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1年、ダンジョンでくらしたら強くなってました  作者: aoiro
1章 1年、ダンジョンでくらす
17/18

17話 お願いごと


日常回です。





 




 19階層――ここまで来るのに、およそ半年という月日が流れていった。


 そして今、俺達は19階層のボスと対峙している。


 V字型に裂かれた谷下の地形が、左右の逃げ道を塞ぎ、前方には黒々とした色を纏った龍が行く手を阻む。


 そんな黒龍との戦闘は、現在、リーナが相手の攻撃を回避して時間を稼いでいる。


「リーナ、退避だ!」


「わかった」


「今だ、ユニコ!」


「いきます。サンダーブレード!」


 ユニコから放たれる雷の一撃は、黒龍の頑丈な身体を貫通する。


 なお、雷属性の無かったユニコだったが、どうやらあの本のおかげで全属性の魔法が使えるというチートとかしている。


「ギャオオオオオオ」


 黒龍が悲鳴をあげるが、やがてその悲鳴も弱まり、息途絶えたことが分かる。



 ――10階層からリーナの魔法によるワンパンが出来ないボスが現れ、ここ、19階層ボスである黒龍では、5発の魔法が必要だった。


 問題は、ユニコの魔法は詠唱こそ無いものの、次に魔法を撃つまでの数分、いわゆるクールタイムが存在し、それまでの時間は相手の攻撃を防がなくてはならなくなった。それにはリーナの卓越した回避センスが必要不可欠である。


「流石、リーナとユニコだな」


「とーぜん」


「そう言ってくれると嬉しいです」


 リーナは自信たっぷりに、ユニコは喜びながら答える。



 と、まあ、詰まるところ戦闘に関してはリーナとユニコ頼みになってしまっているのが現状である。


 よって、俺の出番というものが一切無い。回復は、リーナが回避しているので全く必要無く、罠も相手によっては全く無意味なことがある。唯一、風使いはリーナを浮かせるという場面で役に立つ時があったという程度だ。


