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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態
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襲撃作戦開始

Side・グラム


「時間だ。では手筈通り大和君が結界を展開させ、クラリスさんの援護を受けながら、我々はオーク集落に突撃する!」


 オーダーズマスターが号令を掛けると、全員が力強く頷いた。

 いよいよアライアンスの本番、オーク・キングとオーク・クイーンの討伐作戦開始だ。


「それじゃ行きますよ」


 右手に刀?とかいう片刃の剣を、左手に同じく片刃の短剣を構えた大和が、風の結界を展開させた。

 なんでもアルフヘイムっていう、大和の世界の刻印術とかいう魔法らしい。

 あいつは魔法じゃないって言ってたが、どっちでも変わんねんだろ。

 っていうか、既に何体ものグラン・オークが血祭りに上げられてんな。

 いくらグラン・オークが(ブロンズ)(アッパー)ランクモンスターだからって、簡単に倒しすぎだろ。


「クラリスさん」

「了解」


 ホーリー・グレイブの弓術士、ハイヴァンパイアのクラリスが、風の結界に驚いているグラン・オークに、氷属性魔法アイスマジックで作られた矢を射ると、さらに混乱の度合いが増した。

 これはチャンスだな。


「突撃!!」


 その隙を逃さず、オーダーズマスターの号令が響いた。

 このアライアンスの最大最高戦力の大和とプリムはキングとクイーンの討伐を任されているから、少し遅れての突撃になっている。

 (シルバー)(レア)ランクモンスターのジャイアント・オークを含めて、雑魚の相手は俺達がってことだ。


「ジェイド、打ち合わせ通りに頼むぞ」

「フロライト、お願いね」


 さらに上空からは、大和とプリムの従魔、ヒポグリフが援護してくれることにもなっている。

 なんでもあいつらのヒポグリフは、希少種に進化してるらしいじゃねえか。

 ヒポグリフは(ゴールド)ランクだが上位種はいないから(プラチナ)(レア)ランクモンスターってことになるんだが、まだ生まれて数ヶ月の子供って話だから、多分(ゴールド)ランク相当ってとこだろうな。

 それでもバトル・ホースやグラントプスが(カッパー)ランクってことを考えると、従魔としちゃかなりの高ランクになるんだが。


「っとぉっ!危ねえなっ!!」


 襲ってきたグラン・オークの拳を避け、翡翠色銀ヒスイロカネっていう金属で作られた剣を、グラン・オークの首目掛けて手加減なく振り切る。

 すると、あっさりとグラン・オークの首と胴が分かれてしまった。

 魔力強化の加減は考えなくていいって聞いちゃいたし道中でも実践してはいたが、マジで凄いな、この剣。


「そらそらそらっ!」

「おりゃあっ!」


 ホーリー・グレイブのリーダーでハイフェアリーのファリスさんが、グラン・オークの胴を手にした大斧で2体まとめて薙ぎ払い、旦那さんのハイヒューマン クリフさんは、大剣でジャイアント・オークを一撃で切り伏せた。

 こっちは青鈍色鉄ニビイロカネっていう、金剛鉄アダマンタイトベースの金属だったか?

 どっちでもいいか。

 (ゴールド)ランクハンターの戦いぶりを見たのは初めてだが、オーダーほど洗練されてる訳じゃない。

 だけど大胆なようでいて的確に攻撃を加えているから、襲い掛かってきたグラン・オークもジャイアント・オークも、けっこう簡単に倒されていってるな。

 グラン・オークはともかくジャイアント・オークは(シルバー)(レア)ランクモンスターだから、(ゴールド)ランクハンターでもかなり手こずるはずなんだが……。


「たあああっ!」

「せりゃっ!」


 オーダー連中も負けてないな。

 盾は魔銀ミスリルのままだが確実に攻撃を受け流して、急所に剣を叩きこんでやがる。

 全員が片手直剣だからホーリー・グレイブ程派手じゃないが、それでも確実に倒してるな。


「おっと、この炎はフロライトか。ヒポグリフが火を吐けるって話は初耳だが、プリムちゃんの魔力を受けて進化した希少種だって話だから、それぐらいはできてもおかしくないか」


 いや、ちょい待ちファリスさん。

 確かにプリムは火属性魔法ファイアマジックが得意だが、だからって従魔が同じようなことできるなんて、さすがに初耳でっせ?

