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明風 第一部  作者: 舞夢
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検非違使に対峙する明運

「今度は検非違使か」

明運の顔が引き締まった。

検非違使は、都の治安維持を目的に、京内外の巡検と盗賊無法者の追補を目的に創設された令外の官である。

時代が経つにつれ、司法を司る刑部省や警察・監察を司る弾正台、都内の行政・治安・司法を司る京職等の他の官庁の職掌を段々と奪い、大きな権力を振るうようになった。

しかし、最近は、上皇の私兵である北面の武士が幅を利かせるようになった。

幼年や若年の天皇が続き、天皇といえども、上皇の意に逆らうことはできない。

それにより、検非違使は、上皇の意を前面に押し出す北面の武士には、頭があがらない。

更に鎌倉方が六波羅探題を設置したことにより、検非違使は更に立場が弱まり、その苛立ちから弱い街衆につらく当たるのである。


「やはりここへ向かってくる」

明運は検非違使たちの意図を把握した。

この京の都で突然これ程の群衆を集めれば、検非違使たちの意図もわからないではない。

「穏便に済ませねば」

明運は明風と群衆を守り、危害が無いことを第一に考えた。

明運は読経を止め、群衆をかき分け、検非違使たちの方向に向かった。


「これはこれは、検非違使様」

明運は群衆を出て検非違使たちの前に立った。

言葉は丁寧で腰も低いが、顔は引き締まっている。

検非違使たちの一番前に立つ者が厳しい顔で明運を一瞥した。

「おい、これは何だ、坊主風情が何の騒動を起こした」

「人の往来の邪魔をしているではないか、全く人が動けない、道を進むことができない」「正直に述べよ、事と次第によっては・・・」

検非違使たちの一番前に立つ男が言いかけた。


「いや、何もありませんな、ただ、念仏を唱えておったところでございます」

「そうしたら、これ程の人がお集まりになられた、これも阿弥陀様の御力でしょう」

明運の言う通りである。確かに、明風と明運は念仏を唱えたに過ぎない。

群衆が集まってしまったのは、単なる結果である。


しかし、検非違使たちは納得しなかった。

「黙れ、怪しい坊主二人!、念仏だけで、これ程人が集まるものか!」

「何か、怪しい技を使ったに違いがない、これ以上、都の中に入れるわけにはいかない」

検非違使たちは、口々に騒ぎ立てる。既に弓を構え、刀を抜いた者もいる。

しかし、明運は一歩も引かない。

「熱心に阿弥陀様を唱え、浄土への迎えを願う人々の邪魔を、何故なさる」

「この集まった人々のお顔を見なされ、皆、浄土への憧れで満ち、輝いておられる」

明運の言葉は丁寧であるが重く、検非違使たちもすぐに反駁が出来ない。


明運は続けた。

「我々程度の念仏でこれ程集まる。そもそも、この世がつらく、苦しいからではないか」

「それでは何故つらく苦しいのか」

「長く戦乱は続き、不幸にも、かけがえのない命を落としたもの、心身に障害を負ったもの、様々な労苦を負ったものは数えきれない」

「しかし、戦乱が終わった後も、都の治安は乱れていると聞く」

「この都の治安を守る仕事をなされている検非違使様たちは、何をなさっているのか」

「本来は京の街を守ってくれるはずの検非違使様たちを見るだけで逃げ出す人もいるではないか・・・その理由はどこにあるのか」

明運の言葉は厳しい。


「うるさい!」

検非違使たちは明運の言葉をまともに聞かない。

かなり怒りを覚えているようだ。

群衆から怯えの声が聞こえてくる。

「聞くところによると中には昼は検非違使、夜は盗賊といったお方もおられるようだな」

「治安を守る仕事をなされているのに、治安を乱す仕事のほうが好きなのか」

「今、お前たちが欲しいのは、坊主のお布施の金と坊主の命だろう」

明運の顔が、ますます厳しくなった。


「・・・うるさい!口の減らない乞食坊主だ、迷惑をかけたから当たり前だろう!」

「・・・とても、こんな無礼で怪しい輩は都に入れるわけにはいかない、いったいどこの寺の坊主だ」

検非違使の言葉が一瞬詰まった。


「ふん、ますます騒ぎ立てるとは、図星ではないか」

明運は、せせら笑い、続けた。

「拙僧は大原の明運と申す、お前たちの言い分、しかと聞いた」

明運は名乗った後、検非違使たちを睨み付けた。


「何?大原の明運?」

大原の明運と聞いた途端、検非違使たちの表情が変わった。

「大原の明運と言えば・・・」「もしや・・・」

「あの、明運様か?」「もし、そうだとすると・・・」

「何かあれば、八瀬の鬼も叡山の山法師も黙ってはいない」

「とんでもないことだ」

検非違使たちは真っ青な顔になり、一斉に弓をおさめ、刀を戻した。


「ああ、このお方は明運様だ」

「若いお坊様は知らぬが・・・」「あの明運様に楯突くとは・・・」

群衆からも声が聞こえてくる。


「明運様、御無礼をいたしました」

検非違使たちの一番前に立つ男がまず、馬を降りた。

他の検非違使たちも続いて降りた。全員が平身低頭である。

わなわなと震えている者もいる。

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