光の中
「建礼門院様」
建礼門院の話をずっと聞いていた明風が建礼門院に声をかけた。
「お命が長くないなどとは寂しい限り、明風は、まだお約束を果たしておりません」
「果たすまでは、まだ・・・それと色々とお聞きしたいこともあります」
「おそらく・・・黄泉の扉は・・・」
明風は建礼門院の後ろにある扉を見ている。
「建礼門院様」
明風は建礼門院の左手を握った。
「あの扉が、今再びお見えになりますか」
建礼門院に問いかける。
建礼門院が後ろを向いた。じっと前を見ている。
「いえ・・・何か光っているだけ、雲の中で・・・」
「先ほどまでは、見えたのですが・・・とても今は・・・見えなくなりました」
建礼門院は不思議そうな顔で首を横に振る。
「おそらく、今、安徳様がお見えになるのは」明風は続けた。
「阿弥陀様と地蔵様の、特別の御計らいでありましょう」
「安徳様は、阿弥陀様と地蔵様に、黄泉の世界から建礼門院様にお逢いになるため、この不思議な世界に導かれたのでしょう」
明風の身体の光がますます強くなった。
言葉は途切れ途切れ、身体も震えてきている。楓が懸命に支えている。
「安徳様は黄泉の世界で、ずっと建礼門院様をお待ちしておられました」
「そして、特別の御計らいを受け、ここで、やっと待ち続けた建礼門院様にお逢いし」
「胸に抱かれ・・・」
明風の額から汗が噴き出ている。
「安徳様」明風は安徳の前に座り込み、抱き寄せた。
「さぞ 寂しく・・・お辛かったことでしょう・・・」
背中をなでながら、同じことを何度も繰り返す。
「うっ・・・うっ・・・うっ・・・」
ついに安徳は泣き出してしまう。
明風が安徳を強く抱きしめると、安徳は明風の胸に顔を埋めた。
「やっと、母様にお逢いできましたね」
明風は安徳の背中をなで続ける。
「本当によかった」
何度も同じ言葉を繰り返した。
「ありがとう」
ずっと泣いていた安徳が明風の顔を見た。
「はい」明風は笑顔で応える。
「そろそろ・・・」
安徳は明風からおり、そのまま建礼門院のところに戻った。
「ありがとう」
建礼門院も安徳を力いっぱい抱きしめた。
「母様にやっと逢えて、うれしかった」
安徳は笑顔である。
「特別の御計らいで、逢えることができた、これも、皇子のおかげ」安徳
「はい、母もうれしく、やっと幸せに」
建礼門院も笑顔である。
「母様の時は」安徳
「はい」建礼門院
「まだですよ、皇子の言う通り、あの黄泉の扉が見えなくなったならば」安徳
「うん・・・」建礼門院
「お母様には、まだ、お役目があります」
「それを果たされたら、お迎えに参ります」
安徳は笑顔である。
「うん、お願いね、その時は皇子、いやお坊さんとしての明風に手伝ってもらうね」
建礼門院は右手で安徳、左手で明風の手を握る。
「必ず、お約束を果たされて・・・」
安徳は建礼門院の顔を見る。
「うん・・・」建礼門院
「それと、皇子がこうして母様にお逢いできるお願いをなされた」
「母様も皇子の本当の母親について、お伝えを・・・」
安徳がそう言いかけると建礼門院が頷く。
そして、明風の表情が変わった。
「では」
安徳は建礼門院の手を離した。
安徳は建礼門院、明風、楓に手を合わせ、踵をかえした。
そのまま、まばゆい光に向かって歩いていく。
建礼門院は一瞬後を追うような動きを見せるが無理だった。
建礼門院には扉が見えず、足が一歩も前に進まない。
とうとう安徳は、まばゆい光の中に入り、姿を消してしまった。
大広間の中には、建礼門院、明風、楓の三人が残された。