 ファリスさんも初耳だってことだけど、それでも普通はあり得ねえって!


 なんてことを考えてたら、今度は上空から氷の槍が降ってきて、次々とグラン・オークの手足に突き刺さっていった。

 今度はジェイドかよ!


「ヒポグリフが、ここまで氷属性魔法アイスマジックを扱えるとはね」

「あの2人の従魔なんだから、これぐらいはな。だが上空援護は助かる。このまま数を減らすぞ!」

「そうしよう!モタモタしてると、あの2人に獲物を掻っ攫われてしまうからね!」


 あの2人ってのは、エンシェントの2人ですかい。

 確かにあいつらは、俺達が突撃してから20分後に突撃ってことになってるけど、俺達が突撃して5分足らずで20近い数のオークが倒されてるんだから、そこまで残ってるかは……。

 いや、大和のアルフヘイムで10匹以上のグラン・オークが減ってたから、あいつらが参加してきたら、マジで一掃されちまいそうだな。


 そう思ってたんだが、集落の中心部にある砦?みたいなもんから、青黒い肌をしたオークが現れた。

 普通のオークは緑の肌、グラン・オークは赤い肌、ジャイアント・オークは普通のオークと同じ緑、キングとクイーンは赤黒い肌をしているが、プリンスとプリンセスは青黒い肌をしている。

 つまり現れたのは、プリンスとプリンセスってことになる。


 って、ちょっと待てよ!

 なんで異常種のプリンスとプリンセスが、こんなにいるんだよ!?


「馬鹿な……。プリンスとプリンセスが、全部で7匹もだと?」

「いくらキングとクイーンがいるからって、これはあり得ない……」


 オーダーズマスターとファリスさんも驚いてるが、異常種は通常1匹しか生まれないってのが通説だ。

 なのにここには、先日ホーリー・グレイブが倒したのも合わせると、全部で8匹もいたってことになる。

 さらにその上の災害種が2匹もいるんだから、いくらエンシェントクラス2人、ハイクラス13人で構成されたアライアンスだって、下手したら全滅もんだぞ!


「さすがにこれは想定外だが……どうする、オーダーズマスター?逃げ切れるとは思えんが?」

「……戦うしかないでしょう。直に背後も、グラン・オークやジャイアント・オークに塞がれる。撤退するにしても今は戦わないと、活路を見出せません」

「そうだな。異常種が7匹、さらに災害種が2匹も控えている以上、少しでも数は減らしておきたい」


 ミューズさんもオーダーズマスターも、凄まじく深刻な顔をしてるな。

 数を減らしたいってのは賛成だが、確かホーリー・グレイブはハイクラス5人掛かりで、ようやくプリンセスを倒せたって言ってたはずだ。

 それが7匹ってことは、単純計算で35人は必要になるってことだが、俺達は15人だから、さすがに人数が足りねえ。


「あれを見て!」


 そう思ってたら、カルディナさんが叫んだ。

 なんだと思ってると、突然プリンスとプリンセスが風と炎の結界に包まれた。

 なんだ、あれ!?


「大和君とプリムさんか!」


 あいつらかよ!

 あいつらの突撃まではまだ時間があったはずだが、痺れでも切らしたのか!?

 っつうか、何で普通に空飛んでんだよ!!


