第二話:〜八雲邸と九尾の狐〜
※八雲邸はマヨヒガと思ってもらって大丈夫です。
「ここが私が住んでいるところ、八雲邸よ」
スキマから出たところから少し歩いて進んでいくと、こじんまりとした建物があった。
それは、決して綺麗な装飾や豪華な雰囲気などがあるわけではないが、親しみを持てるような温かみがある、そんな家だった。
「なかなかいい家だな」
「私もそう思うわ」
俺が無意識のうちに出た言葉に紫さんが同意をしてくれる。
家──八雲邸を見ていると、玄関のほうから女性が出てくる。
その女性は、狐のような尻尾を九本も生やしており、頭からは耳が生えている。服装や雰囲気と言ったところは紫さんと似ているがどことなく紫さんに仕えているような挙動をしている。
「いえ、おかえりなさいませ。紫様」
「あら、出迎えありがとう。藍」
そう言うと、女性──藍さんは隣にいる俺に視線を向けてくる。
「紫様。その者はどなたでしょうか」
「うん。そこら辺は、中で話しましょうか」
「分かりました」
紫さんが八雲邸に入っていくと藍さんも一緒に入っていくので俺はとりあえずついていくことにした。
◇◇◇◆◆◆
中に入ると和室やちゃぶ台と言ったいかにも和風な部屋に入れられた。
隣には紫さんが、正面には藍さんが、その隣に知らない女の子が座る形になっている。
その女の子も普通とは違い猫耳に、二股に分かれている尻尾がある。
ある意味で、俺は完全に異世界に来たんだなと痛感したばかりでなく、この世界には他にどんなのがあるのか興味が湧いて来た。
「で、紫様。この者は一体……」
俺が感慨にふけっていると藍さんが紫さんに質問を投げかけている。
紫さんはさっきのような微笑みをしながらも子供がいたずらをするような悪い笑みを浮かべている。
「この子は、孤影神慈君よ。外来人で私がここに連れて来たの」
そう言うと藍さんはやっぱりという一種の諦めをしながら紫さんに更に質問をする。
「では、ここで住まわせるのですか?」
「ええ。そのつもりだけど……。なんか問題あるかしら」
紫さんがそう言うと、藍さんは頭を抱えてながらよく分かっていなそうな隣の女の子を撫でている。
俺は、とりあえず黙っといたほうがよさそうなので黙っている。こういう時に、口を出すと酷いことにしかならないのは目に見えているので……
「はぁ……。分かりました。そのことはもういいですが、博麗の巫女にはしっかりと説明されてくださいね」
「分かっているわ。それじゃあちょっと霊夢のところに行ってくるわね」
そう言うとスキマを開いてどこかに行ってしまった。
「………」
「………」
「………」
沈黙が痛い。なんで当事者がどっか言ってよく分からない俺を残して行くんだよ。紫さん。
いたたまれない気持ちでいると藍さんが隣の女の子を膝に乗せて話しかけてくる。
「紫様がすまなかったな……。あの方は、ちょっとフラフラすると厄介ごとを持ち込んでくるような人だから……」
「はぁ……。苦労されてますね……」
「ええ……」
「………」
「………」
話が続かない……。やばい、ものすごく気まずい……。
そういえば、自己紹介してなかったな……。
「そういえば、自己紹介をしてませんでしたね。紫さんから紹介があったと思いますが改めて。俺は、孤影神慈です」
「あぁ……。私は、紫様の式である藍だ。藍で構わない。そして、この子は私の式の橙だ」
「はい。私は、橙と言います。よろしくお願いします」
礼儀正しく膝の上に乗った女の子──橙は手を上げながら自己紹介をする。なんとも、子供らしい自己紹介の仕方に対して礼儀正しい挨拶だった。
俺は、とりあえず自分がどうして来たのかを藍さんに話しながら時間を過ごした。
◇◇◇◆◆◆
一通り話し終えると、藍さんは胡乱としたような眼差しで見る。
「楽しそうね……。そんな酔狂な考えで来たと言うなら今すぐに元の世界に帰ったほうがいいよ」
「どうしてですか?」
俺がそう質問すると、体が反射的に後ろに飛び退いた。不意に藍さんが危険な雰囲気と圧を出したからだ。
「これが、答えだ……。このくらいの圧で飛び退いてしまうということは君の体はこのくらいの圧で危険だと判断したということだ」
「それが悪いと言うことですか?」
「ああ。私なんて可愛い者だよ……。ここ幻想郷は猛者ばかり揃う、それこそ化け物と言われるような者がゴロゴロいる」
「つまり、圧倒的に実力が足りないということですか……」
「そうだな……」
うむ……。せっかく来たのに帰されるのは、納得いかないし、紫さんが言っていた俺の中にある力は気になるし。
でも、藍さんが言うことも分かる。だったら……
「では、藍さん。俺と勝負をしてくれませんか」
そう言った瞬間に、周りの雰囲気がガラリと変わって周りが少し暗くなる感覚をする。明らかに、先ほどとは別物の圧だ。
藍さんは橙を膝の上から下ろすと、ナイフを向けているような殺気を飛ばす。
俺がやっていた武道の師匠のような達人が出す殺気と根本的に違う。人ならざる者が出す未知で原始的に人間に恐怖を覚えさせるような殺気だ。
「本気で言っているのか……」
今までと違う恐怖を引き出す声質で少し戸惑うが、俺にも譲れない事だから敢えて、こちらも今まで違うような口調で
「ええ……。貴方を倒せばここにいる権利はあると思うので」
そう言うと藍さんの殺気が増す。平静を装っているが、正直言えばかなり怖い。
まさに一触即発の雰囲気で橙は今にも泣きそうなほどブルブルと震えている。
そして……
「分かったわ。やりましょうか……」
そう言いながら立ち上がり気軽に約束を誘うように、しかし決して油断できないような殺気を漂わせて
「弾幕ごっこを」
そう言い放った。




