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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態
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ヒポグリフの躾

 アライアンスのお披露目は、全体的に見ると大盛り上がりで終了した。


 レイドリーダーということもあってオーク・キングは俺が、オーク・クイーンはファリスさんがストレージから出したが、さすがに災害種を見る機会はないから大きなどよめきが起こっていた。


 そして討伐戦の内容を逐一披露していったんだが、たった15人で130を超える数のオーク集落を殲滅したことが告げられると、ここでも大きな歓声をもらった。


 だが一番盛り上がったのは、やはりホーリー・グレイブとオーダーによる、13人での(プラチナ)(カタストロフ)ランクモンスター オーク・クイーン討伐の様子だった。

 災害種ともなるとハイクラスが数十人集まり、多くの犠牲者を出しながら討伐を行う魔物なんだが、それを通常より少数で、しかも死者も出さずに討伐したということで街の人も大興奮だった。

 最高潮だったと言っても過言じゃない。


 その流れに乗って、俺とプリムが2人でオーク・キングを倒したって話になったんだが、そっちは微妙な空気が流れてしまった。

 やっぱり、とか、あの2人なら、とかいった声もチラホラ聞こえてきた気がするが、驚くというより納得といった雰囲気だったな。

 純粋に驚いてくれたのがフィールに来たばかりのハンター達だったってのも、どうかと思わなくもないが。

 他の街ならまた違ったんだろうが、フィールの人達は良くも悪くも俺達に慣れてるから、こんな反応になるんじゃないかとは予想されてたらしい。

 先に教えといてくれよ、そういうことは。


 なんで大体的に称えられたホーリー・グレイブやオーダーと違って、俺とプリムは非常に気恥ずかしい思いをしながら、衆目に晒されていたという訳だ。


「皆さんの協力があってこそ、今回のアライアンスは無事に成功しました。感謝申し上げます」


 レックスさんがそう〆ると歓声が上がり、そこでお披露目は終了となった。


「お疲れ様。これで本当に、今回のアライアンスは終了になります」


 解散してからリカさんがそう告げてきたが、俺達からすれば最後の最後にとんでもない労力を使わされた気がして仕方がない。


「まあ仕方ないよ」

「そうだね。そもそも災害種なんて、私達13人で、犠牲者を出さずに討伐できただけでも奇跡に近いんだ。なのに君達はそれ以上の戦果を、簡単に出すことができてしまう。フィールだからこの程度で済んでいるが、他の街だと信じてもらえるかどうかも怪しいね」


 フィールだから、ってのもどうかと思うんだが、それだけ俺達に慣れちまったってことか。

 異常種ならランクにもよるが、ハイクラス数人での討伐記録もあるらしいが、災害種はランクを問わず数十人からなる大規模アライアンスで、犠牲者を出しながら討伐されているし、ランクによっては百人単位になることもあるそうだ。


 ところが俺達は、その規模で討伐される(プラチナ)(カタストロフ)ランクモンスターを単独で討伐したどころか、まとめて通りすがりに倒してしまった。

 グランド・ハンターズマスターは(シルバー)(イレギュラー)ランクモンスター サハギン・プリンスを、一度だけ単独で討伐したことがあるそうだが、武器は勿論防具もボロボロになり、本人もかなりの大怪我を負ったって聞いている。

 エンシェントクラスに進化したばかりで自分の力に自惚れていたこともあって、師匠が止めるのも聞かずに討伐に向かった結果だと言ってたな。

 というか、用意した武器が全部壊れたから、最終的には殴り殺したって話だったぞ。


 だけど話を聞く限りじゃ、グランド・ハンターズマスターがサハギン・プリンスに苦戦した理由は、武器が壊れたのはもちろんだが、防具もグランド・ハンターズマスターの魔力やサハギン・プリンスの攻撃に耐えきれずに壊れてしまったためらしいから、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネを使えば、そこまで苦労することはない気がする。


 そのグランド・ハンターズマスター、今はアレグリアにあるハンターズギルド総本部に戻っているんだが、明後日王都に出発することになってるから、明日の夕方までにはフィールに来る予定だ。

 グランド・ハンターズマスターの長距離転移魔法トラベリングで、俺達はユーリアナ姫やレティセンシアの王女、元ハンターズマスターとその護衛のリーダーを連れて王都に転移することになってるから、出発に間に合うようにってことで、リチャードさんが瑠璃色銀ルリイロカネを使って、グランド・ハンターズマスター用の剣を打ってくれている。

