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プロローブから中盤まで

誤字、脱字、表現の変なところがあったらご指摘ください。


泣いて喜びます。




感想もお待ちしています。

 夕刻。太陽が地平の向こうへ姿を隠し、日の温かみが抜けてきた時間。

 王国の隅、とある小さな宿場町の、一軒の酒場。

 仕事を終えた労働者たちが集い、騒々しい調べに満ちた店内、その一角。


「えーそれでは! 今日の冒険の成功を祝して。かんぱーい!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 勢いよく打ち合わされる杯達。金色の飛沫が散る。

 それをかかげる者たちは、一見どこにでもいる冒険者のパーティーに見えた。


 軽鎧を着た、黒髪の少年。

 真っ白な法衣を纏った、瀟洒な少女。

 黒い三角帽子を被った、朗らかな壮年の男。

 白銀の鎧を着込んだ、鋭利な女性。

 傍に長大な槍を立てかけた、野性味を宿した青年。


 総勢、5名。


「今回の”砂漠の遺跡”は苦戦したね」


「そうですね。魔術師様の風の守護がなければ、熱くて踏み込むことすらできなかったでしょう」


「いえいえなんのなんの。やはり今回の成功の立役者は聖女様ですな。あの守護の防壁がなければ、溶岩の礫が飛び交う通路を攻略できなかったかもしれませんな」


「遺跡内部の複雑な構造もそうだけど、まさか”魔王四天王”の一人とかち合うことになるなんて思わなかったわ」


「ああ、聖騎士の姉御の言う通りだぜ。僕たちがやっとの思いで見つけた”伝説の剣”のありかだったが、魔王軍の奴らに先回りされてたんだ。奴らの情報網を甘く見てたぜ」


「でも、勇者様の活躍で”伝説の剣”を手に入れて、”魔王四天王”の一人を倒すことが出来ました。大金星です」


「いや()()()がいてくれたからこそ、うまくいったんだ」


「かー! 嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」


 槍使い青年が、剣士風の少年―勇者―の背を強く叩いた。

 その強さに勇者がむせる。

 ワハハ。と、テーブルが笑い声に包まれた。



 この5人は、世界を恐怖で支配せんと企む魔王を倒すために旅をする、勇者とその仲間たちであった。

 ”神託”をもとに異世界から召喚された、勇者の少年。

 彼を召喚し支える、聖なる少女。

 それに加え、関係各所より集められた、実力確かな3人の猛者たち。


 彼らは、王国の支援のもと、大陸中を旅していた。 

 ある時は、魔王軍に支配された都市を開放した。

 ある時は、国王暗殺の企みを事前に阻止した。

 ある時は、森から溢れ出るモンスターの群れに立ち向かった。


 ゆく先々で誰かを救い、魔王の企みを挫いてきた。

 そんな彼らの旅と数々の活躍は、吟遊詩人たちの歌によって大陸中に広く伝えられ、魔王の脅威に怯える人々の、希望の星となっていた。


 むろん、最初からすべてが上手く回った訳ではない。

 優秀ながら、ひどく我の強いメンバーたちは、お互いに反発し合うこともあった。

 しかし今では、それぞれお互いの事を理解して背中を守り合う、信頼できる仲間になっていた。



「またのお越しをお待ちしておりま~す」


 店員の声を背中に受けつつ、5人は酒場を後にした。

 お酒を飲んでいた大人組。魔術師の男、聖騎士の女性、槍使いの青年は、それぞれふらふらと体を左右に揺らしている。

 逆に、飲まなかった勇者と聖女は、そんな仲間たちを介護していた。

 

「そういえば、槍使い」


 勇者が、隣を歩く槍使いだけに聞こえるように声をかけた。


「んん~? なんだ~どうしたぁ~」


 槍使いは、わずかに呂律の回らない口調で聞き返す。


「僕、槍使いが”砂漠の遺跡”内部の地図を買ったって言う情報屋を探したんだけど、教えてもらった場所に行っても見つからなかったんだ。周りの人に聞いても、何も知らないって言ってたし。