「まあ、俺としては危険がなくていい事なんだよなぁ。……女の子2人に戦闘を任せるって、男としてどうなんだって感じはするが」


「ん?」


「あ、いや、なんでもない。……そうだ、リーナとユニコは、俺に何かしてほしいことってあるか?」


「してほしいことですか?」


「そう。俺にできる範囲なら何でもいいからさ」


「そうですね……」


 と、考え込むユニコ。まあ、こういうのってそう簡単には出ないもんな。


「じゃあ、こうしよう。俺が何でもひとつ、お願いごとを聞こう。二人とも考えておいて」


「わかった」


「はい。分かりました」


 そう約束をして、ダンジョンを退出した。





 ―――

 ―――

 ―――






 ダンジョンから帰ってきた俺は、魔晶石やらドロップ品やらを、ユニコと2人で整理している。


 これらも、ここから地上に出た時の資金源のために集めているのだが、きちんと保管しておかないとドロップ品なんかは価値が下がってしまうものもあるらしい。



「それで、ユニコはお願いごと、決まったか?」



 作業がてら、ユニコに尋ねる。



「そうですね……実はまだきまってないんです」


「例えば、ユニコの好きなこととか」


「好きなこと、ですか。……読書は好きです」



 確かに、ユニコが読書している姿を何回も見てきた。



「読書か……。読書じゃ、俺が役にたつってことがないな」


 そもそも字が読めないという欠点がある。なんなら俺がお願いしたいぐらいだ。


 と、ユニコが肩を抑えているのを見る。



「どうかしたか?」


「あっ、いえ。……実は最近、肩が凝っていて」


「なら、俺が肩たたきしよう」


「よろしいのですか?」


「ああ、まかせて。これでも肩たたき検定1級の資格をもっているからな」



 まあ、実際にそんなのはないが、肩たたきには結構自信がある。



「それでは、お言葉に甘えてお願いします」


「よし。じゃあ、ちょっと待ってて、準備するから」



 ということで、肩たたきのために蒸したタオルを用意する。

 これを肩にかけて温め、肩の筋肉を柔らかくするのが重要。



「よし。じゃあ、いくぞ」


「はい、お願いします」


 ユニコの肩を手のひらを広げて、優しくたたいていく。グーでたたくよりもこの方が効果がある。


「どうだ?」


「はい……とってもいいです」


 どうやら、ユニコもリラックス出来ているようだ。


 次は肩を揉んでいく。こっちも、強く揉むよりも優しく揉んでいく。


「んっ、気持ちいいです。……あの、これ以上気持ちよすぎると……」


「何を言ってるんだ。ここからが本番だぞ」


「ふぇええええ――」



 ――しばらくの間、俺のテクニックを披露していった。



「どうだ? だいぶ良くなっただろ?」


「は、はい。凄く良くなりました」


 そう言ったユニコの顔がかなり火照っている。少しやりすぎたかもしれない。


「それは良かった」


「あ、あの……」


 ユニコがもじもじしながら言う。


「なんだ?」


「……また、お願いしてもいいですか?」


 ――どうやら、俺のテクニックの虜になったようだ。





 夕食の時間。


「よし。出来たぞ!」


 お肉からお刺身、その他にもたくさんの料理がテーブルいっぱいに並ぶ。


「コウタの料理、いっぱいある!」


「凄い豪華ですね」


「手によりをかけて作ったからな、どんどん食べていってくれ」


「でもなんで?」


「ええっと……あれだ。次から20階層だろ? その前にいっぱい食べて力を付けないといけないからな」


「なるほど。では、いっぱい食べなきゃですね」


「そういう事だ。さ、冷めないうちに食べてくれ」


「「いただきます」」





 ―――

 ―――

 ―――






 俺が作ったたくさんの料理に、リーナとユニコは満足そうに食べてくれた。



 その後は、お風呂に入り、後は寝るだけ。


で、俺は自分の部屋のベットに入っている。……のだが、リーナからのお願いごとがまだなんだよな。


 と、扉をたたく音がする。


「入っていいぞ」


 俺の返事を聞いて、部屋に入って来るのはリーナ。



「リーナか。……お願いごとか? それなら何でもいいぞ」


「ううん。お願いごとなら、もう叶ってる」



 リーナはそう言うと、俺の入っているベットに入る。



「叶ってる?」


「うん。こうやって一緒にいることが、リーナのお願い」


「そんなことでいいのか?」


「うん。これが一番いい」


 そう言って、リーナは俺の腕に抱きつく。



「コウタ、今日何かへんだよ。何かあった?」


「い、いや。いつも通りだろ」


「うそ、ずっと一緒にいるから分かる」


「リーナにはお見通しみたいだったな。――多分俺、焦ってるんだと思う。戦闘じゃ出番もどんどん少なくなって……二人とも、俺なんか必要ないんじゃないかって」


「ううん、それは違うよ。多分、ユニコもそう思ってない」



 そう言ったリーナの言葉はとても優しくい声で、



「コウタがいなかったらリーナは何も出来ないし、きっと生きることも諦めてた」


「そんなこと――」


「そんなことある。リーナがそう思ってるから。だから、本当はリーナが感謝しなくちゃ」



 ――そうか、俺はリーナの役に立ててたんだな。



「コウタ、ありがとう」


「良かっ、た…リーナのやくに、たててた…」


「コウタ、泣いてる?」


「泣いてなんか…ない」


「やっぱり、泣いてる」


「だから、泣いてないって。いいから、もう寝るぞ」


 そう言って、リーナから見えないように顔を隠す。



「おやすみ」


「うん。おやすみ、コウタ」



 背中から伝わってくるリーナの体温は、とても温かく、俺を優しく包み込んでくれた――




次回から20階層です。展開が速くてすみません。


5/28日 追記

ユニコの魔法適性属性に関して、全属性使えるようになっている、という説明文を追加しました。


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