6話 罠師
――罠師。
単純な見た目だけで言えば悪党のような感じがするが、スキルの落とし穴、ってのからはなんか可愛さを感じる。
「なあ、リーナ。罠師ってジョブ知ってるか?」
「――? 聞いたことない」
うっっ。どうやらまたマイナーなジョブのようだ。まぁ、そんな気はしていたが。俺だって勇者やら賢者みたいなかっこいいジョブになりたかった。
だいたいゲームでも滅多に見ないぞ、罠師なんて。落とし穴なんか、某狩りゲーぐらいでしか見かけないし。いや、あれは便利だけどさ。
まぁ。それはそうと、
これで俺はジョブを2つ持ったことになる。
――回復師と罠師。その他にも、ステータスを見るにあと2つはありそうだ。
普通に考えて、ジョブは1人1つ、というのが一般的だろう。最初の水晶に触れた時だって、クラスの中で2つ以上のジョブを持った人は1人もいなかった。この世界でもそれは当てはまると思う。自分で言うのもアレだが、俺はイレギュラーな存在なのかもしれない。
となると、問題は俺がこのジョブをリーナに話してもいいのかどうかだが、
――いや、考えすぎか。
「……実は回復師のジョブの他に罠師のジョブも持ってるんだ」
「えっ? ホント?」
「ああ、嘘ではないかな」
「…………」
えっ、なんで黙るんだ。……やっぱり話さない方が良かった――
「すごい」
「へっ?」
リーナが目を輝かせながら俺を見つめている。
どういうことだ?
「すごい、コウタ。2つジョブを持ってる人、初めて見た」
「おっ、おお。……やっぱり、珍しいのか」
「珍しいなんて比じゃない。1億人に1人って言われてる」
1億人に1人っ! すごい確率だな。その中の1人が俺……おおぉ、マジ半端ないって。
「そうとなれば、早速使ってみたいところだが……」
次の部屋にいくとゴブリンが2匹いた。
ちょうどいい数だ。
「よし。試しに使ってみるか」
発動方法は……あれっ、どうやるんだ。ヒールの時はスキル名を発すれば発動出来たが……これも同じでいいのか?
「基本はスキル名を発するけど、罠だから……念じるだけでいいと思う」
あたふたしている俺を見てか、リーナが教えてくれた。
「なるほど念じるのか」
たしかに、相手にバレたら罠の意味があまりない。
心の中で落とし穴と念じる。すると、地面に魔法陣が現れた。しかも、任意で動かせるようだ。
よし、これなら。
ゴブリンの真下――足元に仕掛ける。
セットすると、すぐに落とし穴が現れた。
運良く、ゴブリン2匹とも落ちる。
「よし、今だ!」
「任せて。ファイヤボール」
リーナが呪文を唱えると、炎の玉が現れた。そして、そのまま落とし穴めがけて落とす。
「グギァォォ」
ゴブリンの叫びが部屋に響き渡る。が、やがて声が薄れていき、消えた。
穴を覗くと魔晶石が2つ落ちていた。
どうやら倒せたようだ。焼きゴブリンの姿は見れないらしい。
いや、見れなくてよかったけど。
「戦いやすくなった」
「ああ、そうだな」
俺が罠を仕掛けて、罠にかかったところをリーナのファイヤボールでトドメをさす。実に効率的でいい流れだ。
――ん? 待てよ。
「そう言えば、リーナは何のジョブなんだ?」
「……それは、言えない。……そのうち」
リーナが渋った顔で答える。
言えないジョブってことなのか、それとも他に理由があるのか。まあ、どちらにしろ、
「そうか。別に無理に話さなくていいからな」
「うん。……ありがとう」
そう言ったリーナは笑顔を見せる。
うん。リーナは笑顔が1番似合う。
▽△▽
「リーナ!」
「わかった、ファイヤボール」
落とし穴にかかったゴブリンを逃さず、トドメをさす。
「よし、倒せたな。……これで何体目だ?」
「うーん。30体くらい?」
出会ったゴブリンを片っ端から倒し続けて、かれ数時間。なぜか一向に出口が見つからない。
が、その分レベルが上がっている。
回復師 Lv6 → Lv15
罠師 Lv4 → Lv12
ゴブリンがそもそも弱いからか、Lv10あたりからはなかなかレベルが上がらなくなっていった。ここのゴブリンは青い液状のアレと同等かもしれないな。
「それにしても、さすがに疲れたな」
「スキルを消費してるから、余計に疲れてると思う」
「ん? どういうことだ」
「スキルを使うとそれに応じた分の疲れが蓄積されるから」
「あー、そういうことね」
なるほど、道理でRPGでいうところのMPがない訳だ。スキルを使った分だけ疲れが溜まるということか。覚えておこう。
「よし。休憩もここら辺で、次の部屋は……おっ!」
目の前にあったのは大きな扉。それも、俺の身長をゆうに超えている。
これは明らかにそうだろう。
「……ボス部屋?」
「だろうな。……よし、こっからは気を引き締めていくぞ」
「うん。頑張る」
リーナの返事と共に、その大きな扉をゆっくりと開ける。
そこにいるはずであろうボスとの、絶対に負けられない戦いが始まる――