「プリンスかプリンセスの群れが出てきたからこりゃヤバイと思って出てきたんだけど、マズかったですか?」

「い、いや、こちらとしては助かったから、それは構わないんだが……」

「な、何なんだい、あの結界は……」

「プリムの火属性魔法ファイアマジックを、俺のアルフヘイムで煽ってるんですよ」

「ぶっつけ本番だったけど、上手くできて良かったわ」


 俺達は全員、ここが敵地のど真ん中だってことも忘れて、思いっきり呆けてしまった。


「何してんだよ、お前らは!!」


 ここで叫んでしまった俺は、絶対に悪くない。


「もう!近くで叫ばないでよ!耳が痛いじゃないの!」


 耳の良いエンシェントフォクシーのプリムが文句を言ってくるが、そんなのは知ったことか。


「というか、プリンスやプリンセスは?」

「動かないところ見ると、死んだんじゃないですかね?念のために氷らせますけど、多分終わったって思ってもいいでしょう」

「そ、そうかい……」


 ファリスさんが、なんて言ったらいいのかわからないって顔してるが、その気持ちはこの場の全員に共通してると断言できる。

 こんな簡単に(ゴールド)(イレギュラー)ランクモンスターを倒すなんて普通は凄いんだが、こいつらのやったことを考えると、逆に馬鹿なんじゃないかと思えてくるから不思議だ。

 実際大和はすぐに、プリンスやらプリンセスやらを氷らせてやがったからな。


「と、とりあえず、プリンスとプリンセスは片付いた。まだキングとクイーンが残っているが、ここまでされた以上、すぐに出てくるだろう」


 オーダーズマスターも、まだ動揺してるな。

 気持ちはよく分かる。

 こいつらを敵に回したレティセンシアにも、少しだけ同情しちまうよ。


「そうだね。それに、まだグラン・オークもジャイアント・オークも残ってるんだから、そっちも何とかしないと」


 ファリスさんはもう立ち直ってるのか?

 ああ、そういやこいつらが、アビス・タウルスをあっさり片付けた現場にいたんだったか。

 さすがにここまでやるとは思ってなかっただろうが、それでも俺達よりダメージは少なくすんだってことか。


「それじゃ、あたし達もやりましょうか」

「そうするか」


 そう言ってフィジカリングとマナリングの強度を上げた大和とプリムは、すれ違いざまにグラン・オークやジャイアント・オークを倒していった。

 当たるを幸いにっていうか、全部一撃かよ。

 一番酷いのはプリムに正面から突っ込まれて、胴体にデカい風穴を空けられたジャイアント・オークだが。


「これ、私の援護、必要なくない?」

「あの2人に関してはね。というか、いくらなんでも無茶苦茶でしょ……」

「グラン・オークだけじゃなく、ジャイアント・オークまでが紙屑みたいに吹っ飛んでやがるからな。絶対に俺らの分残らねえぞ」


 クラリス、サリナ、バークスも、驚きを通り越して呆れ果てている。

 確かにこの様じゃ、俺らの獲物は残らねえな。

 つうかあいつらがいれば、アライアンスなんて必要なかったんじゃねえか?


「考えるのは後だ。今は1匹でも多く、仕留めなければならない。総員、彼らに続け!」


 忘れてたが、戦闘中だったな。

 周囲のオーク達もあいつらが一層してたから、思わず忘れちまってた。

 だけどオーク達はまだいるし、何よりキングとクイーンが残ってるんだから、油断は禁物だ。

 気を引き締めてかからねえとな!


 その後20分ぐらいで、集落のオークどもはほとんどを倒すことができた。

 まだ残ってはいるが、多分10匹ぐらいだろう。

 普通なら逃げ出す個体もいるんだが、大和とプリムが外周部に沿って、しかもそれぞれ逆方向に進んでやがったから、逃げ出そうとしてた個体もすぐに死体になってたな。


 それに恐れをなして、全てのオークが最奥にある一際デカい砦?に立て籠もってやがる。

 なんで疑問形なのかだが、木を寄せ集めただけの掘立小屋以下の建物モドキだからだ。


「ほとんど全滅させたってのに、まだ出てこないのか?」

「あそこに突撃するしかないんでしょうね。面倒だけど、行くとしますか」


 砦?って例えただけあって、切り倒された木が何本も重ねられていて、それなりに堅固な作りに見える。

 しかも背後は切り立った崖だから多分洞窟もあって、そこにキングとクイーンがいるんだろう。


 大和とプリムが偵察した限りじゃそこまではわからなかったし、真ん中付近にデカい砦?があったから、そこにいるって思われてたんだがな。


「さすがにそれはマズい。仮に洞窟があってその中で戦闘になれば、いくら君達でも危険すぎる」

「オーダーズマスターに同意する。もしかしたら君達は、(プラチナ)(カタストロフ)ランクモンスター相手でも力負けしないのかもしれないが、それでも可能な限り、不安要素は排除しておくべきだ」


 オーダーズマスターとミューズさんがそう言うと、突撃しようとしていた大和とプリムはが空中で止まった。

 もうちょい止めるのが遅かったら、手遅れになってたんじゃねえのか?


