討伐隊出陣
Side・プリム
時間は午前10時。
ついにアライアンスが、マイライトに向かって出発する。
驚いたことにあたし達やギルド関係者だけじゃなく、フィールの人達も多くが見送りに来てくれていた。
アライアンスが結成されたことは公表されているし、場合によっては避難しなきゃいけないんだから当然なんだけど、それでもこんなに多くの人がお見送りしてくれるなんて、思ってもいなかったわ。
「確かに、普通のアライアンスならそうだね。だけど今回のアライアンスには、エンシェントクラスが2人も参加している。しかも君達の実績が実績だから、フィールの人達からの信頼も厚く、それが見送りに繋がってるんじゃないかな?」
確かにフィールの人達もあたし達がやったことは知ってるけど、だからってこんな大人数でお見送りなんてしなくてもいいのに。
成功すれば問題ないけど、万が一失敗したら、すごく恥ずかしいことになるわよ?
「キングとクイーンがいる集落に、これだけの人数しか参加してないアライアンスで襲撃をかけるなんて、普通は失敗するよ。というか、まだ人数を集めてる段階だね。君達がいるからこそ、この人数でも行けるんだよ。あと、もし、とか、万が一、とか言ってるけど、そんなことを考えてるってことは、失敗するつもりはないってことじゃないのかい?」
さっきからファリスさんのツッコミが厳しいけど、確かにあたしとしては、失敗するつもりは微塵もない。
オーク・キングもオーク・クイーンも、どちらもP-Cランクモンスターだし、両方がいるのは間違いないけど、いきなり前線に出てくることはない。
だから主戦力になるのは、多分上位種のグラン・オークで、そこに希少種のジャイアント・オークが加わることになると思う。
グラン・オークはB-Uランクだけど、ハイクラスなら普通に倒せるし、そこに合金製の武器が加わるから、数以外は問題にならないと思う。
だけどジャイアント・オークは、S-Rランクモンスターではあるんだけど、5メートル近い巨体だから、ランク以上に手強い。
あたし達も何体か狩ったけど、巨体に相応しい攻撃力と防御力、耐久力を持ってるから、けっこう面倒くさい相手だわ。
それらを倒し続けていれば、痺れを切らしたキングとクイーンが出てくることになるけど、クイーンは出産のために魔力と体力を使ってるはずだから、最後の最後まで出てこない可能性もある。
「懸念があるとすれば、希少種はもちろん全体的な数が増えてることか。ホーリー・グレイブがオーク・プリンセスを倒してくれてるから、その分は増えてないのが救いでしょうね」
確かにイリスさんの言う通りだわ。
亜人のクイーンやプリンセスは、1日に何度も出産できるし、その子供は1日もかからずに成体になる。
だからクイーンやプリンセスのいる集落は、予想よりも多くの数がいても不思議じゃない。
さらに今回はキングまでいるんだから、量はもちろん質も高くなるって考えておかないと、あたし達もとんでもない被害を被ることになるわ。
なにせキングは、希少種を産ませることができるって言われてるんだからね。
「ハイクラスといえど、ジャイアント・オークを相手にするのは厳しいものがある。だが今回は、オーダーには翡翠色銀製の剣が支給されている。君達の話も聞かせてもらったが、これは相当な戦力強化になるから、ジャイアント・オークも少数で倒すことは可能だろう」
ミューズさんも話に参加してきた。
魔物によるけど、S-Rランクモンスターぐらいまでなら、ハイクラスの単独討伐は不可能じゃない。
実際、こないだ倒したスカイダイブ・シャークもS-Rランクモンスターだけど、ホーリー・グレイブのハイクラスは危なげなく倒していたからね。
だけどジャイアント・オークは巨体っていうこともあって、攻撃力も防御力も、そして耐久力もスカイダイブ・シャークより上だから、Gランクハンターでも単独討伐は厳しい。
前から思ってたことだけどモンスターズランクは曖昧なところがあるから、見直しも考えた方がいいんじゃないかしら?
