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明風 第一部  作者: 舞夢
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明運と法然、親鸞そして天台座主

明運と明風が法然の禅房に入り、八瀬の邑の男たちが警備についた。

集まった夥しい信徒は、親鸞の言葉により家路についた。

禅房の中は、法然と親鸞、明運と明風だけになる。


「お久しゅう・・・」

明運は法然の手を取る。


「うん・・・」

法然は明運の手を握りかえす。

「懐かしいなあ・・・」

禅房の前で、叱りつけた顔とは別人である。

柔和で温かみがある。


明運は、法然に、この柔らかさがあるから、あれほどの人々をひきつけるのだと思う。


「それでな、明運殿」

法然は明運の顔を見た。


「はい」

明運も神妙である。

表情が柔和になったとはいえ、対決相手としての法然は手強い。

うかつな対応は出来ない。


「大丈夫だろうか・・・」

法然は明運と明風の顔を見る。


「はい・・・」

明運は、法然は叡山の動きを心配していると感じた。

今、明運と明風が法然のもとにいることは、叡山には既に伝わっているだろう。

何しろ、あれ程の弾圧を受けた相手である。

そして法然は特に、明運と明風について心配していると取った。

法然は、叡山が後に明運と明風に、何等かの「沙汰」を行うかもしれないと心配しているのである。


「いや・・・」

明運は、笑って法然を見返した。

「大丈夫です、叡山は手出しをしません」

明運はきっぱりと言い切った。


「それは・・・」

法然は不思議そうな顔をする。

あれ程疎まれた相手であり、この後、何かあるのが普通だろう。

そして、明運と明風に良くないことが起きるのだと思い、心配なのである。


「今の座主には十分言い含めておきました」

明運は、そう言って笑い、何故か親鸞の顔を見る。


「あ・・・」

親鸞は明運の顔を見た後、表情が変わった。

明運と同様に笑う。


「おいおい、わからぬ」

法然が首をかしげる。

全く見当がつかないようだ。

明運と親鸞は、顔を見合わせて、しばしクスクスと笑っている。


そして、明運が法然の耳に口を寄せ、ささやいた。

「いや、あの歌詠みです」


法然は一瞬目を瞬かせた。

「はぁ?歌詠み?」

法然は眼を閉じた。

少し時間があった。

そして明運や親鸞と同様に笑い始めた。


「そうか、歌詠みか・・・、あいつ、また、登ったのか・・・」

「まあ、酔狂な・・・」

法然にしては珍しく破顔である。


「で、おそらく山法師をこっちに向けていると思います・・・それも護りのため」明運

「何とまあ・・・今まででは考えられない、それで、あいつも来るのか」法然

「いや、来ないでしょう、散々しごかれた兄弟子が怖いとのことで・・・」

明運は法然を見て笑う。


「いや、あの歌詠みに厳しく当たったのは、法然以上に明運殿のほうだと思うが」

法然は、大笑いである。

そして笑いながら明運の底知れない「実力」に感心している。


親鸞は呆れ顔である。

「法然様も明運様も・・・もう少し・・・」


「ああ・・・そうか・・・」

法然は親鸞に、少し頭を下げる。


「そういえば、親鸞殿の得度は歌詠み・・・いや慈円様であったな」

明運は、親鸞の複雑な立場に頭を下げるが、笑っている。


「警護の意味は別の相手で・・・それに手出しをされたとなると・・・」

明運は再び法然の耳に口を近づけ、何かを囁いた。

途端に法然の顔が真っ赤になっている。

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