表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明風 第一部  作者: 舞夢
62/81

地蔵菩薩との会話

明風と楓は手をつなぎながら乳白色の光の中を歩いていく。

心なしか、甘く爽やかな香りが漂っている。

「いい香りね」楓

「うん、甘い香り」明風

「みかんとか、橘とか、そんな感じ」楓

「へえ、よくわからないや」明風

「うーん、まだまだだなあ」楓

「え?まだまだって?」明風

「せっかく水無瀬で、風雅の勉強をしていたのに、まだまだってこと」楓

「うーん、そう言ってもさ」

明風は楓に簡単にやり込められてしまう。

「ねえ、光が大きくなってきたよ」

楓が点滅する光を指さした。

「うん、何かあるね、きっと」

できれば建礼門院様がいて欲しいと思う。

そうでないと、この乳白色の光の中、途方に暮れてしまう。

明風と楓は歩き続けた。

しかし、先は遠いのか、なかなか、たどり着くことが出来ない。


「あれ・・・」

明風は再び異変に気がついた。

「え?どうしたの?」

楓が不安そうな声を出す。

「誰かが立っている」明風

「誰かって、建礼門院様?」楓

「いや、違う。頭が丸いし、錫杖を持っているから、お坊さんだと思う・・・」

明風は目を凝らしている。

「うーん・・・」

楓も同じように目を凝らす。

少しは、光に目が慣れて来たようだ。


「え?あれ?」

明風が大きな声をだした。

「明風、どうしたの?」

楓は明風の突然の大声に驚いた。

「どうしたって・・・あそこに立っている人・・・」

明風は嬉しそうな顔をした。

「行こう!」

明風は楓の手を握ったまま、いきなり走り出す。

「わっ!」

楓は、転びそうになりながら、同じように走り出した。

「あっ・・・え?」

楓も走りながら、光の中に立つ人をはっきりと見る。

「うん、動いているよ、手招きまでしている」明風

「まさか、こんなことが・・・」

明風と楓は、走る速度をあげ、その人の前まで急ぐ。

ようやく明風と楓は、その人の前にたった。

一緒に頭を下げ、合掌をする。


「はい、そんなに急がなくても」

合掌をする明風と楓に、その人から声がかけられた。

やさしく滋味あふれる声である。

「まさか・・・ここでお会いできるとは」

明風は深く礼をする。

「本当にうれしいな、会えるなんて」

楓も続く。

「いえいえ、毎日拝んでいただいて・・・」その人は錫杖の鈴をチリンと鳴らした。

するとその人を包んでいた乳白色の光が薄くなった。


「地蔵菩薩様ですね」

楓がニコッと笑う。

明風と楓の前に立っている人は、明風が子供の頃から毎日拝んでいる地蔵菩薩そのものの姿である。

「大丈夫ですよ、ずっと見ておりました、明風様と楓様、懸命に走ってこられて」

「建礼門院様と・・・そして」

地蔵菩薩は、優しい顔を明風と楓に見せる。

「特に明風様にとって、大切なお方のことのため」

地蔵菩薩は不思議なことを言う。

「私にとって大切なお方ですか」

明風は意味が理解できない。

今は建礼門院様を探すことが一番の大切であるし、建礼門院以上に「大切なお方」と言われても、よくわからない。


「はい、明風様は特別な御力を授けられ、お生まれになりました」

「今まで人々を癒してこられた御力は、まさに神仏から授けられた力なのです」

「この後も、この御力をお使いになり、この世で苦しむ方々を癒してあげてください」

「もちろん、私たちも、できうる限り、お助けいたします」

「そして、その大切なお方とは」

地蔵菩薩は続けた。

「建礼門院様と、明風様の本当に大切な、そして秘せられてきたお方」

「全ては・・・これから、阿弥陀様より様々な形で、御沙汰があります」

「この地蔵の役割はここまでです」

地蔵菩薩は明風に向かって合掌した。

そして、地蔵はいきなり、その身体を消してしまった。

再び明風と楓の進む先には、点滅する乳白色の光が見えるだけになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