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明風 第一部  作者: 舞夢
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祇園社での明風、長明の懸念、そして栄西

明風は何のためらいも見せずに、祇園社の石段をのぼっていく。

明運もこの時点では、おおよそ大丈夫と思い、大きな危険を感じていない。

朱塗りの楼門が見え、八瀬の男たちも少し離れて警護のためにのぼる。

叡山の山法師たちは、祇園社全体を取り巻き、警護の体制を取った。


楼門を登りきると、疫社、太田社、大國主社がある。

明風は、各社ごとに丁寧な参拝を行う。

「また、光を出している」

明運は、昨日と同様、光を発しだした明風に気がつく。

「大丈夫だろう」

確かに明風の光には驚くけれど結果として悪い方向に向かうものではない。

それよりも、これから何が起こるのか興味さえ覚えている。

明風は本殿まで、歩を進め、丁寧な参拝を行う。

明運はここでも、あちこちに眼を凝らして見張りをする。


「おい」


眼を凝らしている明運の背中越しに突然、声がかけられた。

「む・・・」

明運は声をかけられるまで気が付かなった。

武芸の達人と賞される明運にしては、珍しいことである。

少し、狼狽しながら声の主に振り返った。


「む・・・ではないだろう・・・気を抜くんじゃない」

長明が立っている。


「何だ、お前か」

明運は、ほっとした顔になる。


「お前にしては珍しいな、気が付かないなんて」

「また法然殿にやりこめられて、意気消沈したのか」

長明は、そう言って一旦笑うが、すぐに顔を引き締めた。


「いや、そういうことではないが、お前こそどうした」

明運は、不思議だった。昨日、一旦別れ当分逢えないと思っていた長明が、再び自分の前にいるのである。


「どうしたも、こうしたもない」

長明は真顔である。


「だから何だ」

明運の言葉がきつくなる。


「お参りまではいいが、ここを出られんぞ」

長明は意味ありげな顔をする。


「何?もしや?」

明運は背筋が寒くなる。


「ああ、そのもしやだ、清水方が山法師を取り囲んでいる」

長明は厳しい顔である。


「くぅっ・・・・」

明運は舌打ちをする。


「だいたいな、長明はこんな世捨て人で、どうでもいい人間だから、ここまでのぼって来ることができた。普通の人は、にらみ合いが怖くて近寄れやしない」

長明は、祇園社の周りの緊張状態を明運に説明をする。


「それほどまでか・・・」

明運は自分の甘さに舌打ちをした。

明運はおおよそ、大丈夫であると過信していたのである。


「当たり前だ、何故、祇園社など登った」

「そのまま、検非違使と山法師に守らせて建仁寺に行けば良かった」

長明の言葉は当たり前である。

叡山は京都では絶大な力を誇るが、南都の旧大寺から見れば、未だ新興勢力でしかない。

巧みに禁裏に近づき権力を握った邪魔者と、とらえているのである。

そのうえ祇園社については叡山と過去からの因縁がある。

とにかく、南都にとっては、天台・叡山の動きは、何につけても気に入らない。

妨げを行わずにはいられないのである。

明運はうなった。確かに長明の言う通りである。

そのまま、道を進み建仁寺の栄西に逢えばよかった。

栄西ならば、朝廷にも鎌倉にも、重用されている。

南都の勢力にしても、うかつには手が出せないのである。


「もし、ここで戦闘などすれば・・・」明運

「八瀬も検非違使も叡山の山法師も、もちろん、清水のやつらもだ・・・」長明

「無傷ではすまない、どちらが勝つにせよ、再び南都と叡山の、果てしなく下らぬ争いになろうし・・・」


明運は、ここで頭を抱える。

「明風の命だって・・・」長明

「どさくさに巻き込まれ・・・か・・・」

明運の顔が青くなる。


「出町柳や行き倒れの弔いで、明風の評判は瞬く間に広がった」

「当然、清水を通じて南都にもな」長明は続けた。

「そんな生き仏、生き神が天台の明運のもとにいる」

「明風が南都側にいればいいが、逆だ、奪い取るか、無理なら殺してしまえ」

「相打ちでも構わん、山法師を取り囲む清水の兵が、実際語っていた言葉だ」

長明の言葉はここで切れた。


明運の沈着冷静な顔は、苦悩の表情に変わり唇を噛み「判断の甘さ」を悔いている。

明運と長明の間に重苦しい時間が流れる。


「ところで、明風は・・・」

重苦しい時間に疲れたのか、長明は明風を眼で探した。


「ああ、本殿の前にいるはず」

明運も同じように明風を眼で探す。


「うん・・・確かにいる」

長明は、確かに本殿で一心に手を合わす明風を確認する。

「相変わらず光っているな」

長明は、こんな状況でも輝く明風を見る。


「そうだな、あの光は別の世界のもののように思える」

明運も応える。

「ん・・・」

明風を見ていた長明がいきなり、本殿に向かって歩き出した。


「あれは・・・」

明運も同じように歩き出す。

本殿で手を合わせ一心に祈る明風のところに一人の男が近づいていく。

僧侶のようだ。

明風も、その僧侶に気が付いたようだ。

少し不思議そうな顔をしながら、僧侶を見ている。


「おい、急げ」

長明は走り出した。明運も走り出す。


その僧侶は明風の少し前で足を止めた。

そして、明運と長明に向き直った。


「これは・・・」

明運と長明はまさかと思う。

立っているのは、栄西本人である。

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