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明風 第一部  作者: 舞夢
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法然の浄土三部経講義

「さてと」

明運は再び、法然に向き合う。

未だ法然の顔は、赤みが消えない。

明運に囁かれた言葉はそれ程の内容であったのか・・・


「うん」

法然は、一呼吸を置いた。

「明運殿、そして明風殿」


法然は二人の顔を順番に見た。

「明日から、明風殿に浄土三部経をお伝えするが、長い経ではない、要諦を伝えよう」

「明風殿なら習得も早いと思う、そして、その後質問に答えよう」

法然の顔に、精気が戻った。

明運と明風は法然に合掌し、額ずいた。

その晩は、法然自らの願いで、明運と明風は、法然の禅坊に泊まることになった。


「しかし、こうなるとは・・・」

明運は、法然に笑いかける。


「そうだな、何故かなあ、とてもうれしい」

法然は、本当に幸せそうな顔をしている。


親鸞はこれ程の師匠法然の笑顔を見たことがない。

親鸞は、悩みに悩んで、叡山を降りた。

その後も悩み、法然の門をたたくが、念仏禁止や流罪、還俗等の苦難の日々が続いた。

「苦労と思えば苦労、修行と思えば修行」と教えられたが、現実は苦労だった。

師匠法然も立場上、苦労だったに違いない。

表面には出さなくても、師匠の心身の辛さは把握していた。


心配して言葉をかけると

「それは世の習い」

師匠法然のあっけなく、そっけない言葉が返ってくる。

「心配しすぎるのもよくない、大切なことは、おおらかに南無阿弥陀仏を唱えること」

常に親鸞の耳に入るのは、この言葉である。


「おおらかとは・・・」

法然に質問する前に自問する。

大きな声なのか、それではどれ程大きな声なのか、あるいは、多くの念仏なのか。

多くとは何回なのか、あるいは時間、日、週、月、年なのか、あるいは「両方なのか」親鸞はどうしてもわからない。

悩みの末、師匠法然に質問する。

「おおらかとは、おおらかである」

決まって答えは、同じである。

「形ではない」

そもそも信仰は数や形で表せるものではないという答えなのかと思う。


「深く考えてはわからないのか・・おおらかとは・・・」

親鸞は目の前で、叡山時代の話に熱中する法然と明運を見ながら、浄土三部経に読みふける明風を見ていた。


翌朝、夜の明けるころから、法然による明風に対する浄土三部経の講義が始まった。

法然の前に明風が座り、明運と親鸞は後ろに控える。


法然は、明風を見ながら丁寧に講義を続けた。

浄土三部経は阿弥陀経、観無量寿経、無量寿経の三部に大別される。

阿弥陀経は、極楽世界の荘厳な様子を詳述し、その世界に行くための具体的な方法は、阿弥陀仏を一心に念じる念仏であること、そしてそれは諸仏から実証されていると説く。

観無量寿経は、一国の王妃がその身に起こった悲劇に苦悩し、その精神的解決を釈尊に求めるという物語を基本として、極楽浄土に往生するための具体的な方法が、念仏であると説く。

無量寿経は、久遠の昔、法蔵菩薩が無上の悟りを得ることを志し、一切の衆生を救済することを本願として、四十八願を立てた。長い修行を経て法蔵菩薩は、阿弥陀仏となり、西方極楽世界が現出。その荘厳な世界を描写したうえで、極楽往生を願う人たちに、その世界に行くための具体的な方法は念仏であると説く。


明風は姿勢をただし、真剣に法然の講義を聞いている。

法然も目を細めながら明風に講義ができることを喜んでいるようだ。

ただ、講義の中で時折、自分を一心に見つめてくる明風の目が光るときがある。

そして、その目の光は強く、清冽、清浄で奥深く強いものを感じる。

法然は、これ程の目の光を持つ者を見たことがない。

明運や親鸞にも力を感じたが、慈円には、何も感じなかった。

ただ慈円は大凡のところでの善人という程度である。


「明運殿」

親鸞が明運の脇をつついた。

「あの光ですか」

親鸞も光に気が付いたようだ。


「そうだ、明風自身は気がついていないが」明運

「少しずつ増しているような」親鸞

「あんなものではない、おそらく無意識に光るのだろうが、今は法然殿の講義に夢中なので、あの程度で」

明運は下鴨神社の一件を思い出した。


「心を解き放った時は・・・」親鸞

「おそらく、誰も・・・」

下鴨神社では、明運自身が気を失ってしまった。

叡山の厳しい修行に耐え、心身の鍛錬は人並み以上と自負している。

しかし、明風の本気の光には他愛もなく我を失ったのである。

「まあ、おかしな光ではないから安心されよ」

明運は親鸞に諭し、光り始めた明風と、講義を続ける法然を見ていた。

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