「まったく、グラス・ウルフはすぐに襲ってくるな」
「これでも、数は減ってるはずなんだけどね」
そんなことを考えてたら、大和とレックスさんがグラス・ウルフを倒していた。
襲ってきたのは知ってたけど、これだけのメンツが、たかがグラス・ウルフ程度でどうにかなるワケないし、今は大和とレックスさん、クリフさんが魔物狩当番になってるから、あたし達が手を出す必要はないのよね。
「オーダーズマスター、翡翠色銀製の剣はどうですか?」
リアラがレックスさんに、翡翠色銀で打たれた剣の感想を聞いている。
「これは凄いぞ。いつもと同じ感覚で使ってしまったが、それでも魔銀だと魔力の流れに澱みが出てしまう。だがこの翡翠色銀には、それがない」
「それってかなり凄くないですか?新品の魔銀の剣でも、一度魔力を流せば、必ず澱みが出るのに」
「ああ。これが、いずれは正式に支給されることになるなんて、凄く助かるな」
レックスさんが翡翠色銀製の剣で魔物を倒したのは、これが初めてになるのか。
だけど喜んでくれて、何よりだわ。
「確か大和君、王都に行くのは5日後だったね?」
「ええ。そこで陛下やグランド・クラフターズマスターに報告することになってます。そのついでって訳じゃないけど、フォールハイト家にも挨拶に行く予定でいますが」
「それはミーナからも聞いている。父さんも母さん達も、楽しみにしてくれているだろう」
話が翡翠色銀からミーナとの結婚話になってるけど、大和からすればこっちの方が大事だし、レックスさんも無関係じゃないからこれはいいか。
「ああ、そういえば大和君はミーナと結婚するから、オーダーズマスターの義弟になるんですね。エンシェントヒューマンと縁戚関係になるなんて、貴族が羨ましがりません?」
「それはそうですが、別に狙っていた訳じゃないですよ?確かにミーナはほとんど一目惚れだったみたいですが、その頃の大和君は、まだ、というのもおかしいですけど、ハイヒューマンだったんですから」
「それは確かにそうですけど、でもオーダーズマスター、ミーナが大和君に一目惚れしてたことなんて、婚約の挨拶をされるまで気付いてませんでしたよね?」
「そ、それもそうなんですが……」
エレナさんにツッコまれて、挙動不審になるオーダーズマスター。
だけどそれを言ったら、大和だって人の事は言えないのよね。
あたしもだけど、ミーナやフラムの気持ちにも気付いてなかったし、リカさんの時だってそう。
ユーリは最初から好意を隠そうともしてなかったから、これで気付かなかったらどうかしてるし、内定も出てるようなものだから、さすがに受け入れるつもりになってるみたいだけど。
「大和君か。レベル67のエンシェントヒューマンでPランクハンター。聞いた話だが、フィールを救った功績の褒賞として騎爵位を賜り、ユーリアナ殿下との婚姻も視野に入っているとか」
「そうなのかい?騎爵位もだけど、お姫様と結婚なんて、凄いじゃないか」
ミューズさんはフィールのオーダーじゃないのに、もうそこまで知ってるのね。
大方、グラム辺りが喋ったんだろうけど。
「騎爵位はともかく、ユーリとの結婚はまだ決定じゃないけどね。そっちはもう受け入れるつもりになってるけど、大和からすると騎爵位の方が気になってるみたい」
「なぜだ……っと、そういうことか。確かに、それは気になるだろうな」
「どういうことだい?」
オーダーのミューズさんはすぐにその理由がわかったみたいだけど、ファリスさんはハンターだから、すぐには思い至らないみたい。
「ファリスが知らないのは無理もないか。ファリス、オーダーズランクだがな、どうやってランクアップできるか知っているか?」
「Cランクがレベル21、Bランクがレベル31、Sランクがハイクラス、Gランクが騎爵位だろう?」
それは有名だから、オーダーでなくても知ってる人は多い。
オーダーズランクは、ギルドに登録するとTランク、1年経つとIランクになるけど、ここまでは従騎士扱いだから、オーダーズギルドに登録していてもオーダーと名乗ることはできない。
レベル21になると晴れてCランクに昇格し、正式にオーダーを名乗れるようになる。
そしてレベル31になると、一番多いと言われているBランクオーダーに昇格するけど、その先はハイクラスに進化していることが前提。