 槍使いは何か心当たりがある?」


「い、いや。僕もたまたま見つけただけだからな。詳しいことはわからねぇよ。なんか気になることでもあったのか?」


「そういうわけじゃないんだけど、とても助かったから、お礼を言いたくて。あと、あんな正確な地図を持っていたその情報屋と、少し話をしてみたかったってのもあるかな」


「あ、ああ。そうだったのか。でも情報屋なんて、やくざ者とかわらねぇ。あんまり深く付き合わない方がいいと思うぞ」


「そうかな」


 彼らは、そんなことを話ながら、街灯の淡い光の下を宿屋に向かって歩みを進めた。

 

 そして彼らは最後まで、後ろを振り返らなかった。

 自分たちの後をつけていた存在がいたことに、気が付かなかった。


 ◇ ◇ 


 ”神託”

 その存在は、広く世に知られてる。

 王国の都に昂然と建つ、創造神を祭った大神殿。

 そこに祭られる”神授の石板”に、神からのメッセージは届く。


 ”神”は人の世に降りかかる困難を”神託”として、予め教えて下さる。

 ”神託”によって防がれた災いは多くあり、人々は”神”への感謝を忘れない。

 この世界の人々にとって”神託”は”神”からの愛の証でもあったのだ。

 そして、今回の魔王の襲来も”神託”によって予期されていた出来事だった。


 ―黄昏の時。暗き衣を纏うもの現れ、世に暗黒を広めたもう。

 ―人よ。天に願い。救世主を求めたまえ。

 ―その者、遍く闇を打ち払う、光の使者となるだろう。

 

 この”神託”を元に、聖女による勇者召喚の儀式が行われ、救世主たる運命を背負った少年が、異世界より召喚された。


 しかし、この”神託”に”別の側面”があることを知る者は、ほんのわずかしかいない。


 ◇ ◇ 


 王国の都。

 白亜の宮殿の中に隠された、秘密の部屋。


「国王様。ただ今戻りました」


「黒子一号よ、よくぞ戻った。待っておったぞ。早速報告をしておくれ」


 本当にここは、荘厳で美麗な宮殿の内部なのかと疑いたくなる、陰鬱な雰囲気が漂う部屋だった。

 しかし、そんなことを気にする人間はここには居ない。

 気にするような人間は、この部屋へ入る資格を持たないのだ。


 今、この場にいるのは、

 この国の国王。

 国を支える宰相。

 守りの要である騎士団長。

 神殿のトップである神殿長。

 そして、黒い装いの怪しげな人間が数人。

 それだけだった。


「はい。報告いたします。勇者パーティーは予定通りに宿場町に到着。周囲を探索しつつ、実力を高めた後”砂漠の遺跡”に挑みました。

 そして”シナリオ”通りに、最深部”封印の間”にて”魔王四天王”の一体と対峙、これを撃破して”伝説の剣”を入手いたしました。

 ”シナリオ”によって定められたキーワードは、無事コンプリート致しました。

 今回の”シナリオ”による勇者パーティーの死者は無し。各員、順調に実力を伸ばしています。

 しかし、黒子組による事前調査の結果、”砂漠の遺跡”は構造が非常に複雑であり、特定の技能を用いないと攻略できないエリアが点在しておりました。

 そのままでは”シナリオ”の定める締め切りまでに攻略が完了しない恐れがあったため、過去の冒険者たちが残したという設定で内部の地図を作り、槍使い経由で勇者のもとに届くよう手を廻しました」


