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明風 第一部  作者: 舞夢
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父後鳥羽院

何しろ後鳥羽院といえば、子の明風とは対極の生活を続けてきた。

遊蕩、遊山、博打、蹴鞠、競馬に鶏合、賭弓、遊女遊び・・・

思いつきで別荘をあちこちに造り、その際には庭園も意匠を凝らす。

夜中に女官の車に乗ってお忍びで出掛け、朝まで帰らないなどは、日常茶飯事。

とにかく全ての遊びという遊びに熱中し、また、その全てに特異な才能を示すのである。

しかし、明風が批判したように、京都の治安は未だに相当乱れている。

治安においては、検非違使庁どころか、群盗の支配下にあるといってもいいほどである。

そしてその群盗の中に、高位高官のものが含まれるとか、ひどいものは検非違使までいるというのが、かなり確証の高い噂なのである。

それ故、自らの安全は、自ら守らねばならない。

今の流行り歌が「この頃京都に流行るもの・・・薙刀持たぬ尼ぞ無き」である。

そんな状況であれば為政者は、治安を回復する努力と実績を示さなければならない。

ところが、後鳥羽院そのものが、毎日のように遊び呆けている。


「確かになあ才がありすぎる、全てを人並み以上にこなす」

栄西は嘆息する。

「治安の乱れを全て後鳥羽様に責を負わせるのも酷であるがなあ」

「乱れているのは治安だけではない」

明運は、仏門の中でも乱れがあると考える。

叡山の中でさえ、様々な派閥の争いがある。叡山と南都旧大寺の争いもあり、浄土衆への弾圧もある。

それでいて、道端での行き倒れの哀しい人々を「汚れ」とみなし、弔いひとつ行わない。

それどころか、その道を避けるようなことさえする。

「これが人を救う道なのか」

明運が常に自問を繰り返してきていることである。


宴は華やかなうちに、一応の御開きとなった。

広間には、後鳥羽院、粛子内親王、明風、栄西、明運が残った。

定家は「体調不良」と言って帰ってしまった。

「まあ、定家が帰ってしまったが気にするな、あれは頑固者で偏屈だ」

「歌以外の才はない」

後鳥羽院の言葉は、辛辣である。

明運は、昨日の下鴨神社の長明の言葉を思い出し、苦笑している。

「本当に来てくれてよかった」

後鳥羽院は、明風の手を取った

「はい、ありがとうございます」

明風は笑顔で応える。

粛子も嬉しそうな顔である。

「今宵から少し泊まっていけ」後鳥羽院


「少しとは?」

突然の言葉に明風は、少しの「期間」を尋ねた。

「明風には、ここで仏法以外の修行と、どうしても話しておくべきことがある、その話を聞き終えるまでだ」

「その後は、再び明運について修行するなり、栄西でもいい」

後鳥羽院は、明運と栄西の顔を交互に見た。明運と栄西の顔が、緊張する。

「修行の地はどこでもいい、南都でもかまわん」

「どこに行っても、お前の身は護る」

後鳥羽院は、相変わらず笑顔である。

「はい、いずれは南都の地も」

明風は気持ちを率直に言う。

明運も頷いている。

明運自身は、もはや明風に教えることも少なくなってきていると感じている。

特に昨日の下鴨神社から出町柳、行き倒れの人の弔いなどで、太刀打ちできないほどの明風の力を見せつけられた。

そろそろ、一旦師を変えてもいいと考えている。

それに明運自身、一度叡山に出向きたいと考えている。

どうにも今の座主慈円の動きが心もとない。

世の乱れの一因に叡山の乱れもあるのではないかと考えているのである。


「いいか、明風、仏門だけではなく、諸芸も学べ」

後鳥羽院は、真面目な顔になる。

「はい」

明風はかしこまった。

「全て遊戯と言うが、お遊びではない、必死で取り組まなねば、上達もない」後鳥羽院

「定家に歌を教えてもらうのもいいだろう、多少性格は変だが、歌詠みは一流だ」

後鳥羽院は、ますます真面目な顔になった。

「とにかく、仏法以外のことを学べ、それから、またわかることもある」後鳥羽院

「はい」明風は神妙な顔になった。

「さてさて、明風の泊まる部屋は用意してある、そこでゆっくりと休むといい」

「ああ、栄西と明運の両師匠も別室を設けた」そう言い終えて後鳥羽院は立ち上がった。

そして女官を伴って広間を後にした。

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