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明風 第一部  作者: 舞夢
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叡山と清水の不穏

明風は嬉々として歩いていく。

しかし、明運は慎重に周りを見回しながら歩く。

明風と明運から少し離れて八瀬の男たち、山法師の順に取り巻き警護をする。

明運が慎重になるのは理由がある。

祇園社も近いが、清水寺も近いのである。

叡山と清水寺には、深い因縁があり、今も対立が続いている。


そもそも、およそ百年前、南都興福寺の末寺である清水寺の別当に、理由はわからないが、延暦寺で出家した僧が任じられた。

これに反発した興福寺が、数千人の宗徒を集め、白河上皇へ強訴した。

そのうえ上京した興福寺の衆徒は、叡山末社である祇園社の神人に暴行事件を起こした。

この祇園社も、もともとは興福寺の末社であり、それが叡山に「奪われた」という経緯があった。


しかし、叡山としても、それを見過ごすことはできない。

今度は叡山の山法師たちが、興福寺側に対する報復として、清水寺の堂舎を破損させただけでなく、神輿をかついで入京し興福寺への懲罰を奏請したのである。

 またこれに反発して、興福寺の衆徒も再び御輿を奉じて入京をくわだてたため、叡山の山法師たちの方もさらに騒ぎたてて、事態は拡大の一途をたどった。

たまりかねた朝廷は、やっとのことで、武士や検非違使を派遣し騒ぎをおさめた。

 また、およそ四十年前にも、叡山の山法師たちが、清水寺の本堂以下ことごとく焼き討ちするという僧兵火事を起こしている。

 そのように、過去から興福寺と叡山は抗争関係にあり、その影響下にあった清水寺と祇園社も境界を巡って激しく対立していたのである。


明風が嬉々として歩みを進めている祇園社は、清水寺から至近の場所にある。

「そもそも、今昔物語に書かれたような、下らぬ話ではないか・・・」


今昔物語によれば、祇園社は、貞観元年に興福寺の円如が創建した天神堂が始まりと伝えられている

そのため、もともとは、祇園社は興福寺の末社である。

しかし、ある事件を機に叡山に属することになる。

祇園社の東隣に、叡山に属する蓮華寺というお寺があり、見事な紅葉があった。

当時祇園社の別当をつとめていた良算がそれを欲しがり、寺男に蓮花寺から枝を一本折ってくるように命じた。

しかし、寺男が蓮華寺の紅葉の枝を折ろうとしたところ、住職に見つかってしまう。

蓮花寺の住職は、いかに祇園社の別当の位が高いとは言え、無断で他宗の寺に入ってきて、紅葉の枝を折るのはけしからんと叱り、寺男を追い払った。

寺男から報告を聞いた良算は、これに怒り紅葉の木を根元から切り倒すよう命じた。

一方の蓮華寺は、良算の性格や出方を察し、祇園社側に紅葉の木を切り倒される前に自ら切り倒してしまった。

この祇園社と蓮華寺のいざこざが、後に興福寺と叡山の本山同士の争いへと発展する。

両寺の争いは、朝廷に持ち込まれ、裁判となるが、裁判の途中で叡山の慈恵上人が亡くってしまう。

これで興福寺側が有利になるかと思われたが、慈恵の霊の威力が強かったためなのか、興福寺側の代表であった中尊は裁判に欠席するようになり、結局、興福寺の敗訴となった。

これが祇園社が興福寺から延暦寺に属することになる今昔物語に書かれた原因である。


「まことにくだらない面子争いだ」

明運は法然の言葉を思い出した。


「この世の名聞利養は、なかなか申しのぶるにもいまいましく候」

つまり、仏道において名誉や利欲を求めるなど、話をするのも「いまいましい」と思うべきだということである。

宗門の面子争いで無用な戦闘や破壊を行い、宗門のみならず無関係な庶民にまで迷惑をかける、それが仏門のすることだろうか。

しかし、その争乱が、これから起こらないとは限らないのである。

明運の慎重な目配りは当然のことであった。

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