11話 約束
――気づくと、森の奥深くまで進んでいた。一応、くだってる様子から迷ってはいない。それに、ユニコならこの森に詳しそう。
仮に、もしこれが自分1人だったら……迷子になっていたかも……いや、なってた。これもユニコのおかげ。
が、しかし、しばらく歩いていると、ある問題が起きる。
目の前に、流れが激しい川があった。
これは、万が一落ちたら……怪我じゃすまなそう。
そうだ! 川沿いに沿って進めば下に行けるかもしれない――と、思っていたが、実際に川沿いに進むとすぐに滝のようになっていた。この高さじゃ、さすがに飛び込めない。
「むぅ。これじゃ先に進めない……」
もときた道を引き返すしかなくなる。そう、考えていると、ユニコが吠えだした。
「どうしたの、ユニコ?」
見ると、ユニコの地面に魔法陣が出現していた。
「魔法!?」
魔法を使う魔物は、いることにはいるが、それは上位の魔物、さらに、その中でもごく限られた魔物だけのはず。下位のユニコーンウルフが魔法を使うなんて聞いたことがない。それ以外となると……
「希少型……まさかユニコが……」
稀に、異出した魔物が産まれ、その魔物は特別な力を有する。そう、聞いたことがある。
確かに、ユニコは他のユニコーンウルフと違って角がないという点では異出していると言えなくはない。
いや、ユニコが希少型かどうかはどっちでもいい。
ユニコは、氷魔法で川を凍らせてくれた。
「ユニコ、ありがとう。これで先に進められる」
ユニコの頭を撫でた。ユニコも、尻尾を振って喜んでいる。
川はガッチリ凍っていて、体重を乗せても大丈夫だった。
ここまで固く凍らせるには、それなりに強力な氷魔法でないとダメなはず。ユニコは、相当な氷魔法の適正がありそう。
何はともあれ、これで問題が無事解決した……はずだったが、川を渡り終えたところで再び問題が発生。
「グルゥゥルッッ」
今度はユニコーンウルフが4匹、川を渡り終えた場所にいた。
すかさず、短剣に手をかけ……ようとしたら、ユニコが前に出た。
「ユニコ! 危ないからさがってて」
が、それでもユニコは前に出る。
このままじゃユニコが危ない。そう思い、すかさず助けようと動き出そうとしたとき――
「うおぉーーーん」
ユニコが大きな声で吠えた。
急に吠えたからか、ユニコーンウルフは驚いて、その場から立ち去っていた。
「ユニコ……もしかして、助けてくれたの?」
「くぅーん」
「よしよし、ありがとうね。でもユニコ、危ないときはリーナに任せるって約束して」
「くうん」
ユニコの頭を優しく撫でる。
ユニコは、リーナが守らなくてはいけない。もう、一緒に家に帰ると決めたから――
「うん。ありがとうユニコ」
そして、再び前を歩き出す――
▽△▽
歩き始めて、数十分。ふと気づくと、広い平野のような場所を見つけた。
「……なにここ」
そこには木々がなく、草むらもそこまで生い茂っていない。そんな平野が、長方形のようになっている。
まるで誰かが意図的に平野を作ったように……いや、まさか――
「ユニコ、今すぐここから――」
すぐにその場から離れようとしたとき、不意に地面が大きく揺れ出す。
まずい、という予感は的中してしまう。
「グオォォォォ」
雷鳴のように、鋭い咆哮が平野に響き渡る。その魔物は黒い龍鱗だが、腹はどちらかと言うと赤黒い。長い尻尾に、その大きな翼をはためかせる。
「――ニースへック!?」
紛れもなく上位の魔物。ドラゴンの姿をしたニースへックは、普通、火山方面に住んでいるとされる伝説のドラゴンのはず。それが、なぜこの森の中にいるのか……
いや、いまはそれより――
「ユニコ、私の後ろに隠れて」
ユニコは、指示に従って後ろに隠れた。ちゃんと言うことを聞いてくれてよかった。
再び、ニースへックの方を見る。
唯一の救いは大きさが小さいということ。伝説の話では、もっと大きく描かれていた。……こども、なのかどうかはわからないが、それでも大きいことにはかわりはない。
勝てるか、と言われたら、無理かもしれない。それでも、後ろにはユニコがいる。1度、守ると決めた。なら、最後まで守りぬいてみせる。
「はあぁぁ!」
短剣を抜き、一気に距離を詰めようとするが、ニースへックが、翼で突風を作り出す。
「きゃぁ」
そのまま、大きく吹き飛ばされる。
ダメだ。これじゃ、近付きようがない。
さらに、ニースへックは余裕を与えず、その口から炎を吐き出す。
起き上がろうとしている間にやられ、防ごうにも、それが出来ない。
目を瞑って覚悟する――
――しかし、一向に攻撃が来ない。
ゆっくりと目を開ける、と、
「ユニコ!」
ユニコが、氷魔法で氷を柱のようにして、炎を
防いでいた。
が、その柱もヒビが入っている。壊れるのも時間の問題。
「りぁぁ!」
ユニコを抱きかかえて、横に飛び込むように回避。
炎は、地面の草むらをいとも簡単に灰にかえた。あれに当たったら間違いなく終わる。
ニースへックの方を見ると、今度は、地面に魔法陣が現れる。
氷魔法で、つららのように鋭いものが、自分に向けて放たれる。
「――――っ!」
その攻撃を、身を投げたしたユニコに当たった。
「くぅん」
「ユニコ! ダメ、死んじゃ嫌」
急所には当たっていなかったが、脇腹からは血が出ている。
「はやく、治さないと」
服の一部分を破り、傷口に巻く。が、そうしているうちにニースへックがこちらに近付いてくる。
「ユニコを、救えなかった。また、1人――コウタも、もう……」
目から涙が流れ出る。そうだ、あの時も自分は結局、何も救えなかった。
ユニコも――コウタもいない世界なら、もういっそ、死んだ方が――
「俺を勝手に殺さないでくれよ」
目の前にいたニースへックの地面が爆発する。
「グオォォォン!」
突然の爆発に、ニースへックは後ろへと遠ざかる。
――この攻撃、あの声。まさか、
「こう、た?」
「ああ、ごめん。またせちゃって」
「こう、たぁ」
コウタの体に抱きつく。ほんわりとあたたかい温もりを感じる。うん、確かに、生きている。
「ごめん。……1人にさせちゃって」
「んっ。――そうだ、コウタ。ユニコが……」
「ユニコ? もしかして、その子? 分かった」
そう言ったコウタは、ユニコにヒールをかける。傷が塞がっていくが、まだ、絶対安静が必要だ。
「リーナはその子と一緒に離れてて」
「えっ、コウタは?」
「俺はアイツの相手をしなきゃだからな」
「ダメ! 1人じゃ――」
コウタは、人差し指で私の唇にあてる。
「まぁ、任せて」
そう言ったコウタは、1人でニースへックに立ち向かう。
ニースへックは、翼を広げ、地面に浮いた。これじゃあ、コウタの罠が使えない。
すると、コウタは剣を抜いて、縦に一振。
でも、距離があるから当らない、はずなのに、
「クギャァァァァ」
見えない何かが、翼を斬りつけた。それによって、ニースへックは地面に落ちる。
「へっ?」
あまりの出来事に思わず声を出してしまう。何が起こったのかさっぱりわからない。
「ソッコーでケリをつけてやる」
コウタは、剣を相手に向け、そう言った――