ハイクラスに進化するとSランクに昇格するけど、さすがに条件が厳しいから、人数は各支部で数人らしいわ。
だからほとんどの人はここで足踏みをするんだけど、騎爵位を賜ることができた人は、一足飛びにGランクに昇格できるそうよ。
近衛騎士に該当するロイヤル・オーダーに任命されると、Pランクオーダーに昇格する。
ロイヤル・オーダーは全てハイクラスだから、王家の守りは固いわよ。
確かサブ・オーダーズマスターも、Pランクだって聞いた覚えがあるわ。
Mランクオーダーはオーダーズマスターに任命されると昇格するんだけど、そこからロイヤルオーダーになったとしても、ランクダウンすることはないって聞いてるわ。
そしてその先のAランクオーダーは、現在はグランド・オーダーズマスターしかいない。
天騎士っていう称号を陛下から賜らないといけない上に、代々のグランド・オーダーズマスター以外が天騎士になったっていう話はほとんど聞かないから、現在はグランド・オーダーズマスターを指すランクになってると言ってもいいかもしれない。
そして最高位のOランクオーダーは、エンシェントクラスに進化していることが条件。
エンシェントオーダーなんて、過去を紐解いても数人ぐらいしかいなかったから、当たり前だけど現在は誰もいない。
騎爵位はオーダーの称号みたいなものだから、大和が騎爵位を賜るってことは、オーダーズギルドにも登録するということになる。
だけど大和はハンターだから、外部協力者扱いのアウトサイド・オーダーってことになるんだけど、緊急時以外はハンターを続けられるし騎士魔法も使うことができるから、大和は興味があるみたいなの。
そうなると、普通なら大和はGランクオーダーということになるんだけど、既にエンシェントヒューマンに進化しているわけだから、Oランクオーダーの条件も満たしてしまうことになる。
Gランクオーダーがオーダーズマスターに任命されると、Pランクを飛ばしてMランクに昇格するし、Tランクの期間中にレベル21、あるいは31を超えると、Iランクを飛ばしてCランク、Bランクに昇格できるから、既にエンシェントヒューマンに進化している大和は、Oランクオーダーになってしまう可能性も十分あり得る話なのよ。
「なるほど、オーダーズランクってそうなってたんだね」
「そういうワケだから、大和がOランクオーダーになるか、それとも騎爵位のGランクオーダーになるかは、陛下がお決めになられることになるでしょうね」
「それは陛下にとってもオーダーにとっても、頭の痛い話だね」
でしょうね。
OランクオーダーになれるところをGランクオーダーでって希望してるんだし、そもそもの話条件を満たしてるってだけだから、素直にOランクオーダーになれるって決まったワケでもない。
あ、もしかしてOランクオーダーって、天騎士の称号も必須なのかも。
オーダーズランクの最高位なんだし、エンシェントクラスと天騎士の両方が必要でもおかしくはないわ。
だけど決めるのは国王陛下なんだし、どうなるかはその時でもいい気もするわね。
「時間だ。次はプリムさん、ファリスさん、ミューズさん、エレナさんだな」
おっと、もう交代の時間ね。
あたし達は魔物を警戒していた大和、レックスさん、クリフさん、ダートと交代するために、イークイッピングを使って装備を身に着けた。
ステータリングのオペレーターを使えば無詠唱で装着出来るから、言い間違える恐れが無いっていうのもありがたいわ。
「それにしても便利だね、このイークイッピングっていう魔法は」
「同感です。魔銀製とはいえ鎧は重いですし、何より一度外すと着けるのが面倒ですから行軍時は着けっぱなしが普通でしたけど、イークイッピングは瞬時に着脱できますから、使わない時はストレージにしまっておけますし、そのおかげでバトル・ホースの負担も減らせます」
ミューズさんの呟きに、エレナさんが賛同する。
武器や盾を取り出すだけならストレージングでも十分なんだけど、鎧ともなるとそうはいかない。
なにせ鎧は簡単に外せないし、一度外せばすぐには着けられないんだから。
だけどイークイッピングを使えば、そんな手間はかからなくなるどころか一瞬で着脱できるようになるから、行軍中でも鎧を外しておけるし、休憩中でも身軽な恰好で過ごせる。
体力の消耗も抑えられるから、この魔法を使うメリットは大きいわ。
