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明風 第一部  作者: 舞夢
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明運と山法師集団

「おう、久しぶりだ」

法然の禅房を出た明運の前に山法師の体をした男たちが待っていた。

全員が頭を布で包み、薙刀を持ち、高下駄をはき、人数は百人を超えている。


「明運様、こちらこそ、お懐かしゅう・・・」

慈円から、明運一行の警護を命ぜられた山法師の長が跪いた。

その長に合わせて、他の山法師たちも一斉に跪く。


「いや、急の警護、ご苦労であった」

明運は山法師の長の肩を、軽くたたく。

「いや、お礼など・・・」

山法師の長は震えている。


比叡山の僧兵、世間で言われている山法師たちは、眼の前に立つ明運に徹底的に鍛えられた記憶がある。

武器の持ち方から、相手との間合いの取り方、集団と個人の戦い方等、明運に「しこまれた」技術は、その後の戦闘において欠かさざるものになった。

ただ、明運自体は「自ら仕掛ける私闘」は認めなかった。

「あくまでも自衛だ」と言い切り、理由の不確かな喧嘩等を行った者には、徹底した厳しい修行を再び課した。もちろん武器等、取り上げである。

関係のない一般庶民に暴行をしようものなら、厳しい修行どころではなかった。

最低でも三年、通常であれば五年間に及ぶ叡山の石牢で座禅修行を命ぜられた。

その判定は、誰であれ差別を全くしなかった。

それだから、一歩間違えれば死に至る戦闘を行う山法師たちから恐れられ、慕われているのである。


「震えることはないぞ」

明運はそう言って笑うが、山法師の長は震えが止まらない。

「何・・・震えが止まらない理由でもあるのか・・・」

明運が再び声をかけると、山法師の長をはじめとして、たくさんの山法師の身体が大きく震えた。

「・・・そんなことだろうと思った」

明運は静かに山法師たちを見回す。

そしてゆっくりと息を吸い込む。明運の顔が赤くなった。

途端、大音声である。


「この、おおたわけもの!」

山法師たち全員が震えあがり、顔が真っ青になった。

「あれ程、下らぬ私闘はならぬと申し付けたではないか!」

「仏法の王城を守るべきお前たちが、仏法を卑しめて何とする!」

「この上は全員が終身、石牢でも構わぬ!それぐらいの懺悔は致し方ないだろう!」

明運の言葉は厳しさを増す。

朝廷にも恐れられる山法師たちが、何も反駁ができない。


「・・・申し訳ございません・・・」

ようやく、山法師の長が明運に頭を下げる。

声も弱々しい。


「・・・まあ・・・そうは言っても・・・」

明運は眼を閉じた。

明運が叡山を去った後、山法師たちの制御を行える者がいなくなったことは事実である。

山法師になる者は、もともと、荒くれ男たち。

その男たちをまとめるには、かなりの力がいる。

生半可な者にはつとまらない。

明運は、まず、八瀬の邑で武芸を徹底的に鍛えられた。

そして、叡山の厳しい気候の中、仏道と武芸の修行を行い、その人間的な魅力も含めて、山法師たちの絶大な信頼を集めていた。

その明運が山を去り、山法師たちも途方に暮れてしまった部分もある。

その上、源平争乱などで、世情は混乱を極めた。


「致し方ないものもある」

明運は、自省も必要だと思った。

山法師がこんな行状になったのも、ある意味、自分に責があると思う。


「取りあえず、言わねばならぬことがある」

明運は、未だ震えがおさまらない山法師の長を立たせた。


「この山道を降りると祇園社だ、清水も近い」

明風の言葉が重い。


「はい」

山法師の長の顔が、再び緊張する。


「そこでの騒動は認めない」

明運の口調は厳しい。


「・・・」

山法師の長の顔が緊張の度合いを強める。


「何があっても、しっかりと護れ・・・」

明運の言葉に、山法師全員が平伏している。

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