「そうか。勇者たちに気づかれてはいまいな?」


「はい、慎重に慎重を重ねております。問題ないかと」


「よかった。黒子組の被害は?」


「……事前の、遺跡調査と”魔王四天王”の実力調査で3名が殉職しました。その中に、高位の変装術使いであった黒子三号が含まれます」


「神殿での蘇生は?」


「足が付くため、行いませんでした」


「そうか。黒子三号を失ったのは痛い。今後のフォロー体制に穴が出る可能性があるな。

 神殿長、どうすればいいと思う?」


「黒子組に増員は必要でしょう。しかし今回もたらされる”シナリオ”は難易度が高い。当初の予定していたより、黒子組の損害が多くなっています」


「騎士団長。そちらから人員は回せないか?」


「状況が状況だけに、騎士団からの人員派遣にも限界があります。信頼できる人物は、すでに何らかの任務についてしまっていて、余裕がありません」


「宰相はどうか?」


「回せる人員に心辺りはあります。しかし、そこを動かしてしまうと、国の運営に支障が出る可能性があります」


「……背に腹は代えられん。宰相やってくれ。しばらくは忙しくなる」


「国の大事です。致し方ありますまい」


「黒子一号。勇者パーティーはどうしておる?」


「黒子組の流した情報をもとに、すでに次の”シナリオ”の舞台に向けて出発しております。

 黒子組のメンバーも先行し現場入りしております」


「頼む。次の”シナリオ”は黒子組の働きが不可欠じゃ。苦しいと思うが、なんとか乗り切ってくれ」


「は。了解いたしました。全力をつくします」


 話し合いを終えた面々は、タイミングをずらしながら部屋から出てゆく。

 この部屋で話合われた内容は、記録に残されない。

 この部屋で交わされた言葉たちは、万が一にも外部に漏れてはならない。もし、そのようなことがあれば、”神”の機嫌が損なわれてしまうからだ。

 

