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明風 第一部  作者: 舞夢
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鈴音の回復と春日舞

鈴音は順調に回復した。

建礼門院の世話や、楓の世話も上手にこなした。

寂光院の他の尼たちにも、上手に溶け込んだ。

自らの過去は思い出せないようであるが、それ以外の日常の所作が非常に美しい。

歌や舞も、とても上手である。

初めて聞いた歌や、見た舞もすぐに覚えてしまう。


建礼門院のいる寂光院には白拍子他、様々な旅芸人が寄る。

白拍子については、建礼門院の実父清盛も立ち寄ることを拒まなかった。

清盛と白拍子の祇園の女御との関係は有名な話である。

それ故、建礼門院は白拍子をはじめとした旅芸人を拒むことはない。

立ち寄った白拍子や他の旅芸人から、都の情勢や諸国の話を聞くことができる。

芸を楽しむだけではなく、京の奥まった寂光院に住む建礼門院たちにとって、都や諸国の話は、貴重な情報源なのである。


建礼門院は白拍子たちの芸を見ながら、鈴音の様子を垣間見る。

「うーん」

建礼門院は、芸を見る鈴音の様子に、他の尼と異なったところがあることに気づく。

「鈴音の目が白拍子の動きに、ことごとく応じている」

「それに、手足も、自然に動いている、もともとの素質なのか、それとも・・・」

建礼門院は、あることを思いついた。

白拍子の芸が終わった後、白拍子の長を呼び、小声で何かを告げた。

白拍子の長は、一瞬身体を震わせたが、そのまま額づいた。

一か月後、再び、同じ白拍子の一行が寂光院を訪れた。

建礼門院の庵の前に舞台が作られた。

嵐盛をはじめとした八瀬の男たちが、きびきびと舞台づくりに動く。

明運や明信の顔も見える。

客席の一番前に建礼門院、鈴音、楓が並んで座る。

後ろには寂光院の尼たちが座った。

まず、伴奏者が、芝舞台の東側に西面して着座し、巫女の装束を着た白拍子が琴を弾く。

笏拍子を打ちながら歌う白拍子と、それに合わせるように銅拍子と小鼓を打ちながら歌う白拍子がいる。

神楽笛を奏する笛役は、神職の服装をしている。

そして 正装した六人の巫女の装束をした白拍子が、「進み歌」に合わせて、楽舎から舞台まで敷き延べられた座の上を、桧扇を胸にかざし、ゆっくりと進んだ。


「これは・・・」明運が嵐盛の顔を見た。

「そうだ、お前の思う通りだ、春日大社の神楽だ」嵐盛が頷く。

「うん、優美なものだなあ」明運は舞台を見入っている。

「たわけもの」嵐盛が舞台を見入る明運の脇をつつく。

「何?」明運は嵐盛の顔を見る。

「見るのは舞台でも嵐盛でもない」嵐盛は厳しい顔をしている。

「鈴音を見ろ」嵐盛は、明運に促した。

「あっ・・・」明運も気が付いた。

鈴音が立ち上がっている。それだけではない。

鈴音の全身が、不思議な光を放っている。

「鈴音に任せよう、これも建礼門院様の、御指示だ」嵐盛は鈴音を見つめている。


鈴音は全身を光らせながら、舞台へ歩き出した。

そして、そのまま舞台に登った。

白拍子たちから、檜扇が鈴音に渡される。

「これは白拍子舞の進み歌で、鶴の子と言う」嵐盛が白拍子の歌を説明する。

「そして次に鈴音が躍るのは、一人舞の松の祝い」嵐盛の言葉通り、鈴音は踊り始めた。

踊りが進むにつれて、鈴音の身体は、ますます輝いていく。

次に六人舞の「宮人」、四人舞の「祝言」と合計四曲が舞われ、「立ち歌」になった。

「鈴音は、おそらく春日大社の一の巫女だった」嵐盛は鈴音を見ている。

「そうか、それで・・・」明運は建礼門院が、鈴音の素性を察したと思った。

おそらく鈴音が、春日大社の巫女であったことを察したのである。

それで、白拍子に頼み込み、ここ寂光院で試してみたと理解した。

「頭の記憶が失われても身体は忘れない、あの、たおやかで美しい舞は一の巫女のもの」

「なかなか、並の白拍子にできるものではない」嵐盛が感嘆する。

「お前のような、無骨な仏門では理解できないか」明運に対し、揶揄までする。

「まあ、よくわからないことは事実である」明運は素直に認めた。


「おい」今度は明運が嵐盛の脇をつついた。

「何だ」嵐盛

「鈴音の光が消えた」明運

「うん、そうだな」嵐盛も、認めた。

「となると」明運

「正気に戻ったということだ」嵐盛

「記憶も・・・もしやか・・・」明運

「そうだ、それはそれで、厄介になるかもしれん」嵐盛の顔が引き締まった。

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