「なら、どうしますか?」

「そうだな……。洞窟の中を燃やしてみるか?」

「ああ、それはいいな。それに風属性魔法ウインドマジックを使えば洞窟内を燃やせなくても、奥まで煙を送り込めるはずだ。そうなれば、いくらキングやクイーンといえど、出て来ざるを得ない」


 煙に巻いて、燻り出そうってか。

 それもどうかと思うんだが、他に手もないしな。


「わかった。ではあの砦の奥に洞窟があったら、内に木を投げ入れ、火をつけよう」


 オーダーらしくはないが、相手が相手だし、この際仕方ないか。


「それじゃ先行して、様子を見てきます」

「頼む」

「任せて。フロライト、ジェイド!」


 空から俺達の援護をしてくれていたジェイドとフロライトに跨り、空から砦へ侵入する大和とプリム。

 空からの攻撃にはほとんど無防備みたいだが、洞窟があるんなら大した問題じゃないか。


「問題ないみたいだね」

「ええ。総員、進め」


 問題あっても、力業でどうにかしてた気もするけどな。


 俺達は無事、砦の中へ侵入できた。

 中は思ってたより広かったが、それでもこの人数で戦闘できる程じゃない。


「まずはこの砦を壊し、スペースを確保しなければ」

「そうだな。幸い木を突き立てているだけだから、排除は容易い。数は多いが、そんなに時間はかからないだろう」


 オーダーズマスターとミューズさんの言う通り、そこからだな。

 とは言っても、ファリスさんが青鈍色鉄ニビイロカネ製の大斧で一気に薙ぎ払ってくれたから、マジで時間もかからなかったが。


「では始めよう」


 スペースも確保できたから俺、バークス、ダートが、ファリスさんに薙ぎ倒された砦の残骸を持ち、適当に洞窟内に投げ入れる。

 それにプリム、エレナさん、ミューズさん、リアラが火属性魔法ファイアマジックを放って火をつけて、大和が風で火を煽ったり、煙を外に出さないようにしたりして準備完了だ。


 いつ中からオークどもが出てきてもいいように、大和とプリムを先頭に、密集陣形で待ち受ける。

 もちろん洞窟からは10メートル以上距離を取ってるし、大和とプリムの邪魔にならないよう、その2人とも5メートル近く離れてるが。


「この地響きは……」

「慌てて出てきてるってことだろうね」


 火を付けて5分もしないうちに、反応があった。

 相当慌てて出てきてるんだろうが、数はけっこういる感じだな。


「出てきたな」

「だね。って、ちょっと待った!なんかおかしいよ!」


 ファリスさんが声を荒げるが、おかしいのは俺にもわかる。

 俺達の前に現れたのはオークは、全部で18匹。

 グラン・オークが8匹、ジャイアント・オークも3匹いるが、ここまではいい。

 だけど赤黒い肌をした、4メートル近い巨体のオークが5匹もいるってのはどういうことだよ!?


「キングが2匹、クイーンが3匹だと……?馬鹿な話にも程があるぞ……!」

「まだ何か出てくるけど……って、何なんだ、あれ!?」


 そして最後に出てきたのが、ジャイアント・オークと同じぐらいデカく、プリンスやプリンセスと同じ青黒い肌の色をして、背中にはドラゴンみたいな感じの羽を生やした2匹のオークだった。


「な、なんだ、あいつらは……!?」

「聞いたこともないけど、心当たりがないワケでもない……」

「そ、そうなのか?」

「ああ。だけどもし本当に私の予想通りなら、私達はここで全滅だね……」


 断言するファリスさんに、全員が息を吞む。

 いや、キングとクイーンが合わせて5匹って時点で普通に死ねるってのに、あのバカでかい青い2匹は、さらにヤバいってことですか!?


