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明風 第一部  作者: 舞夢
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建礼門院と安徳帝 そして明風

明風と楓は、ようやく祭壇の前に着いた。

楓の言う通り、建礼門院は笑顔で小さな男の子を抱いて立っている。

「よくぞ、ここまで・・・」

建礼門院から声が掛けられた。

建礼門院の顔はかなり若く、寂光院で寝ていた時のような弱々しさは全く感じられない。むしろ溌剌として、笑顔が本当に明るい。


「はい、見知らぬ世界ではありますが、建礼門院様にお逢いできまして、これも不思議な御縁かと」

明風と楓は、建礼門院と抱かれている子供に合掌し、深くお辞儀をする。

「いえいえ、再びお逢いできて幸せなのは私の方です」

建礼門院の言葉は何故か丁寧である。

今までは「お逢いできて」などの言葉はなかった。

「地蔵様のお言葉通り、明風、本当は皇子様、神仏の御力を帯びておられます」

「地蔵様から、京の街での様々な癒しのことを、お聞きしました」

「しかし、私には、その前からわかっておりました」

「皇子様が、最初に私のお寺にお見えになった時から、その御力について・・・」

建礼門院様の笑顔は優しい。

「この私も、楓も、どれほど癒されたことか・・・」

建礼門院は楓を優しく見ている。

「そのうえ、皇子様は私の最後に、こんな贈り物を・・・」

建礼門院は、腕に抱いた子供を、そっとおろした。

明風の身体が再び強く光った。

明風が子供の前にひざまずくと、楓もそれにならった。

「・・・安徳様・・・」

明風の声が震えた。

建礼門院が抱く子供は安徳天皇以外には、考えられない。

明風は、この不思議な世界は、おそらく黄泉の世界に通じる場所だと思った。

そうでなければ、源氏方に追いつめられて、海に沈んだ安徳様がここにいるはずはない。


「皇子様、そんな、かしこまったことは無用です」

「さあ、立ち上がってお顔を見せて」

建礼門院から声が掛けられる。

明風と楓は、立ち上がった。

建礼門院から、不思議な、それでいて優しい香が漂ってくる。

その香により、明風と楓は心を少し落ち着けた。

「それから、皇子様のお感じになられた通り・・・」

「ここにいる子供は、安徳様、黄泉の扉の前で私を待っておりました」

建礼門院は、安徳の頭をなでている。

「この私は、皇子様にお逢いできなくなり寂しくなってしまって・・・本当に寂しくて」

「お父様の後鳥羽様にお逢いになるのだから、仕方がないけれど」

「確かに仏道以外のことも身につけなくてはならないことは・・・皇子様として当たり前のこと・・・」

「それでも、本当に寂しくて・・・我がままな私は、食がのどに通らなくなって・・・」

「結局、皇子様の修行の邪魔をしてしまいました」

建礼門院は、ここで済まなそうな顔をする。

「皇子様は修行を半ばにして、わざわざ私のもとにお見えになり、私の手を握られ、阿弥陀様にお願いをなされた」

「頭の中がふらふらとした中、皇子様が阿弥陀様に、おとりなしをされているのも聞こえ・・・」建礼門院は涙を流している。

「いつの間にか気が付いたら、ここにおりました。そして、この子が黄泉の扉を開けて出て来たのです」

「既に海に沈んだ子なのに・・・もう、二度と逢えない子とあきらめていたのに」

「この子が、私の所に歩いて来た時・・・本当にうれしくて抱き上げました」

「阿弥陀様と地蔵様、そして導いてくれた皇子様の御力が本当にありがたく、尊く・・・」

「これで本当に、浄土に旅立てる、この子と一緒に浄土に・・・」

「この子は浄土から私を迎えに来てくれたのだと・・・」

「この子が海に沈んでからの私は心が闇に閉ざされ、生きながら死んでおりました」

「皇子様は、その私に、再び光をともしてくれました」

「本当にありがたいことで・・・皇子様には、最期にしっかりとお礼をしてから、浄土に旅立とうと・・・ここで待っておりました」

建礼門院は声が震えている。

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