈夫大丈夫。このとおり」
手を広げて怪我がないアピールをする。
「よかった」
「リーナは怪我ないか? あるなら治すけど」
「んっ、大丈夫」
「なら、よかった」
あの攻撃をかわせるリーナは改めてすごいな。
ゴブリンキングがいた所を確認。地面には、てのひらサイズの魔晶石が落ちていた。てのひらサイズといえど、普通のゴブリンに比べると10倍以上は大きい。
とりあえず、拾っておく。
「まずは、おめでとうと言おうかナ」
突然、部屋から声が聞こえた。この声は、
「神様か?」
姿はないので声だけか。
「ああ、そうだヨ。言い忘れていたが、クリアしたら次の部屋に転送機がある。それに乗ったらクリアしたことになるからネ。もちろん2人同時に乗ならいと作動しないからネ。それじゃあ、またネ」
「あ、ちょ」
ったく、一方的すぎる。
まぁ。何はともあれ、勝ったわけで、
「それじゃあ、かえりますか」
リーナに手をさしだす。
「うん。わかった」
リーナは俺の手を握ると笑顔でそう言った。
初のボス戦は無事、勝利で幕を閉じる。