ハイクラスのフィジカリングなら、そこまで体力は消耗しないんだけどね。
Side・大和
現在時刻は夜の7時半過ぎ。
襲ってきた魔物はいるが、ゴブリンやグラス・ウルフ、グラス・ボア、フォレスト・ビーぐらいだったから、アライアンスの前じゃ鎧袖一触だったな。
そんなこんなで夜営に適している場所を見つけ、飯も食い終わったのがついさっきだ。
晩飯はトレーダーズギルドが用意してくれた、ブルーレイク・ブルの赤ワイン煮込みだった。
ワインは高級品だから、そのワインを使った煮込み料理なんて異世界にはないと思ってたんだが、これも客人が持ち込んだ料理だと知って、思わず納得しちまったよ。
あ、肉は柔らかくて、すげえ美味かったぞ。
「見張りだが3人ずつ、5組に分けるべきだと思う」
「その理由は?」
「人数がいて、しかも全員が一騎当千の強者揃いだってこともあるけど、明日はオークの集落に攻撃を仕掛けるんだ。休める時間は少しでも長い方がいい」
アライアンスのリーダーを務めるレックスさんが、ハンター側のリーダーであるファリスさんに、見張りの振り分けを相談している。
さりげなく俺の夜営経験は1回しかなく、それもプリムと2人でだったから、夜営の見張りをどうしたらいいのかはわからない。
分けるだけならできるかもしれないが、バランスよくってのは無理だろうな。
「なるほど、確かにそうだ。では8時から見張りを始めるとして、2時間交代だとしても6時までは時間があるな」
「長すぎる気もしないでもないけど、朝一で強襲を仕掛けるワケじゃないし、一度大和君とプリムちゃんに空からの偵察も頼むべきだから、攻撃は昼を食べてからがいいと思う。少し早めに食べて、オーク達が食事をする前に、っていうのがベストじゃないかな?」
当然ではあるが、亜人も飯を食う。
マイライトは木の実も豊富だし魔物も多いから、食うには困らない。
そして亜人の食性だが、人間と同じように、1日3食食べることがわかっている。
さらに人間は、多少の時間のズレは許容範囲だし、場合によっては食わないこともあるんだが、亜人は必ず決まった時間に食べるらしいから、人間より時間にしっかりしているかもしれない。
単に生態って言われてしまえば、それまでなんだが。
「それでいきましょう。では見張りの振り分けですが、ファリスさんの案は?」
「慣れてる者同士ってのが一番良いんだけど、夜半の襲撃も覚悟しておかないといけない。幸いにもアライアンスだから多少の魔物は問題にならないから、どの時間帯にするかはくじか何かで決めてもいいんじゃないかな?」
その意見には、俺も賛成だな。
真ん中に当たっても、それなりに眠れるから、明日まで疲れを持ち越すようなことにはならないだろうし。
「慣れてる者同士となると、レイドやオーダー同士となりますが、そうなるとウイング・クレストは2人ですから、問題になりませんか?」
「そうなんだけど、逆にこの2人は分けた方が良い気もするんだよね。戦力が過剰すぎる」
自分で思うのも何だが、それは否定できない。
「私の案としては、バークス、サリナ、クラリス組、ミューズ、リアラ、ダート組、グラム、イリス、カルディナ組、オーダーズマスター、エレナ、プリムちゃん組、そして私、クリフ、大和君って考えてるんだ。私達は5人だしウイング・クレストは2人だから、どう分けてもオーダーと組むことになるからね」
確かにそうなんだよな。
俺とプリムが同じ組になった場合、ファリスさんとクリフさんのとこにもオーダーが1人ずつ入ることになるけど、俺達はともかくファリスさん達はフィールにきたばかりだから、オーダーとの面識はあまりない。
見張りで諍いが起こることはないだろうが絶対じゃないし、心が休まらない可能性もあるから、気心が知れた者同士っていうのが一番良いのはわかるな。
「確かに。では、振り分けはそれでいきましょう。後は順番ですが、ここはやはりくじですか?」
「それが公平だと思うよ。本音を言えば、大和君とプリムちゃんは主力だからゆっくりと休んでもらいたいんだけど、そうなると私やオーダーズマスターもってことになるから、公平性には欠けてしまうし」
気を遣ってくれるのはありがたいけど、体力は有り余ってますから、睡眠時間が多少短くなったところで特に問題はないですよ?