 他にもユーリアナ姫の兄でハイエルフの(シルバー)ランクハンター ラインハルト王子、ミーナの父でアソシエイト・オーダーズマスター ディアノスさんのための剣も頼んでいるぞ。

 マナリース姫はどうしようかと思ったんだが、まだ進化してないそうだし、ホーリー・グレイブとの兼ね合いもあるから、作るとしたら翡翠色銀ヒスイロカネの方がいい気がしている。

 ちなみに国王陛下は(プラチナ)ランククラフターだから、インゴットの方が喜ばれるってことで、瑠璃色銀ルリイロカネ翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネのインゴットを用意してあるぞ。


「それじゃ外に行く前に、エド達を送っていくか」

「せっかくだし、獣車を使ってね」


 獣車の試乗もまだだし、ユニオンメンバーも揃ってるから、このタイミングが丁度いい。

 牧場からアルベルト工房までだから距離はそんなにないが、それでも牧場に行ってジェイドとフロライトを繋がないといけないから、1時間ぐらいだろうか。


「試し切りの前に試乗か。試し切りの結果は俺達も気になるから、後で教えてくれよ?」

「もちろんです」


 クラフターとしては、自分が作った武器の使い勝手がどうなのかは気になるよな。


 広場から牧場までは、徒歩で15分ぐらいだ。

 牧場からアルベルト工房までは徒歩30分強だから、獣車を使えば10分は短縮できる。

 もっとも、獣車を用意するために10分ぐらいはかかるから、トータルで見れば同じぐらいなんだが。


「今日は2頭立てなの?」

「フロライトの気分次第ね」

「前から思ってたんですが、プリムさん、少しフロライトに甘すぎませんか?」


 獣車を引くのがジェイドだけなのかフロライトも引くのかが気になるマリーナに答えるプリムだが、そのプリムにフィーナが諫言していた。


「それ、昨日ファリスさんにも言われたわ。もっとしっかり躾けとかないと、いずれ問題を起こすって」


 従魔が起こす問題といえば、預けられている牧場や厩舎からの脱走や器物などの破損、人に怪我を負わせることもある。

 自衛のためなら許されることもあるが、人に怪我を負わせてしまうと最悪の場合従魔は殺され、主人は犯罪奴隷になってしまう。

 ジェイドは聞き分けがいいし、牧場でもしっかりと厩務員のフィアットさんの言う事を聞いてるんだが、フロライトはたまに反抗的な態度を見せることがあるらしい。

 ジェイドが諫めてる様子はあるそうだが、厩務員の言う事を聞かないっていうのはよろしくない。

 厩務員は主人に次いで、従魔と接する人になる。

 だから懐かれる人も多く、主人としても安心して任せることができるんだが、厩務員は躾けとかも請け負ってくれているから、誰の従魔であっても厳しく接することもある。

 その厩務員の言う事を聞かないとなると、本当に事故を起こす危険性が高くなってしまう。

 特にフロライトは希少種のヒポグリフ・フィリアに進化していて、(プラチナ)(レア)ランクモンスターということにもなっているから、事故を起こした場合の被害はグラントプスやバトル・ホースの比じゃない。


「だからフィアットさんにも、少し厳しめに躾をお願いしているの。あたしはどうしても甘くなっちゃうから、専門家に任せた方がいいと思って」

「それ、プリムが甘やかしてるからじゃないかな?いくら厩務員が厳しくしてても、主人が甘かったら、従魔はそれを察することもあるみたいだし」

「そうですね。一度ぐらいはしっかり怒っておかないと、何かあったら取り返しのつかないことになってしまいますよ?」


 マリーナはトレーダーでもあるから、その関係で従魔と接することがある。

 フィーナは木工師で、多くの獣車を製作しているから、従魔とは関係が深い。

 その2人が揃ってプリムに諫言する以上、しっかりと聞き入れておく必要がありそうだ。

 なにせ牧場で暴れでもしたら、ジェイド以外の従魔が全滅、なんて事態もあり得るし、その中にはミーナのバトル・ホース ブリーズ、アプリコットさんのグラントプス オネストも含まれる可能性があるんだからな。


「そうね。牧場に行ったら、しっかりと向き合ってみるわ」


 厳しい顔をしたプリムが、マリーナとフィーナの諫言を受け入れて、しっかりとそう口にしてから、俺達は牧場への歩みを再開させた。


Side・プリム


 フロライトもジェイドも、エビル・ドレイクに親や仲間を殺され、その直後にハンター達に狙われてしまったから、その全てを目撃したあたしとしては、どうしても厳しく接することができなかった。

