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明風 第一部  作者: 舞夢
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新しい命

明風は建礼門院の左手を握っている。

目の前で鈴音が建礼門院の右手を握っている。

楓は明風の後ろに座り、心配そうに見ている。

「うぅ・・・」

建礼門院の口が少し動いた。

「あっ・・・」

楓が近くに寄って来た。

「やっと、気を取り戻されたのかな」楓

「うん、おそらく・・・白湯を」鈴音

楓が慎重に白湯を建礼門院の口に含ませる。


「どうかな」楓

「大丈夫、この子がいる限り」

鈴音は明風を見た。

今までの明風に対する言葉とは明らかに違う。


「・・・明風・・・」

建礼門院が声を出した。弱々しい声である。

「はい、明風にございます」

明風は声を落として応えた。

「光輝く場所で逢いましたね、明風にも、安徳様にも」

「安徳様の後を追おうとしましたが足が止まりました」建礼門院

「まだ建礼門院様には、あの扉は開かれません」

明風は建礼門院の手を少し強く握った。。


「はい」

建礼門院は明風の手の力の強さに、目を開いた。

「お知らせしたいことが」

明風は楓の方を見る。

「お約束です」

明風は建礼門院の左手を伸ばし、楓のお腹にあてた。

「え?」

楓はいきなりのことに驚く。

「くすっ・・・やっと・・・」

鈴音は笑顔である。


「ああ・・・」

建礼門院は目を大きく見開いた。

「これでは、あの扉は開けられない」

建礼門院は、ゆっくりと身体を起こした。

明風と鈴音が建礼門院の身体を支える。

「ありがたい・・・」

建礼門院は楓のお腹に両手をあてた。

「こんな・・・うれしいことが・・・」

建礼門院は、泣き出してしまった。


建礼門院は、その後順調に回復した。

鈴音や楓の献身的な支えもあったが、何よりも明風と楓の婚礼が待ち遠しくて仕方がない。そして、明風との子を身ごもった楓に、様々な世話を焼く。

鈴音や楓が苦笑するほどなのである。

「これほど、建礼門院様の明るい表情は見たことがない」

鈴音や楓をはじめとした寂光院の尼たちが口ぐちに言う。


「確かに建礼門院様の表情や身体全体に張りが出てきている」

時折訪れる嵐盛と明運も驚いている。

「それほどまでに明風の力があるということだ」

嵐盛は明風の底知れない力を感じている。

建礼門院の命さえ危うい状況を、水無瀬御殿で風雅の修行をする明風に伝えた。

嵐盛としては、せめて「死に水」を明風にと思ったからである。

そんな危うかった建礼門院が溌剌とした生活をするまでに回復している。


「建礼門院様の手を明風が握った瞬間、すさまじい光だった」明運

「うん、何も見えなかった」嵐盛

「ああ、下鴨神社でも、同じようなことがあったが、鴨の大神を初めとして、様々な御力をいただいたのだろう」

明運は目を細めている。


「ところで、婚礼は?」

明運は話題を変えた。

「ああ、後鳥羽様が追って沙汰をとのことだ。まあ、お前の寺などというむさくるしいところではあるまいが」嵐盛

「そのむさくるしいと言うのは余計だ・・・事実ではあるが」

明運はあっさりと認めた。

「後鳥羽様と建礼門院様が、相談なされた」嵐盛

「やはり、そうか」明運

「ああ、親王に準じた婚礼をとな」嵐盛

「準じたとは?」明運

「明風が親王宣下を断った、未だその時にあらずとな」嵐盛

「ふっ・・・あいつらしいな」明運

「仏門にも禁裏にもおさまらない」嵐盛

「では、どう生きるのか」明運

「さあ、わからん」

嵐盛は横を向いた。

「わからんな・・・」

明運はは黙り込んだ。

確かに明風の今後は誰もわからない。

仏門にも禁裏にもおさまらない、その見立ては、嵐盛も明風も同じである。

「まさに、神仏のみが知る、本人とて、わからんだろう」嵐盛は空を見上げた。

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