16話 こうして、ユニコは強くなった
現在、俺達は4階層にいる。3階層から一日挟んでの挑戦だ。あまり休んでばかりだと、いつ30階層にたどり着くのか分からなってしまうからな。
そう、だから4階層でつまづいてる訳には行かないのだ。
しかし――
「――あぁああ、暑いぃ」
「コウタ、それ禁句」
ここ4階層は、辺り一面砂漠になっていた。それも暑さまで再現されており、ゆうに40度は超えていると思う。本当にここはダンジョンなのだろうか?
「コウタ様、リーナ様。頑張ってください!」
そんな中、一人だけ暑さをものともせず、平然と歩いているのはユニコ。
もともと、ユニコーンウルフは暑さと寒さに耐性があるようで、それは人間化したユニコにも引き継がれているんだそうだ。あぁ、羨ましい。
「ああ。でも最悪戦闘はユニコ頼みになりそうだな」
「分かりました。頑張ります!」
頼もしい返事を返すユニコ。そのやる気はとても有難い。
が、リーナの戦闘にはひとつ疑問が生じる。
「問題はリーナの魔法が氷属性なところだな。この暑さだと溶けないか心配だ。――そういえば、リーナは他の属性の魔法は使えたりしないのか?」
「そうですね……。火属性と地属性の適性が少しあります。でも戦闘ではあまり役にたたないかと」
なるほど。となると、戦闘面でも不安がでてきそうだな。その時は俺とリーナが頑張るしかないか。
「どこか、試し打ちできる魔物がいるといいんだが……」
と、辺りを見渡し探していると、こちらに向かって進んでいく影がひとつ。
「あれは……デザートスコーピオンですね。尻尾にある毒針に刺されると危険なので気をつけてください」
デザートスコーピオンと呼ばれたそいつは、銀色の体に無数の足がはえており、前端には巨大なハサミが二つ。その鋭そうなハサミもだが、なりより目につくのは尻尾の部分。そこからはえる一本の針からは謎の液体が数滴垂れている。見た限りだと毒針で間違いなさそうだ。
まあ、ここまでは俺の世界にいたサソリと同じだ。しかし、その大きさが違った。
このデザートスコーピオン、体はリーナの身長と同じ高さがあり、尻尾まで含めると俺の身長よりもでかい。
幸い、一体だけなのが救いだ。
「丁度いい。この魔物で試してみよう。ユニコ、魔法の詠唱を始めてくれ」
「はい、分かりました」
後は俺等がユニコの詠唱が終わるまでの時間を稼ぐだけ――
「フローズン・バインド!」
「えっ?」
あまりの詠唱の速さに、思わずすっとんきょうな声を出す。
リーナが放った魔法は、相手の足元を凍らせるどころか、その全身を凍らせた。
「えっ? えぇええ!?」
その魔法を撃った張本人であるユニコでさえ、驚きを隠せない様子でうろたえている。
「ユニコ、どういうことだ?」
「い、いえ、私も知りません! 何故か詠唱なしで魔法が発動して……えっとえっと 」
どうやら、ユニコも分からないらしい。
わかったことと言えば、前よりも明らかに詠唱時間が短い……いや、無いと言えることだ。後は、
「ユニコ凄い。魔物、カチンコチン」
リーナが凍った魔物をつんつん突っつく。
そう、見るからに威力も格段に上がっている。その証拠に、この氷は溶ける素振りを見せない。また、足元を凍らせる魔法が全身を凍らせているという点からも、威力が上がっている証だろう。
でも、なんでこんな急に強くなったんだ。
――いや、まてよ。
「もしかして、あの本が関係してるのかもしれない」
「本……ですか? あの消えた本のことですよね?」
「ああ。あの時、確かユニコ、本に触れたよな?」
「言われて見れば……確かに触れました!」
「もしかするとその時、本に隠された力をユニコが受け継いだとか、もしくは吸収したとか、かもしれない」
「……にわかに信じられない話ですが、確かにその可能性はありそうですね」
そう。確かに信じられない話だ。が、もう既にいろいろ信じられないことが起こりすぎている。これくらい起こっても、今更不思議ではない。
「一応、火属性と地属性の魔法も試してみよう」
――ということで、そこら辺にいる適当なデザートスコーピオンに魔法を放った訳だが。
結果、ノー詠唱、ハイ火力。
火属性魔法ではデザートスコーピオンを灰にし、地属性魔法では大地にヒビを入れた。
一言、言いたい。
「強すぎる!!」
「そうですね。私もびっくりです」
これなら、俺等の出番ないんじゃないか?
まあ、それはそれで俺にとってはおいしい話ではあるんだけどな。
と、そう考えている内にリーナが俺の目線に来る。
「どうかしたか?」
「コウタ、のどかわいたぁあ」
「えーと、実は私もです」
そうなんだよな。ずっと灼熱の砂漠にいるから、そりゃのどもかわく。が、残念なことに水がない。こりゃ、次からは水を持参しないとな。
「どっか、砂漠だったらオアシスみたいな所ないのか?」
砂漠といえば思いつくのがオアシス。水があって木が生えているのが印象的だ。このダンジョンにもあってほしいところだが。
「――って、あの遠くのところ、木が生えてないか?」
「うーん、あっ。確かにある!」
「木が生えてるってことは、近くに水があるかもしれない。行ってみよう」
ということで、とりあえずユニコ強すぎ問題は一旦保留にし、オアシスを目指す。
着いた先は俺の読み通り、水が湧き出ていた。周りには数本の木々が生えており、オアシスって感じがする。
「コウタ、お水があるよ!」
リーナも待望の水にテンションが上がっているようだ。
「よし。ここで一旦休憩しよか」
と、気を抜きかけた時、
「ん、なんだ?」
突然、大きな地響きが俺達の地面から聞こえてくる。それは今も継続していて――
「地震か? ……いや、この感じは」
まるで、地面から何か大きいものが出てくるみたいな感覚。
「リーナ、ユニコ、離れろ!」
俺の叫びに2人は瞬時に後ろへ下がる。と、同時に地面から巨大な何かが出てきた。
「ブォオオオオオオオオオオオ!」
「……でけぇな、こいつ」
地面から出てきたのは、例えるなら超巨大な亀。テレビで見たことのあるでかい亀なんか比じゃないくらい、とにかくでかい。茶色い皮膚に砂漠の色によく似た甲羅。
どうやら、オアシスだと思っていた場所は、こいつの甲羅のてっぺん付近だったようだ。紛らわしすぎる。
てか、こいつがボスだとしたらどう戦えばいいんだよ。――いや、まてよ。
「ユニコ、いけるか?」
「はい。とりあえず、火属性魔法で一度牽制してみます」
ユニコが魔法を放つ姿勢をとる。
「メテオストライク!」
上空から隕石のようなものが、巨大亀目掛けて落下し、当たる。
「ブォオオオオオオ!!」
魔物の悲鳴がしばらく続いくが、やがて行き途絶えた。
「やりました!」
「――――――」
牽制とは、一体なんなんだろう。
俺とリーナは、ただ呆然と燃えている亀の死骸を眺め続けた――
あっ、ちなみにその後、亀の死骸から転送機を発見し、無事に家に帰ることが出来た。
一応、めでたしめでたしってことにしておこう。
コウタ
「これ、俺の出番なくね?」




