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明風 第一部  作者: 舞夢
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明風の成長

明風が寂光院に最初に出向いた時から、既に十年が過ぎた。

明風は、懸命に仏道の修行に励んでいる。

明運も明風の習得の早さを認め、感心するが、他の土地での修行にはためらいがある。

明風をわが子のように可愛がる建礼門院が寂しがること、そして建礼門院の体調が最近特に不安なためである。

もちろん、最初の約束通り、修行の合間に明風はお妙を連れて、寂光院に出向き建礼門院の「お相手」を続けてきた。

建礼門院は、どんなに体調が悪くても明風が来れば必ず出てくる。


「わが子と話をするのは、母のつとめです」

「明風と話をしている時だけ、生きているような気がする」

建礼門院にとって、明風と話をすることが、今は生きがい、生きる支えになっている。

そんな状態で、明風に他の土地で長い修行を行わせることは出来ない。

建礼門院にとって明風に会えないことが、どれほど辛く寂しいことか、計り知れない。

明運から見ても、建礼門院は先も長くないだろうと思う。

そんな建礼門院に寂しい思いをさせてはならない。

叡山の座主の頼みもあり、明風には心で詫びながら、他の土地での修行を許さなかった。

しかし、明運は寺の中と時折訪れる寂光院だけでは明風の修行の場所としては、不足があると考えた。

明運は明風を伴い、月に一度、大原の里で仏の教えを伝える修行を行うことにした。


初めての里歩きの日から、明運の寺とは異なる風景が、明風の目に映った。

家族全員が息災な家、家族の誰かが病に伏せる家。

源平の争乱などで誰かが亡くなる、あるいは怪我を負うなどの被害にあった家。

子供が生まれたばかりの家、生まれた子供がすぐに亡くなり、涙に暮れる家。

裕福な家、貧困にあえぐ家。仲が良い家、喧嘩に明け暮れる家。

仲が良さそうに見えて、心が通じ合っていない家。

また出会う人も様々である。

明風を笑顔で迎えてくれる人はまだいい。

明風はすれ違う人の中で、顔を伏せて歩く人、悲しそうな人が気になって仕方がない。


「いいか、明風」

明運は真剣な顔である。

「はい」明風

「寺で経を覚える、唱える、座ることだけが仏道ではないぞ」明運

「はい」明風

「人を救ってこそ、はじめて仏道なのだ」

「同じ経を様々な家で唱えたところで、その家により、また人により、事情は異なる」

「それに経を唱えたところで、本当にその人に教えは理解できているのか?」

「ただ、尊い教えを聞かせれば、その人なりの悩みを本当に救えるのか?」明運

「はい」

明風は神妙である。

「経を読み、仏を褒め称えたところで、その人なりの悩みは別の所にある」

「その人なりの悩みを救えなければ、経を読んでも人を救ったことにはならない」

「それゆえ、経を読むだけで、人を救えないものは、僧侶とはいえない」

明運の言葉は重く厳しい。

確かにたくさん経を覚え、説教をしてもその人が教えを理解し幸せになる、あるいは少なくとも苦しみから抜けだすことができなければ、意味がないのではないか。

明風は、大原の里を歩くたびに、実感するようになった。


「確かにこれは、本当の修行のように思います」

「もう少し多くこの里に通いたいと思うのですが」明風は、明運に願った。

「うん、それでいい」

明運も明風の成長を実感し、週に一度の大原の里歩きを許可した。

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