後鳥羽院の招き
「どうして、ここに?」
明風は楓がここにいる理由がわからない。
そもそも大原の寂光院で建礼門院と暮らしているはずである。
「あのね、あなたのこと心配だったから、嵐盛様にお願いして連れてきてもらった」
「もちろん、建礼門院様の書状を添えてね」
楓は「理由」を話した。
しかし明風は、どうにも理解できない。
そもそも、大原の明運の寺を出た時には、水無瀬に来る予定は無かった。
おそらく師匠明運も考えていなかったはずだ。
それなのに、見計らったように、建礼門院様の書状を添えて、楓がこの水無瀬、そして明風の寝所にいる。
楓のいう「理由」では、納得できないものがある。
「建礼門院様がいろいろと教えてくれたの」
楓は明風の身体を強く引き寄せた。
「後鳥羽様はね、行き当たりばったりのように見えて、計画的だと」
「野放図な振る舞いも多いけれど、なかなか、それだけではない」
「だから水無瀬の御殿に貴方を呼んだのも、何か思惑があってのこと」
楓は明風の身体をなでながら、低い声で話す。
「そう言っても、今日、水無瀬の御殿に来るって、どうしてわかったの?」
明風は、そもそもの理由がわからない。
「ああ、それは嵐盛様と後鳥羽様、建礼門院様のお話で決まっていたらしいの」
「ただ、法然様のところで一日伸びたけれどね、それも想定内だった」
「あなたの、お師匠の明運様には、出立の日だけを連絡して、水無瀬のことは言わなかったらしいけれど」楓
「どうして、明運様に言わないの?」
明風は、腑に落ちない。
「うん、明運様は、かなり厳格なお人、お寺とか、神社なら問題ないんだけれど」楓
「うん・・・」明風
「この水無瀬だと、絶対に反対される」
「ここは、何しろ派手、いろんな仏道とは関係の無い人が出入りする」
「明運様は、あなたが、そういうところにいくと、また、拒絶反応を示すだろう、だから行かないって言い張ることが確実」
楓は明風に絡めた腕の力を強くする。
「・・・うん・・・」
確かに、拒絶反応をはっきり示してしまった。
「宴席では、それでも我慢するかもしれないけれど」
楓は、明風の脇腹をつねった。
「痛い!」
明風は何故、つねられるのかわからない。
「建礼門院様が心配したのは、後鳥羽様のこと、夜中に、きれいな白拍子のお姉さんを、忍ばせることは決まりきっている」楓
「・・・そうなの?」
明風は、あまりよくわからない。
「いいから口答えしない、そこで、あなたが大原の里の時みたいに、拒絶反応をして、逃げ出して・・・、川に飛び込むかもしれない」
楓の声が少し湿る。
「・・・」
確かに、そんなことになると、自分でも思う。
「だから・・・」
楓は明風の胸に顔を埋めた。
「うん」明風
「私が夜伽、毎日添い寝をしなさいって。建礼門院様からの御言葉だけど」
「私だって、そうでないと、心配で仕方がない」
明風の胸は楓の涙で濡れ始めた。
「いつ頃決まった話なの?」明風
「うん・・・それは・・・」
楓は、顔をあげて明風を見つめた。
「あなたが、滝で倒れて、運ばれてきた時から、建礼門院様と後鳥羽様の間で、書状のやり取りがあって・・・」
「そもそもね、嵐盛様は明運様以上に自由に動くことができる」
「後鳥羽院様と建礼門院様の間で、以前から書状をやり取りしているらしいけれど、それは全て嵐盛様を通じてなの、その中で明運様には知らせていないこともあるらしい」
「それで日取りが決まったのは・・・」
楓の顔が赤くなる。
「うん」明風
「あなたと結ばれた日」
楓は再び明風の唇を奪っている。
明風と楓は、一晩中抱き合って眠った。
何も考えなかった。互いの愛おしさが二人を包んでいた。
気持ちのいい朝になった。
再び新調した二藍の直衣が準備され、楓が着替えを受け持った。
「うん、このほうが似合うかな」
楓は着替えを終えた明風を見て、にっこりと笑う。
「そうかな・・・」
明風も慣れない直衣ではあるが、楓の笑顔がうれしい。
「粛子様にも、お逢いしてきました」楓
「うん」明風
「とても、綺麗で、あなたに似ている」楓
「そうかなあ、時々、鋭いけれど」明風
「あなたには、それぐらいがいいの」
楓は、笑っている。
「とにかくお願いしますって言われました」楓
「・・・そう・・・」
明風はため息をつく。どうにもかなわない姉である。
「ああ、それから後鳥羽様の所へ」
「あなただけに話したいことがあるって」楓は真面目な顔になった。
「うん」明風
「すごく難しい顔なさっている」
楓は心配そうな顔になる。
「そう・・・」
そう言われても、聞いてみないとわからない。
明風は楓に案内されて後鳥羽院の寝所に向かった。




