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明風 第一部  作者: 舞夢
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明風を預けた理由

「お前を明運の寺に預けた理由だ」

後鳥羽院の大きく開かれた眼は、明風の眼を捉えて離さない。

「はい」

明風は畏まった。

今まで育ててくれた師匠明運からは、何も聞いていない。

「かなり寒い夜に、寺の門前に置かれていた」

それ以外のことを、明運は言わなかった。

明風にとっては、全ての悩みの始まりである。

出生への疑問、何故預けられたのか、捨てられたのか。

自分の親がわからない。時々哀しく寂しくなることもあった。

幼いころ懸命に育ててくれたお妙さんや茜さんには、感謝してもしきれない。

しかし、「実の親」ではない。

争乱が続いた世であり、そんな境遇の子供は多いかもしれない。

しかし、寂しい時は、そんなことは慰めにはならない。

明風自身の本当の寂しさを癒すことはできないのである。


「冬の寒い、雨が降らない日が続いた、火事は、京の街のあちこちで起きる」

「争乱や闘争も未だ多い、いつ、巻き込まれるかわからん」

「それに・・・皇子となれば、ますます危ない場合がある」

「後鳥羽には、親王も何人かいる、粛子のような内親王なら、まだいい」

「しかし、親王となると、いつ何時何があるかわからない」

「風邪を引けば煎じ薬といって、毒を盛られ、殺められた皇子も何人かいるのだ」

「摂関家、公卿、武家でも同じようだ」

「どこでも苦労するのは、世継ぎが出来るかできないかなのだ」

「何しろ無事に生まれるのか、育つのか、全く確かなものはない」

「后がいて、まだいろいろと、女房がいる、それもこれも、世継ぎを作り残すためだ」

「世継ぎが無い故の争乱はこの国に限らず、数知れない。それを防ぐためだ」

「世間で考えるような単なる色好みではない」


確かに、特に天皇に子が無かった場合、あるいは夭折した場合、誰が皇位を継ぐのか。

天皇に兄弟が無い場合もある。後ろ盾の摂関家の中でも、様々な争いがある。

「世を混乱させないためには」天子には、世継ぎが必要なのである。


「お前は、生まれた時から、光があった。女房達も、毎日こぞって見に来た」

「しかしな、それを憎む女房もいる、いつ何時何があるかわからない」

「光があり、人の気を集めれば集めるほど、憎む者もいる」

「後鳥羽院は、出かけることも多い」

「そして、その出かけている時に・・・ついに争乱に巻き込まれた」

「狙わたのかもしれん、しかし考えている間は無かった」

「それで・・・大原の明運に預けた、後鳥羽の紋をつけた産着に包み」

「大原の明運なら安心できる、無骨であるが心根は本当にやさしい」

「明運自体が武芸百般、それ以上の八瀬の嵐盛も含め、お前を確実に守ることが出来る」

「そのため、京の街から離し、明運に守らせようとな・・・」

「ただ、嵐盛には告げたが、明運にはお前の修行のため真実は秘した」

「真実を告げれば明運の生真面目な性格では修行に遠慮が出るからだ」

「本来なら・・・普通の子として育てたい、親として当たり前だ」

後鳥羽院は苦しそうに首を横に振る。

「だが、何が起こるのかわからん、後鳥羽には守りきる自信がなかった」

「それ故・・・」後鳥羽院は肩を落とした。

明風は、聞くことしかできなかった。今更、謝られても、どうにもならない。

眼の前で肩を落とす、父、後鳥羽院を寂しく思う。

もう少し、何とかならなかったものか、自分が親であったならば、そうしただろうか。

様々、思うことがあるが、今更なのである。


「わかりました、お顔をあげてください」

明風は、後鳥羽院の肩に手をおいた。

「すまないな、申し訳なかった」

後鳥羽院は、顔をあげた。

たしかに、すまなさそうな顔をしている。


「私の母については」

明風はどうしても聞きたかった。

後鳥羽院から聞いた話の中に母は出てこない。

明風は後鳥羽院を見つめている。

「明風の母か?」

後鳥羽院は明風を見つめ、何故か笑った。

「まあ、やはりそうか・・・」

後鳥羽院は不思議なことを言った。

「やはりそうか・・・」

明風は後鳥羽院の笑顔と言葉の意味がさっぱりわからない。

「人の心を読む力。未来や過去を見通すような不可思議な力を持つ者は、案外、目の前の自分の近くのことはわからない」

後鳥羽院は、明風の肩をたたいた。

結局、母については言及がなかった。


「さあ、取りあえず、風雅の特訓を行う」

「まず、蹴鞠からだ」

後鳥羽院は勢いよく立ち上がった。

明風を一旦手招きし、庭に向かって歩いていく。

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