 ◇ ◇ 


 王国。とある街。

 まだ太陽は天高くにある時間だが、勇者一行は酒場へ来ていた。


「う~ん。分かっていたことだけど”地下迷宮”はトラップが多すぎて厄介ね。どうしようかしら」


「魔法トラップなら吾輩でもなんとかなるのですが、あの迷宮は物理トラップが凶悪ですな」


「”魔王四天王”の一体が住み着いているという情報もあります。早く解決したいですが、最下層までの道のりは長そうですね」


 聖騎士、魔術師、聖女が意見を出し合う。

 勇者は何も語らず、店の奥へ視線を向けていた。


 昼間だというのに、酒場は雑多な喧騒に満ちている。

 しかしよくよく見ると、人々の顔には、覇気がない。

 魔王の侵略の影響は、日に日に大きくなり、人々の生活に暗い影を落としている。

 鉱山からとれる鉄を精錬し売るのが、この街の主産業であったが、度重なるモンスターの襲撃で、幾つのも施設が破壊されてしまっていた。

 昼間から酒をかっくらっているように見える男たちも、そのせいで職が無くなってしまった者たちだろう。


 なんとかしなければ。

 勇者たちの胸に、焦燥を含んだ使命感が湧き上がる。

 そこへ、聞き込みに行っていた槍使いが戻って来た。


「おう、待たせたなお前ら」


「槍使い様。何か情報はありましたか?」


「ああ、なかなかいい情報が手に入ったぜ。

 まずはこれ。”地下迷宮”の地図だ。この街は冒険者が多いからな、地図はすぐみつかったぜ。

 後、罠解除が得意だって言う冒険者も探したぜ。今はここを離れているらしいが、三日もすりゃあもどって……」


「いや。新メンバーは、もう見つけたよ」


「えっ?」


 ずっと黙ったままだった勇者が、割り込むように言った。

 メンバーの視線が勇者に集まる。

 勇者は全員の注目を集めたまま立ち上がった。

 人混みの中を縫うように歩き、たどり着いたのは、酒場の奥にあるカウンター席。

 勇者たちが座っていたテーブル席から、丁度対角線にある場所。

 照明がわずかしか届かず、薄暗い闇の帳に隠れたその席には、まるで暗がりに溶け込むかのような暗い色の外套を纏った小柄な人物が座っていた。

 勇者は、躊躇うことなくその人物に近づいて、声をかけた。


「やあ、そこのキミ。ちょっといいかな?」


 普段の勇者ならしないような、ナンパな声のかけ方だった。

 外套の人物の肩が震え、フードに覆われた顔が勇者の方を向く。

 勇者の黒い瞳とフードの下からの覗く黒い瞳が、向き合った。


「……なに?」


 フードの人物が、小さな声でそう言った時、取り残されていた他のパーティーメンバーたちもこの場に集まって来た。

 メンバーは、それぞれ興味深そうにフードの人物を観察する。

 ただ槍使いだけは、どことなく顔色をなくしているように見えた。


「僕たちは”地下迷宮”の最下層を目指しているんだけど、トラップに苦戦しているんだ。キミの力を貸してくれないだろうか?」


「……なぜ、わたしを?」


「そ、そうだぜ勇者。こんな得体のしれない奴よりも、俺が探してきた冒険者の方がいいに決まってる!」


「いいや大丈夫。僕は酒場に来てから、ここに居る人間たち全員を観察していたんだ。それで確信した。彼女こそ探していた人材だってね」


「……なにを根拠に?」


「根拠? そうだな、勘、だね。僕は自分の勘を信じている」


「……それだけ?」


「そう、それだけ。うーん強いて付け加えるなら、僕は人を見る目には自信があるんだ」


「なるほど。勇者様がそうおっしゃるのなら、私は反対致しません」


「吾輩も賛成ですな。相応しくなければ、三日待って槍使いが探してくれた方に会えばいいのですな」


「自分も賛成よ」


「そんな、無茶な……」


「どうだろうか。みんなこう言っているし、力を貸してはくれないだろうか」


 フードの人物は、小首をかしげ、少し考えるようなしぐさをした後、


「……分かった。同行する」


 と答えた。

 わっ、と、歓声が上がった。


「ありがとう。助かるよ。キミの名前を教えてくらってもいいかな?」


「……黒、猫」


「そうか。それじゃあ黒猫さん。よろしく頼む」


 勇者は、まっすぐ手を伸ばした。

 黒猫と呼ばれた少女は、そんな勇者の手を取った。


 ◇ ◇ 


「……解除、完了。通ってよし」


 地面に這いつくばるようにしてトラップを解除していた黒猫が言った。

 勇者が試しに通路を通ってみるが、罠は作動しない。

 天井から顔をのぞかせていた、凶悪な形の首切り斧はピクリともしなかった。


「ははあ、黒猫殿の手際は素晴らしいですな」


「ああ、自分たちが苦戦していたトラップを、こうもあっさり解除していくなんて」


「戦いの方もすごいです。天井から奇襲してきたモンスターをあっさり返り討ちにしちゃいました」


「……それくらい、基本」


「謙遜することないって。僕はすごいと思うよ」


「ああ、思った以上だったな」


 勇者パーティーは、黒猫のことを口々に褒めながら迷宮を攻略していった。

 下へ潜って行くほど、凶悪でいやらしいトラップが増えていったが、一行は何とか無事に最下層までたどり着くことができた。

 ここまでの道のりは長かった。辿り付くまで丸2日もかかっている。


 目の前には、王都の城門程もありそうな、巨大な扉がそびえ立っていた。

 わずかに開かれた隙間から、禍々しい瘴気が漏れ出ている。

 ほんの少し浴びるだけで気分が悪くなるような、暗黒の気配を感じる。


「黒猫さん。ここまでありがとう。おかげで助かったよ。情報ではこの先に”魔王四天王”の一体が待ち構えているはずだ。危険だからキミはここで待っていて欲しい」


 腰に吊った”伝説の剣”を抜きながら勇者は言った。

 ほかのメンバーも各々の武器を構え、準備している。

 空気が自然に引き締まる。各々の目には、覚悟の炎が宿っていた。


「……わたしも、たたかう」


 黒猫は、そんな勇者パーティーの面々を一周見渡してから、静かにそう言った。


「いいのか?」

 

 勇者が黒猫と目を合わせ、覚悟を問う。

 

「……いい」

「分かった。よし、みんな。一斉に踏み込むぞ!」


 そうして、パーティーの面々は、勇者の掛け声に合わせて扉をあけ放ち、中に飛び込んだ。

 扉の中は祭祀場のような空間になっていた。神話を模した精巧な彫刻。色彩豊かなタイル。

 しかし美しいはずのそれら全てを、滞留する空気に混じる闇の瘴気が穢していた。

 奥の方には石造りの祭壇が見えた。

 そして、その祭壇の前に、うずくまる大きな影が一つ。


「憎き勇者どもめぇ。もうここを嗅ぎつけたかぁ」


 乗り込んだ勇者たちの姿を認め、影が蠢き、立ち上がる。

 見上げるほどの巨体だ。長い首と大きな翼を持ったソレは、伝説に唄われるドラゴンのようであった。

 しかし、目の前のモノからは、伝説で語られるような高尚さも頑強さも感じられ無かった。

 溶け落ちた肉に腐臭を放つ体液。ドラゴンの姿だけを持つ異形のモンスター、ドラゴンゾンビだ。


「世に仇なす魔のモノよ。邪悪な企みも此処までです。神の名のもと聖なる裁きを受けなさい!」


 神殿のシンボルが施された錫杖を掲げ、聖女が凛々しく言い放った。

 