 甘やかしてる自覚はあったけど、もう少し、もうちょっとだけって思って接してたから、もしかしたらフロライトは、そんなあたしの気持ちを察してしまっているのかもしれない。


 だけど希少種に進化しているフロライトは、牧場に預けられている従魔とは一線を画す存在になってしまっている。

 もしフロライトが暴走してしまったら、空を飛べることもあって、止められるのはジェイドしかいないんだけど、そのジェイドだって本気を出せるワケがないから、下手をしたら牧場が全滅、なんてこともあり得ないとは言い切れない。


「わかった、フロライト?フィアットさんの言う事をしっかりと聞いて、しっかり守らないと、大変なことになるの。もしそんなことになったら、あたしはあなたをかばうことはできないし、それどころかあたしがあなたを殺さないといけなくなる。そんなことはしたくないし、あなただってイヤでしょう?」

「グルゥ……」


 怒られるとは思ってなかったフロライトは、涙目になりながらあたしを見つめてくる。

 そんな瞳で見つめられたらこっちの心が折れそうになるけど、あたしも絶対に引けない。


 丁度フィアットさんが、フロライトに厳しい一言を掛けてる最中に到着したんだけど、フロライトはどこ吹く風といった感じで、まったくフィアットさんを気にしていなかった。

 さすがにこれはマズいって思ったし、あたしも心を決めてフロライトに近寄って、しっかりと怒らないといけない。

 そんなことは考えてないフロライトは、フィアットさんに何か言われてる最中だっていうのに、あたしの匂いを感じて寄ってきた。

 いつもならそのままあたしに頭を摺り寄せて、あたしも抱きしめるんだけど、今日はそのフロライトの頭を止めて、体にも触れさせない。

 あたしが本気だってことを、しっかりと理解させないと。


「お見事です、プリムさん。そして、申し訳ない。本当なら僕が、しっかりとフロライトに説明して、理解させないといけないんですが」

「いえ、結局はあたしが甘やかしてたのが原因ですから。大和はしっかりと怒ったりしてたのに、あたしはそれを怠ったから、それが今という状況になっちゃったわけですし」


 そう、大和はしっかりと、ジェイドを叱ったことがある。

 ミーナやフラムと婚約したばかりの頃、レイドで狩りに出てる最中に、いきなりジェイドがベール湖に飛び込んで、スカイダイブ・シャークを仕留めたことがあるの。

 もちろんジェイドは、スカイダイブ・シャークがあたし達を狙ってたから、気を利かせて倒してくれたんだけど、こっちからしたらいきなり湖に飛び込まれたワケだから、何があったのかって思っちゃう。

 実際、大和はすごく驚いてたわ。

 いくら自分達のためでも、せめて一声鳴くとかしてくれないと、こっちは何があったのかわからないし、ジェイドでも勝てないような魔物が待ち伏せていたりなんかしたら、ジェイドが倒さちゃうかもしれない。


 だから大和は、本気でジェイドを叱りつけた。

 ジェイドも危険なことをしたって理解したから、神妙な顔で怒られて落ち込んでたけど、最後には大和に頭を撫でられて、大和に頭を擦り付けていたから、それ以来ジェイドが勝手に動くことはなくなったし、何かあったら一声鳴いて、大和に知らせるようになったわ。


「怒ってごめんね、フロライト。でも、これもあなたのためなのよ。だからこれからはしっかりと、フィアットさんの言う事を聞くのよ?」

「クワアッ!」


 元気よく答えてくれたフロライトの頭を撫でると、すぐにあたしに頭を擦り付けて甘えてきた。

 今度はちゃんと受け入れて、優しく抱きしめてあげないと。


 怒られたフロライトからは、あたしに会えなくて寂しかったから、フィアットさんを困らせれば、あたしが来るんじゃないかっていう考えが伝わってきた。

 従魔契約してからは毎日ちゃんと会ってるし、一緒に狩りにも行ってるんだけど、一緒に夜営をしたのはこないだのアライアンスが初めてだったから、それが嬉しかったみたいなの。


 子供らしい考えだけど、牧場をどうこうしようとかって考えは伝わってこなかったから、最悪の事態になることはなかったわね。


 その後、気持ちを入れ替えたのか、フロライトも獣車を引いてくれることになったから、あたし達は2頭立ての獣車に乗ってエド達をアルベルト工房に送り届け、試し切りをするためにフィールを出ることにした。


 本当は夜営をしたかったんだけど、怒った直後に甘やかしたらフロライトのためにならないってフィアットさんにも注意されたから、ちゃんと夕方には帰ってくるわよ。

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