「話は生き残ったら、タップリしてあげるよ!」


 悲鳴のような声を上げるファリスさんだが、撤退っていう選択肢は選べない。

 亜人の知能は低いが、それでも俺達がどこから来たのかは理解できるだろうから、ここで俺達が退いても高い確率でフィールを襲いに来るはずだ。

 だから少しでも戦力を削いでおかないといけないんだが、さすがにこれは、どこまでやれるかわかったもんじゃねえ。


「これはさすがに、奥の手を使わざるを得ないか」

「まだ未完成だから使いたくなかったけど、そうも言ってられないか」


 俺達は決死の覚悟、背水の陣で挑むつもりだったんだが、大和とプリムはまだまだ余裕があるみたいだ。

 いや、奥の手って、そんなのあるのかよ!?


「レックスさん、位置的にクイーン1匹だけは取りこぼすことになりますから、そいつは任せてもいいですか?」

「難しいが、1匹だけなら何とかしよう。というか君達はあの青いオークだけじゃなく、キングとクイーンも相手をするつもりなのか!?」

「今となっちゃ、そっちはついで、ですね!」


 オーダーズマスターにクイーンの相手を頼んだ大和は、周囲に浮かべた氷にマルチ・エッジを保持させ、プリムは切り札の固有魔法スキルマジック極炎の翼(フレア・ウイング)を纏った。

 いや、まだ魔力上がるのかよ!


「げっ!!」

「……確かに、ついでだな」


 俺達に襲い掛かろうとしていたキング2匹には、大和が自在に操るマルチ・エッジが次々と突き刺さり、至る所から血飛沫を上げて倒れ、クイーン2匹はプリムが放った極炎の針が刺さると同時に内部から爆発して、そのまま絶命した。

 災害種を簡単に倒しすぎだろ……。


「『シールディング』!」

「ボーッとするな、グラム!」

「す、すいません!」


 あいつらに見蕩れてる場合じゃなかった!

 オーダーズマスターが前方に巨大な盾を作り出し、持っている盾の防御力を付与させる騎士魔法オーダーズマジックシールディングを使ってクイーンの初撃を防ぎ、ミューズさんが俺を叱咤しながら剣で斬り付ける。

 それを合図にクリフさんも大剣を振り下ろしているが、こちらはクイーンが持っている剣で受け止められてしまった。


「浅いか!うわっ!!」

「ミューズ!」


 ミューズさんが吹っ飛ばされたが、幸いにもクイーンは左手には剣を持っていない。

 だけど拳とはいえクイーンの膂力で吹っ飛ばされる形になったから、ミューズさんのダメージは大きい。


「『ハイ・ヒーリング』!どうだい?」

「す、すまない、ファリス。さすが(プラチナ)(カタストロフ)ランクモンスターだ、一撃で肋骨を何本か持っていかれた……」

「私のハイ・ヒーリングじゃ、骨折までは治せないからね。ミューズは援護に徹してくれ」

「わかっている。今の私じゃ、足手まといにしかならないからな」


 ミューズさん、一撃で複数の肋骨骨折かよ。

 ファリスさんがハイ・ヒーリングを使ってくれたとはいえ、さすがにここで戦力外になるのはキツい。


「ファリスさん、ミューズさんの治療は私が引き継ぎます」

「カルディナか。すまないが頼む」


 (シルバー)ランクヒーラーでもあるカルディナさんは、今回の参加者唯一のヒーラーでもあるから、ファリスさんより回復魔法は効果的に使えるし、治癒魔法ヒーラーズマジックも使える。

 さすがに誰も怪我をしないって考えてる人はいなかったから、カルディナさんはあまり戦闘には参加せず、バークスやサリナと共にクラリスの護衛に付いていたんだが、このタイミングでそれが功を奏することになるとは思わなかったな。


 っと、俺も攻撃に参加しなきゃだった。


「おおおうりゃああああっ!!」


 俺は剣に、得意の雷属性魔法サンダーマジックを纏わせ、気合とともにオーク・クイーンに躍りかかる。


「うおっとおおっ!!」


 だが俺の一撃をあっさりと避けたクイーンは、そのまま俺に向かって剣を振り下ろしてきた。

 げっ!


