明風の禅修行
「うん、言われる通りだ」
栄西は、驚いた。
明風の身体は座禅を組みながら、またしても光出している。
「それにこの書状の多さだ、差出人と言い・・・」
栄西は僧衣の中から数通の書状を取り出した。
まず、慈円、親鸞、法然それぞれから明風の安全を願う書状がある。
「建礼門院様までも」
確かに明風が建礼門院と親しいことは聞いていた。
建礼門院からの書状は数日前に、八瀬の邑の長、嵐盛により届けられた。
嵐盛は庭の「手入れ」として、突然やってきた。
そして「書状」を「とにかく内密に」とささやき、栄西の僧衣に忍び込ませた。
書状の中身は流麗な筆致ながら、明風の安全を切々と願っているものであった。
建礼門院は、明運に護られているが、鎌倉方からも「動静」を監視されている。
もし栄西が建礼門院の書状を保持しているとなれば、鎌倉方の余計な詮索を招く。
それ故、建礼門院は「庭師」の嵐盛に「因果を含めた」のだと思う。
「そしてこれだ」
栄西は未だその書状を開けない。
この書状も嵐盛から同じ日に届けられた。
建礼門院からの書状は僧衣に忍び込まされたが、この書状は平伏しながら渡された。
嵐盛の顔も緊張を極めていた。
それだから、栄西も開けようにも手が止まる。
「この御紋は・・・」
開けるにあたっては、一人ではどうしても不安だった。
明風の座禅をしばらく見てから、明運と見ることに決めた。
明風は相変わらずその身体を光らせながら座り続けている。
「本当に清冽、清浄な光だなあ、見ている栄西も癒される」
栄西は、朝廷や鎌倉方、叡山や高野山、南都と言った様々な力の中で、新興の「禅」をいかにして「広めていくか」苦心の日々が続いている。
「明運殿にも申し上げたが。皆、面子と利欲の手下だ」
「自らを省みないものが、何故他人を教導できるのか」
そんな苦心の想いも、明風を見ている今だけは消えている。
「ほっとするなあ」栄西は、見ているだけで心が温かくなる。
この光は、いつまでも見ていたい光だと思う。
本来は禅の講義を行わなくてはいけないが、このままで栄西は幸せになってしまった。
「ふぅ・・・」
明風がゆっくりと目を開けた。
多少、身体を動かそうとするが、ぎこちない。
「おお、ご苦労さん」
栄西は明風に声をかける。
明風の動きのぎこちなさが、面白い。
「はい、しびれました」
明風は、身体を揺すりながら、正直に白状する。
その、苦しそうな顔が栄西には、ますます面白い。
「いや、まだまだ修行が足らんな、鍛えがいがあるな」
栄西は声をかけるが、明風はどうにもならない様子。
完全に脚がしびれているようだ。
「はい、修行が足りません」
明風は素直に頭を下げる。
「そうか、その素直さに免じて、少し質問を行う」
栄西は、目を見開いた。
「よく考えよ」
栄西による「公案禅」の修行が始まった。