ちなみにくじの結果、最初はグラム、イリスさん、カルディナさんの組になり、次がプリムとレックスさん、エレナさん、その次が俺、ファリスさん、クリフさん組、次がバークスさん、サリナさん、クラリスさん組、最後がミューズさん、リアラ、ダート組となった。
くじを引いたのは俺なんだが、我ながらくじ運悪いな。
「順番も決まったし、寝る準備をしようか」
「ですね。すいません、ファリスさん、クリフさん」
「気にしないでいいよ。これでも普段に比べたら、全然楽なんだから」
ファリスさんもクリフさんも、寝ずの番をやったことが何度かあるらしいから、この程度なら何も問題はないそうだ。
それもそれでキツいな。
「っと、獣車を出さないとな」
「お願い。初使用が、こんなことになるとは思わなかったけど」
それは同感だな。
ジェイドとフロライトに引いてもらうことを考えてたんだが、そんなことはせずに宿代わりにしようってんだから、獣車の使い方としては間違ってる気もしなくもないが。
「素敵な獣車ね。だけどヒポグリフがまだ大きくなるって聞いてるけど、これじゃこの仔達が入れないんじゃないの」
クラリスさんが褒めてくれたように、獣車の外装は貴族が使ってる物と比べても遜色がない。
だけど心配してくれるのもわかる。
高さこそ車輪を含めて2.5メートル程だが、それでもジェイドやフロライトが入るのは難しいからな。
「そこはちゃんと考えてて、ここに収納してあるドアを引き出して使うんですよ」
「なるほどね」
だから収納してあるドアが、ワンタッチで展開して開くようになっている。
ジェイドやフロライトどころか、エビル・ドレイクですら入れる大きさがあるからな。
「この獣車、昨日完成したばかりなんですよ。ジェイドに引いてもらってもよかったんだけど、そうするとフロライトが拗ねるんで、今日は宿代わりですね」
「高かったんじゃねえのか?」
「それなりには」
「それなりじゃ、こんな凄い獣車は作れないわよ?絶対に神金貨飛んでるでしょ?」
バークスさんとサリナさんに値段をツッコまれたが、仰る通り飛びました。
あんまり妥協しなかったからな。
「これだけ大きいと、アライアンス全員を乗せても問題なかったんじゃない?」
「そう思いますけど、初乗りはユニオンでって決めてるんで」
「これだけの獣車なんだし、それはわからないでもないわね」
確かにサリナさんの言う通り、アライアンスの15人を全員乗せても大丈夫だったろうし、道中の安全を考えると、そうした方が良かったはずだ。
後方は普通の獣車と同じく死角があるが、対策としてミラーリングを付与させた鏡を付けてある。
車のバックミラーとか、サイドミラーみたいな感じだな。
これもミラーリング付与だが、こっちは収納目的じゃなく鏡目的だ。
御者席に座って魔力を流さない限り何も写さないから、常時鏡になってる訳じゃないってのも便利だ。
太陽の反射光はかなり眩しいから、ジェイドやフロライトが驚くかもしれないしな。
「それじゃ、交代まで寝るか」
「そうね。くじ運悪かったみたいだし、慰めてあげるわ」
獣車に入ると、プリムがそんなことを言ってきた。
寝室は一緒だから、当然寝るのも一緒なんだが、プリムと2人きりっていうのは、実は初めてだったりする。
初夜はプリムの実母で俺の義母になるアプリコットさんが手ほどきっていう名目で乱入してきたし、その次の日にはミーナと、さらに次の日にはフラムと婚約したから仕方ないんだが。
2時間後にはプリムが見張り当番だし、明日のこともあるから、今日は少し控えめにしておこう。
俺はプリムと一緒に風呂に入ってから寝室に行き、初めて2人っきりで過ごした。
すごく甘えてきたプリムだが、時間になると寂しそうな顔をして見張りに行ってしまった。
俺としても残念だったから、機会があれば、また2人で過ごしたいもんだ。




