13話 スキンシップ
――その後、リーナから、ユニコについて聞いた。
リーナ曰く、どうやら、ユニコは魔物のなかでも"希少型"というものらしい。魔物の中でもごく稀に生まれる異出した存在。角がなかったユニコもその1種というわけだ。それでも、希少型から人の姿になる、という事例は聞いたことがないと言う。
何はともあれ、こうして実際に起きてしまっているのでなんとも言えない。考えるのが無駄に感じてくる。
――起きた時間が朝だったので、とりあえず、朝ごはんを作るためリビングへと向かう。
「コウタ様はお料理も出来るのですか? 」
そう聞いてくるはユニコ。
この状況を完全に、とまではいかないが、だいぶ落ち着いてきている。
「ああ。暇な時とか、よく家で作ってたりしたからな」
何を隠そう、中学から友達がいなかった俺はほとんどの時間が暇だったわけだ。休みの日は基本的に家。ゲームしてるか料理してるかの2択だったな。
「コウタの料理、見たことない料理だけど、すごい美味しい」
「見たことない…とは、どういうことでしょうか?」
「あー、……俺の住んでたところ、すげー田舎だったからかな? たぶん見たことない料理が多いと思うよ」
まぁ、さすがに『別の世界の料理です』とは言えないだろう。
「それは楽しみです! 宜しければ私も手伝いますよ」
「おお、ありがとう。助かるよ」
「むぅ、リーナも手伝いたいけど、足でまといになるだけ……」
「大丈夫。気持ちだけ貰っておくから」
少し不機嫌になるリーナを励ます。
リーナは料理が出来ないらしい。センスがない、と言うよりか、単純に知識がないだけかもしれない。今度、何か一緒に作ってみるか。
ちなみに、俺が寝ている間、ユニコがこの家にある本を読んで、その本の中で覚えた料理を作ってくれていたらしい。
物覚えもよく、料理まで出来るという。なんとすばらしい子なんだろうか。
と、そうこう会話しているうちに朝ごはんが出来上がった。
メニューはいたってシンプルな物。
白飯に焼いた魚。半熟卵焼き。
そして、朝ごはんには、かかせないものがもう1つある。
「……このスープみたいなのは何でしょうか?」
「うん。リーナも気になった」
ユニコとリーナが不思議そうに、それを覗く。
「いや、スープっていうか、味噌汁だ」
味噌汁。朝ごはんには欠かすことの出来ない存在であり、俺の大好物である。日本人は米と味噌汁でしょ。これを飲まなきゃ1日が始まらない。
「まぁまぁ、飲んでみて。美味しいから」
「いただきます」
「はい、では……」
リーナはためらうことなく、ユニコは恐る恐るといった感じで飲む。
「美味しい」
「これは、確かに美味しいです」
「そうだろう、そうだろう。この絶妙な味噌の配分がポイントだ。これ以上でもこれ以下でもこの味は出せない」
「コウタ様。今度教えてください。私も作ってみたいです」
「おう、いいぞ」
まぁ、味噌汁はいいとして、さっきから少しきになっていることがある。
「ところで……なんで俺に様をつけるんだ。普通にコウタでいいのに」
「そうですね……私、コウタ様とリーナ様を尊敬しているんです」
「尊敬?」
「はい。あの日、コウタ様とリーナ様に命を助けられて、だから、様を付けさせてください」
「……なるほどね。まぁ、好きに呼んでいいよ」
「リーナも、それでいい」
「――はい、ありがとうございます。リーナ様、コウタ様」
「さ、冷めないうちに食べよう」
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朝ごはんを食べ終わり、片付けにはリーナも手伝ってくれた。後で、えらいえらいしておこう。
それより、前までは朝ごはんを食べたらダンジョンに行っていたが、まだ、俺の体は完全に復活したわけでは無い。ダンジョンの攻略は明日以降でもいいだろう。
なりより、次からの戦闘ではユニコも加わることになる。戦闘における役割、ポジションを決めるのはとても重要である。
「――ということで、陣形を決めておこう」
「陣形……ですか。具体的にはどうやって決めるのでしょうか?」
「そうだな。例えば、リーナは短剣で戦う近接系だから前衛。俺は罠を使ったり回復にも回れる中衛。ユニコはまだ戦いに慣れていないだろうから、後ろで援護したりできる後衛。みたいな感じだな」
「――あっ。そういえばコウタ、風を使ってたような気がしたんだけど」
「ああ。風使いのジョブを取得したんだ」
それを聞いた2人の表情は、特に驚いた様子もなく、「凄いですね」くらいの感じだ。
意外と素直に受け入れるんかい。
「3つもジョブを持ってる人、初めて見た。コウタ、神様?」
「おい、俺をあんな変な喋り方のやつと一緒にしないでくれ。――俺は俺だ」
「なんか、名言っぽい」
名言でいうか、ただカッコつけただけだけだ。そういう意味では、迷言と言えなくもない。
「まぁ、とにかくだ。明日は、俺がさっき話した陣形でダンジョンに挑むから、頼むよ」
「うん。わかった」
「バッチリ活躍してみせます」
リーナはともかく、ユニコはやる気満々なようだ。まぁ、やる気があるのは悪いことではない。
「……それはそうと、3人で行動するにはチームワークが必要不可欠だよな?」
「……そうですね。でも、どうしたらチームワークをあげることが出来るのでしょうか?」
その質問を待っていた。
「それは簡単なことだ。――スキンシップってやつをすればいい」
「スキンシップ……なるほど、さすがコウタ様です」
どの辺がさすがなのか分からないが、うまくのってくれたぞ。
「ということで、その……耳を触らせてほしいんだけど……」
俺の目当ては、そのモフモフとしたケモ耳である。人生で1回でもいいから触ってみたかったんだよな。
「そういうことでしたらいいですよ」
「えっ、いいの? じゃ、遠慮なく」
ユニコの気持ちが変わる前に触らせてもらう。
モフモフしていて、たまにピクっと動くのが最高にいい。今まで犬や猫の耳を幾多となく触ってきたが、これは段違いの触り心地がある。
「んっ……んんん」
「あっ、ごめん。くすぐったかった――って、顔赤いけど大丈夫か!?」
「はっ、はい。――大丈夫です。お気になさらず」
「そうか、ならいいが……」
もしかすると、耳が弱点、なのかもしれないな。次に触る時は気をつけておこう。
――っと、後ろからじっとこちらを眺めている視線を感じる。
「うぅっ……リーナだけ仲間はずれ……ぐすっ」
「あぁぁ、別にわすれてないから! こっちおいでリーナ」
「ぐすっ……うん」
「俺の中で1番大切なリーナを忘れるわけないだろ」
リーナの頭を撫でながら慰める。泣き顔のリーナも可愛い――けど、出来れば泣かないで欲しい。
「うん。……リーナもコウタ、好き」
「ありがとう、リーナ」
よかった。いつもの笑顔モードのリーナに戻ってくれた。
「ふふっ。コウタ様とリーナ様は仲がいいですね。羨ましいです」
ユニコが可愛らしく微笑みながら、こちらを眺めている。
「羨ましい、か。ユニコともこれから仲良くしていきたいからさ、よろしく頼むよ」
「はい、こちらこそよろしくです――」
――そして、この日彼は思った。
スキンシップを日課にしよう、と――。
しばらく投稿できない日が続いてしまってすみません。
また、ちょっとずつ頑張っていきたいと思うのでよろしくです。




