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明風 第一部  作者: 舞夢
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突然の雨

かなり寒い日になった。

明風は明信と二人で、大原の里に出向いた。

いつものように、二人が大原の里に入ると、たちまち人が集まってくる。

経を読み、説法を始めると集まった全員が熱心に聞き入る。

特に最近は若い娘たちが前のほうに座る。


「僧侶の読経や説法などは、あまり若い娘などは今まで集まらなかったが」

「明風目あてかな」

明信は明風をからかう。


「相手が若い人であろうとお年寄りであろうと、御仏のご慈悲に分け隔てはありません」

「大切なことは、御仏のご慈悲を伝え、分け隔てなく苦しみからお救いすることです」

明風は、明信の「からかい」には乗らない。笑顔ながら、真面目一方である。


明信は、もう少し明風をからかいたくなった。

「それでは、ここから一人ずつに別れて行こう」

「一人で御仏のご慈悲を説いて回ることも大切な修行だ」明信

「わかりました」

明風は素直に応えた。


明信は明風一人だけの読経や説法で、どれだけの人が集まるのか興味があった。

読経や説法の途中、明風だけを見ている大原の里の民への「やっかみ」も少しあった。

ただ、空の雲行きが怪しい。嵐でも来そうな空に変わった。

「雲行きが怪しいから、早めに切り上げろよ」

明信はそう言い終えて、明風と別れた。

明風は明信に合掌し、読経しながら明信の進む方向とは逆の方向に歩き出す。


「ふぅ・・・案の定だ」

明信は、ため息をついた。

予想通り、ほとんどの人が明風に着いていく。

特に若い娘たちは全員である。


「坊主の説教も若さと美貌と声か・・・」

明信は枕草子に、そんなことが書いてあったことを思い出す。

結局、人の気を集めるのは、外面的な要素が大きい。

明信は、既に中年となり、容姿もたいしたことがない自分自身を情けなく感じる。

しかし、少数ながら自分に付いてくる人に御仏のご慈悲を伝えなければならない。

明信は明信なりに、歩きながら懸命に御仏のご慈悲を説くのである。


「ん・・・」

明信の予想通りだった。

しばらくして、雲行きが怪しくなり、ポツリポツリと雨が降りだした。

明信は自分の周りの人に家に戻るように促した。

明信は、明風が心配になった。

しかし、明風は、どこまで歩いて行ったのかわからない。

雨は少しずつ大粒になってきている。


「大事になる前に」

明信は師匠明運から明風の十分な警護を指示されている。

大原の里を歩く時も含めて、「明風の安全の確保」は厳命である。

明信は明風の歩いて行った方向に走り出した。


しかし、なかなか明風の姿が見えず、風も強くなっている。


「ん・・・」

人がたくさん戻ってくるようだ。

おそらく明風に着いて行った人だろう。若い娘たちも多く戻ってくる。


「これなら・・・明風もすぐに・・・」

明風の姿を探した。


雨も風も激しくなり雷も鳴り出した。

しかし明風が戻ってこない。

明風を待つ明信のところに、大原の里の民がやってきた。

雨に濡れ高熱となった幼子がおり、薬を処方して欲しいとのことである。

明信は、叡山育ちで薬の知識が深い。

明風のことは不安であるけれど、大原の里の民の願いには応えねばならない。

明信は後ろ髪をひかれながら、幼子の薬の処方をしなければならなかった。



明風は懸命に読経をしていた。

まだ出来るのは読経ぐらいで、わかりやすく説法することができない。

それでも、明風の周りには多くの里の民が集まり、熱心に読経を聞いている。

「この想いに応えなければ」

明風の読経にますます、熱が入った。

雨が降り出したけれど、読経をやめない。

途中で止めることは良くないと思っている。


しかし、雨は激しくなり、風も次第に強さを増してきた。

「これでは・・・」

明風も諦めた。

仏法を聞く人が雨に濡れて風邪にでもなれば、それは悪であると考えた。


「皆さん、ありがとうございます、雨も激しくなりそうなので家に早くお戻りください」

「家に戻ったら、しっかりと身体を拭いて、暖かくしてお早目にお休みください」

「これは、御仏の言葉とお考えください」

明風は笑顔で集まった多くの里の民に伝えた。

明風の言葉で里の民は一斉に走り出した。

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