「甘く見るなよ人間どもぉ。此処で滅ぼしてくれるわぁ」


 戦いが始まった。


―――

――


 魔法が飛び交い、刃が走る。

 勇者たちとドラゴンゾンビの戦いは佳境を迎えていた。

 バトルフィールドとなった祭祀場は、すっかり様変わりしていた。

 荘厳な装飾は尽く打ち壊され、秀麗な床板は血や骨や、飛び散った汚物で上書きされていた。


「ごぉあああああぁぁぁぁ!」


 ドラゴンゾンビが吠えると、周囲を漂っていた瘴気が集まって形を成し、全身が骨で出来た人型が現れる。

 スケルトンソルジャーだ。

 ドラゴンゾンビは、たびたびこの骸骨兵士たちを召喚し、繰り出してきた。

 勇者たちはこの骸骨たちに苦戦していた。

 一体一体の強さはたいしたことはない。が、数が多い。

 また、ドラゴンゾンビが、スケルトンソルジャーと連携を取るように攻めてくるため、一時も気が抜けない。

 実際、聖騎士がドラゴンゾンビの攻撃をまともにもらってしまい、戦線を離脱している。

 聖女は、そんな聖騎士を癒すため、一緒に後方へ下がって行った。

 今、ドラゴンゾンビと向かい合っているのは、4人のみだった。

 その4人も息を荒くし、大きく肩を上下させている。


 しかし、苦しいのは相手も同じだった。

 ドラゴンゾンビも、すでに半身を砕かれ、ただでさえ無残であった姿が、さらに醜悪なものになっていた。


「ぜりゃああああ!」


「ごぎゃあああああ!」


 勇者の”伝説の剣”での一撃とドラゴンゾンビの一撃が、空中で交錯した。

 お互いに弾き飛ばし合うが、質量で劣る勇者の方が衝撃が大きい。瓦礫山に背中から突っ込んでしまう。

 ドラゴンゾンビは吹き飛びはしなかったものの、代わりに顔面に大きな傷を負っていた。


「我を此処まで追い詰めるとはぁ。だが、ただでは死なんぞぉ。貴様ら全員道づれだぁ! ぐぎゃああああああぁぁぁ!」


 ドラゴンゾンビは、己の終焉が近いことを悟ったのだろうか。

 魂を揺さぶるような咆哮を上げた。

 その怨嗟の叫びと共に、またもや瘴気が渦巻き、実体を結び始める。

 スケルトンソルジャーの襲来に備えようとしたが、現れたのは別のモノだった。

 それは骨で構成された異形の槍だった。角なのか爪なのか、鋭い切っ先を備えてる。

 そして、その禍々しい槍が何十本も目の前に召喚されたのだ。

 

「死ぃねぇぇぇぇ!」


 ドラゴンゾンビの絶叫を号砲に、骨の槍が雨の様に降り注ぐ。

 槍使いと魔術師は、なんとか自分自身を守れている。

 後方に下がった聖女と聖騎士は射程範囲外だろう。

 しかし、勇者は、全身を瓦礫に打ち付けた衝撃から立ち直れていなかった。

 なんとか身を起こそうとするが、両手は空しく瓦礫を掻くばかり。

 勇者は来たる痛みに備えるように、目をつぶり、体をこわばらせた。


 ドスドスドス。

 

 肉を裂く生々しい音が耳を貫く。

 しかし、覚悟した痛みと衝撃は、勇者の体に訪れなかった。

 目を開けた勇者の瞳が映したのは、己を庇って穂先に身を晒した、小柄なシルエットだった。


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