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明風 第一部  作者: 舞夢
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建礼門院の声

乳白色の光の点滅は、少しずつ大きく強くなる。

しかし、まだまだ遠いようだ。

なかなか、光の発している場所には、到達できない。


「なかなか、遠いね」楓

「うん、まだまだみたいだ」

明風はそう言って笑った。

「でも・・・」明風

「でもって、なあに?」

楓は明風の顔を見る。

「この雲の上にいるだけでも不思議なのに」

「地蔵様にお逢いし、声をかけていただいて」明風

「そのうえ阿弥陀様より御沙汰って、どうかしちゃったのかな」

明風は首をかしげる。

「うん、どうかしちゃった世界に入り込んでしまったの、きっと」

楓は明風の手をしっかりと握りなおした。

「うん、進むしかないね」

明風も楓の手を、より強く握りなおした。

「でも、こうやって明風と歩いているの、好きだよ、落ち着く」

楓はうれしそうである。

「うん、ありがとう」

明風は素直に応える。


「それからね、建礼門院様との、お約束って言っていたでしょ」

「明風が建礼門院様の手を握って、阿弥陀様にお祈りしている時に・・・」

楓は明風の顔を見る。顔は真っ赤である。

「うん」

明風も真剣な顔になる。

楓が、次に何を言うのかはわからない。

「約束は、果たせるよ、必ず」

楓はきっぱりと言い切った。

「え?」

明風は、意味がわからない。

「やはり、自分のことは、鈍感」

「それに、さっき地蔵様がもう一つおっしゃられたことも、わかった」楓が笑う。

「それって何?全く意味がわからないよ」

明風は聞き直すが、楓は笑うばかりで、それ以上のことは言わなかった。

ただ明風の手を握り、笑顔で歩くだけである。


乳白色の点滅は、かなり大きく強くなっている。

「あれ・・・」

明風が目を凝らしている。

「え?」

楓も目を凝らした。

「・・・あそこなのかな・・・着いたのかな」明風

進む先に白い石でできた階段が見えている。

乳白色の点滅は止まり、ただ光が照らしているだけである。

「こんな建物見たことがないよ」

楓は眼を丸くして見ている。

まず白い石でできた広い階段。その上には、同じように白い石でできた太い柱が並ぶ。

乳白色の光は白い石でできた屋根の上でも、光を放射している。


「これは、大和の国の建物ではないなあ、大和の国なら、柱は木を使う」

「ここは、白い石を使っている」明風は、頭が混乱する。

自分と楓は、いったいどこに来てしまったのか、どこにいるのかさっぱりわからない。

 

戸惑う明風と楓の耳に懐かしい声が飛び込んできた。

「明風、楓、階段をのぼりなさい」

建礼門院の声である。

弱々しい声ではない。張りがあり美しい声である。

「はい」

明風は楓の手を、しっかりと握りなおした。

「やっとお逢いできる」

その安心感が足の力を強めた。

白い石でできた階段を楓と一緒にのぼる。

階段をのぼりきると、大きな黒い鉄の扉が見えた。

近づくにつれて、本当に大きい扉であることがわかる。

扉には様々な景色が刻まれているが、どれも明風や楓には見たことがない景色である。

「進むしかない」

明風と楓はようやく扉の前に立った。

明風が扉に手を伸ばすと、扉が音もなく開いた。


扉が開くと、数百人は入れそうな大きな広間が目の前にある。

床は、磨き上げられた白い石でつくられている。

奥に大きな祭壇があり、両側に灯台が二本、ここにも乳白色の灯りが灯されている。

また、祭壇の前には、たくさんの黒檀でできた長椅子が置かれている。

「こんな広間は見たことがない」明風

「いったい、ここはどこなの?」

楓が不安そうな顔になる。

「うん、よくわからない、窓も光っている、外の景色は見えない」

確かに窓はあるが、乳白色に輝いているだけで、外の景色は全く見えない。

「怖いよ、明風・・・こんなところにいて、大丈夫なの?」

楓は、泣き顔になっている。

あまりにも異質なところにいる、その不安が大きいようだ。


「大丈夫だよ」明風は楓の手を強く握る。

「さっき、建礼門院様のお声も聞こえた」

「おそらく、この先に建礼門院様がおられる」

明風は、前を見ている。

「・・・あれ・・・」

楓の足の動きが速くなった。

「うん、おそらく」

明風も同じように速くなる。

「祭壇の前」楓

「うん、建礼門院様だ、それと・・・」

明風は目を凝らしている。

「小さな、きれいな服を着た男のが子が建礼門院様に抱かれている」

楓は不思議そうな顔をする。

「うん、急ごう」

明風は足を更に速めた。

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