「『シールディング』!」


 しかしその攻撃は、オーダーズマスターのシールディングで防がれた。

 シールディングは自分の前方にしか使えないはずなんだが、距離のある俺に対して使ってくるなんてすげえな。


「助かりました、オーダーズマスター!」

「不用意に突っ込むな!相手は災害種なんだぞ!」


 わかってるんだが、こっちの攻撃は効果が薄いんだから仕方ないじゃないですか。


「うおっ!」


 そんなことを考えてたら、蹴りが飛んできた。

 間一髪でそれを避けるがそれでも完全には避けきれず、脇腹を掠めてしまい少し吹っ飛ばされた。

 掠っただけだってのに、肋骨逝ったな、こりゃ……。


「っつぅ~……。掠っただけでこれかよ……」


 見れば他のみんなも、大なり小なり傷を負っているな。

 幸いにも右手の剣の直撃を受けた奴はいないけど、それでも剣を振るう度に炎と風が巻き起こってるから、それでダメージを受けてる感じだな。


「『シールディング』!」


 何度目かもわからないが、オーダーズマスターのシールディングがオーク・クイーンの剣を受け止める。

 だが盾は魔銀ミスリル製ってこともあって、何度もオーダーズマスターのシールディングには耐えきれないはず。

 そう思っていたらシールディングが砕け、同時にオーダーズマスターの盾も砕けてしまった。

 ちょっ!!


「今だ!」


 だけどオーダーズマスターはそれも織り込み済みで、砕けた盾をオーク・クイーンに投げつけると、そのまま左腕の付け根辺りを目掛けて剣を突き刺した。

 さらに背後から、ファリスさんが大上段から大斧を振り下ろしている姿が目に映る。


「せやあああっ!」

「グロラアアアアアアアアッ!!」


 その一撃はオーク・クイーンの右肩に深く食い込んでいるが、切断まではいっていない。

 それでも受けたダメージは大きいらしく、ついには持っていた剣を手放してしまっているし、左手も動かせなくなってるから、これは間違いなくチャンスだろ。


「オーダーに通達!アレスティングを使い、オーク・クイーンの動きを封じろ!ホーリー・グレイブとイリスさんは、私とともに総攻撃を仕掛ける!」

「「了解!」」


 アレスティングは犯罪者とかを拘束するための騎士魔法オーダーズマジックだが、ロープとかに使うことで効果を発揮する。

 だが魔力を多めに消費すれば魔力だけで拘束することもできるから、使い勝手は良い。

 さすがにオーク・クイーンを抑えきれるとは思わないが、それでも一瞬ぐらいは動きを封じれるだろうから、その隙に残った面子で総攻撃を仕掛けることで、一気に勝負を決めるつもりか。


「『アレスティング』!こ、これはキツいぞ!」

「泣き言を言うな!今がチャンスなんだぞ!」

「わかってますよ!」


 思ってた以上にキツかったが、ミューズさんも怪我を押してアレスティングを使ってくれているし、泣き言なんか言ってる暇はない。

 今のは単なる感想です。


 そして動きを封じられたオーク・クイーンにクラリスの矢が何本も突き刺さり、バークスとサリナが息の合った連携を仕掛け、右腕をファリスさんの大斧が叩き落し、左腕はクリフさんの大剣が斬り落とし、イリスさんの剣が心臓付近に突き刺さり、トドメとばかりにオーダーズマスターの剣が首を刎ねた。


 何とか終わったか。


 そういや、あいつらは?


 そう思って大和とプリムが戦ってる方を見ると、大和は大量のマルチ・エッジを巨体の片方に突き刺し、その後で首を刎ね、プリムは極炎の針を放ちながらもの凄いスピードで突っ込み、もう片方の巨体に風穴を空けているところだった。


 俺達が総掛かりでやっとこさ倒したオーク・クイーンより強いと思われる個体を、まさかタイマンで倒すなんて、いったいどうなってんだよ、お前らは……。

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