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明風 第一部  作者: 舞夢
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明風の大原歩き

明風は明信と週に一度、大原の里を歩き、仏の教えを説くようになった。

里の広場でまず経を読む。

経は般若や法華経、阿弥陀経などを読んだ。

次第に大原の里の人々も経を覚え、明信と明風に唱和するようになった。


明風は経を唱えた後、経の説明をした。

経についての説明は拙かったけれど、明風の真面目な話し方が里の人々の心を捉えた。

しかし、広場に集まる人が多すぎ、なかなか一軒ごとに話をしたり、聞いたりしたりすることは難しかった。

明風自身としては広場で話すよりも、一軒ごとに訪問したかった。

その家なりの本音を聞き、その上で御仏の言葉を伝えたかった。

しかし、今これほど目の前に人が集まっている状況では、とても無理。

そして、それが難しいことがもどかしかった。

明運の寺に戻り、実状を報告し、助言を求める。

明風としては、一軒一軒回るには、どうしたらいいのか、師匠の知恵を求めるのである。


しかし、明運は常に一言、「それが仏の御心だ」だけ。

つまり、自分で解決しろということなのか、突き放されてしまう。

明風の悩みは募るけれど、なかなかか解決に至る策は見つからなかった。


明風の大原の里歩きも三か月目に入り、集まる人は、一層多くなってきた。

「ますます人気者です」明信

「まあ、もって生まれた力もあるが、若さゆえの光もある」明運

「ただ、この寺の門前まで最近、明風を見に来る人も多くおりますが・・・」明信

「それが心配なのだ。大原の里だけでの人気ならまだいいが」明運

「変に都や鎌倉方を刺激すると・・・」明信

「そうだな、無用な争いは避けねばならない」明運は、顔を引き締める。


「それに・・・」

明信の表情が、少し変わる。

なかなか切り出せない内容らしい。


「何だ、わからん」

明運は煮え切らない明信の態度が気に入らない。

「師に対し、口ごもるものではない」明運


「・・・そう言われても・・・」明信

言いづらいことは言いづらい。


「うーん、お前が言いづらいのは・・・」

明運も思案する。

「・・・そうか・・・」

明運も何かに気がついたようだ。


「それはそれで心配だ」明運

「門前まで見に来る人も多いという中で・・・」明信

「あの若い娘たちか・・・」明運

「何を明風にしでかすか、わかりませんよ」明信

「明風の身体も・・・か・・・」明運


明風の身体も少しずつ大人びてきている。

「仏門であること・・・」

仏門で修行する男にとって女色は本来厳禁である。

明運にとって、明風に関する新たな悩みが生まれてしまった。


「それと、もうひとつ・・・」明信

「何、まだあるのか?」

明運は怪訝な顔をする。


「明風は態度にほとんど、あらわさないのですが・・・」明信

「うむ」明運

「大原の里で子供をあやす親や、仲良く手をつなぐ親子を見たりすると・・・」明信

「笑顔で接しているものの・・・」明信

「うむ」明運

「何か、別に感じることがあるようで・・・」明信


「うーん・・・」

明運は明信の言いたいことがわかった。

明風の笑顔の中に隠されたものがある。

明風自身は、自分の本当の父も母も知らない。

明運も明風にそのことについて語ることはできなかった。

語ろうとしても、産着の御紋が「明風の出生にかかわる何か」を示しているだけである。

そして、その御紋の意味はかなり特定の者にしかわからない。

明運の周りでは、嵐盛、茜、お妙、明信、そして建礼門院がわかるだけ。

ただ、現状では原因の「真実」の特定が極めて困難であるし、「おそらく」程度の不確かなことを明風に言うべきはない。


「明風も本当は、自分の実の親を知りたいだろう・・・」

「お妙と楓の関係は例の力で見抜いてしまった、そうするとお妙は自分の母ではない」

「明風は、そこでかなり寂しさを感じた」

「お妙を母代りにして育ちながら、建礼門院様を慰めるために、建礼門院様の子供になると言う・・・」

明運の表情が重い。


「あの建礼門院様の前で泣いた時も、もしかしすると、本当の親がわからない捨て子であることの寂しさを感じていたのかもしれませんね」明信

「それだから、建礼門院様に抱かれにいき、子供になると言ったのかな」明運

「・・・産着の御紋からすれば、今の建礼門院様に抱かれても、何ら不自然ではないが・・・」

「それだから建礼門院様は、何の抵抗もなく明風を抱かれたのかもしれない」

「それにしても、確証がない」

明運は考え込んでしまう。

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